第339話 紅葉月の収支
消息は。
時に、静かに、姿を、見せる。
――それは。
劇的な、瞬間ではなく。
ただ、静かな、報告として。
届くことが、多い。
紅葉月、一日。
評議会の間。
ゴルフが、帳簿を、広げる。
「今月の、収支報告です」
──────────────────────────────────────
「収入は」
ゴルフが、順に、読み上げていく。
「安定して、推移しています」
「支出も」
「例年通りです」
バルドが、資料に、目を、通した。
「今月の、増減は」
「+116枚」
ゴルフが、答える。
「所持金、金貨4654枚と、なります」
──────────────────────────────────────
ドガンが、腕を、組んだまま、頷いた。
「安定した、数字だ」
「南方の、後始末も」
「一段落、してきている」
──────────────────────────────────────
ミルヴァが、静かに、口を、開いた。
「一つ」
「報告が、ある」
全員の、視線が、集まった。
──────────────────────────────────────
「セドリックの」
「消息が」
「掴めた」
その、言葉に。
評議会の間が、一気に、静まり返った。
──────────────────────────────────────
「生きて、いる」
ミルヴァが、続けた。
「王都から」
「離れた」
「小さな、町で」
「別の、名前を、使って」
「暮らしている、ところを」
「確認した」
──────────────────────────────────────
バルドが、思わず、尋ねる。
「接触は」
「していない」
ミルヴァは、首を、横に、振った。
「様子を」
「見ているだけだ」
「彼が」
「今も」
「監視されている、可能性が」
「ある」
──────────────────────────────────────
ヒコが、静かに、尋ねた。
「彼の、様子は」
「どう、でしたか」
ミルヴァは、少し、間を、置いた。
「痩せていた」
「以前より」
「随分と」
「それに」
「常に」
「周囲を、気にしている」
「そういう、報告だった」
──────────────────────────────────────
マユミが、僅かに、目を、伏せた。
「怯えて」
「暮らしている、ってこと」
「おそらく」
ミルヴァは、頷いた。
──────────────────────────────────────
「背後の、組織については」
ミルヴァは、慎重に、続けた。
「まだ」
「輪郭が」
「見えない」
「彼が」
「今も」
「その、組織と」
「繋がっているのか」
「それとも」
「既に」
「切り離されて」
「いるのか」
「そこも」
「分からない」
──────────────────────────────────────
ヒコは、しばらく、考えていた。
「彼を」
「保護することは」
「できませんか」
ミルヴァは、慎重に、答えた。
「できなくは、ない」
「だが」
「性急に、動けば」
「彼を」
「さらに」
「危険な、立場に」
「追い込む、かもしれない」
「今は」
「見守るのが」
「最善だと」
「思う」
──────────────────────────────────────
ヒコは、静かに、頷いた。
「分かりました」
「引き続き」
「お願いします」
「ああ」
ミルヴァが、答えた。
──────────────────────────────────────
会議の後。
マユミが、一人、窓の外を、見ていた。
ヒコが、隣に、立つ。
「大丈夫、ですか」
「うん」
マユミは、小さく、頷いた。
「セドリックさんが」
「生きていて」
「良かった」
「それだけで」
「今は」
「十分」
──────────────────────────────────────
マユミは、続けた。
「父の、時も」
「そうだった」
「生きていることが」
「分かるだけで」
「少しだけ」
「息が、できるように」
「なる」
──────────────────────────────────────
ヒコは、静かに、頷いた。
「彼が」
「安心して」
「戻ってこられる、日が」
「来るといいですね」
「うん」
マユミは、遠くを、見つめたまま、呟いた。
「その日が」
「来るまで」
「見守る」
──────────────────────────────────────
ヒコは、《可視化》で、遠く、王都の、方角を、見つめた。
その、奥に。
まだ、見えない、小さな町が、ある。
そこで、一人。
息を、潜めている、誰かが、いる。
その、事実だけが。
静かに、ヒコの、胸に、刻まれた。
──────────────────────────────────────
消息は、時に、静かに、姿を、見せる。
それは、劇的な、瞬間ではなく。
ただ、静かな、報告として、届く。
だが。
その、静けさの、奥には。
まだ、多くの、見えないものが、残っていた。
そして。
その、見えないものに。
どう、向き合うのか。
ヒコは、まだ、決めていなかった。
第339話 紅葉月の収支 了
【次回予告】循環への移行。
積み上げてきたものを、次の形へ、渡す時が、来る。
──────────────────────────────────────
【領地収支・紅葉月一日時点】
・所持金:金貨4654枚(+116)
収入内訳
・冒険者固定給 金貨 42枚
・勲爵士給与 金貨 12枚
・外部取引 金貨 104枚
・ギルド収益 金貨 55枚
合計 金貨 213枚
支出内訳
・幹部級給与 金貨 24枚
・準幹部級給与 金貨 9枚
・一般職給与 金貨 40枚
・部門運営費 金貨 24枚
合計 金貨 97枚
──────────────────────────────────────
【発展進捗・紅葉月一日時点】
・防衛:122%(変動なし)
・食料:101%(変動なし)
・水 :100%(変動なし)
・住居:90%(変動なし)
・インフラ:105%(変動なし)




