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 第338話 観測者の輪郭

 踏み込んだ言葉には。


 それだけの、覚悟が、宿る。


 ――だから。


 その、言葉を、受け取る側にも。


 同じだけの、覚悟が、要る。

 執務室。


 バルドが、書状を、手に、入ってきた。


「ハイム子爵から」


「面会の、申し入れです」


 ヒコは、少し、意外そうな、顔を、した。


「また、ですか」


「はい」


 バルドが、頷く。


「今回は」


「何か」


「急いでいる、様子だったと」


「使いの者が」


「言っていました」


──────────────────────────────────────


 数日後。


 ハイム子爵が、フォルテス領を、訪れた。


 いつも通り、静かな、足取りで、応接間へ、入ってくる。


 だが。


 その、表情には。


 いつもとは、違う、何かが、あった。


──────────────────────────────────────


「お招き、感謝します」


 ヒコが、席を、勧める。


「今日は」


「何用でしょうか」


 ハイムは、ゆっくりと、腰を、下ろした。


 しばらく、何も、言わなかった。


 やがて。


 静かに、口を、開く。


「単刀直入に」


「申し上げます」


──────────────────────────────────────


 ヒコは、僅かに、身構えた。


 ハイムが、こうして、前置きなく、切り出すのは。


 初めての、ことだった。


──────────────────────────────────────


「あなたが」


 ハイムは、ヒコを、まっすぐに、見た。


「この地に」


「留まり続ける限り」


「狙われ続けます」


──────────────────────────────────────


 執務室の、空気が、変わった。


 バルドが、思わず、息を、呑む。


──────────────────────────────────────


「それは」


 ハイムは、続けた。


「あなたも」


「もう」


「分かっているはずです」


──────────────────────────────────────


 ヒコは、しばらく、言葉を、探した。


「ハイム子爵」


「それは」


「私に対する」


「警告、ですか」


「それとも」


──────────────────────────────────────


 ハイムは、僅かに、目を、伏せた。


「どちらとも」


「言えます」


「私は」


「あなたに」


「危険を、知らせたい」


「同時に」


「あなたが」


「何を、選ぶのか」


「見たい、とも」


「思っています」


──────────────────────────────────────


「観測者、として」


 ヒコが、静かに、尋ねた。


「そうです」


 ハイムは、頷いた。


「ですが」


「今回は」


「観測するだけでは」


「済まされない」


「そう、感じています」


──────────────────────────────────────


 ヒコは、しばらく、考えていた。


「あなたが」


「そこまで、踏み込んだ、言葉を」


「口にするのは」


「珍しいですね」


 ハイムは、静かに、答えた。


「珍しいことは」


「私も」


「分かっています」


「ですが」


「今、伝えなければ」


「手遅れに、なるかもしれない」


「そう、思いました」


──────────────────────────────────────


「あなたが」


 ハイムは、続けた。


「南方廃址で」


「経験した、こと」


「弾劾請求」


「そして」


「これから、起こりうる、こと」


「その、全てが」


「あなたが」


「この地の」


「象徴で、あり続ける限り」


「続きます」


──────────────────────────────────────


 ヒコは、静かに、尋ねた。


「これから、起こりうる、こと」


「とは」


 ハイムは、しばらく、黙っていた。


 やがて。


 慎重に、言葉を、選ぶように、答えた。


「私は」


「まだ」


「多くを」


「語れません」


「ですが」


──────────────────────────────────────


「あなたに、向けられている、目は」


「一つでは、ない」


「ということだけは」


「お伝えして、おきます」


──────────────────────────────────────


 ヒコは、その、言葉を、静かに、受け止めた。


「教えてください」


「ハイム子爵は」


「なぜ」


「そこまで」


「私に」


「知らせようと」


「するのですか」


──────────────────────────────────────


 ハイムは、しばらく、答えなかった。


 やがて、静かに、言う。


「私は」


「長く」


「観測を、続けてきました」


「関わらず」


「動かず」


「ただ」


「見ることだけを」


「役目だと」


「思っていました」


──────────────────────────────────────


「でも」


 ハイムは、続けた。


「あなたを」


「見ていて」


「気づいたことが」


「あります」


「何を」


「あなたは」


「観測するだけの、対象では」


「なくなりつつある」


「そう」


「思うように」


「なりました」


──────────────────────────────────────


 ヒコは、しばらく、その、言葉を、噛み締めた。


「それは」


「私にとって」


「良いことなのか」


「悪いことなのか」


「私には」


「分かりません」


 ハイムは、正直に、答えた。


「ただ」


「観測者で、あり続けることが」


「できなくなりつつある」


「その、事実だけは」


「確かです」


──────────────────────────────────────


 ハイムが、席を、立とうとした。


 その時。


 ヒコが、もう一つ、尋ねた。


「ハイム子爵」


「もし」


「私が」


「この地を」


「離れたら」


「あなたは」


「どう、思いますか」


──────────────────────────────────────


 ハイムは、扉の前で、立ち止まった。


 振り返らないまま、答える。


「それは」


「私が」


「決めることでは、ありません」


「ですが」


「一つだけ」


「言えることが」


「あります」


──────────────────────────────────────


「あなたが」


「どこにいても」


「観測は」


「続きます」


「それが」


「私の」


「役目ですから」


──────────────────────────────────────


 ハイムが、去った後。


 バルドが、深く、息を、吐いた。


「今のは」


「本当に」


「珍しい、ことでした」


 ヒコも、頷いた。


「はい」


「あそこまで」


「はっきりと」


「言われたのは」


「初めてです」


──────────────────────────────────────


 ヒコは、《可視化》で、遠ざかる、馬車を、見送った。


 ハイムを、取り巻く、流れは。


 依然として、深い、霧のようだった。


 だが。


 その、霧の、奥に。


 確かな、何かの、輪郭が。


 ほんの、僅かに。


 浮かび上がった、ように、見えた。


──────────────────────────────────────


 踏み込んだ言葉には。


 それだけの、覚悟が、宿る。


 ハイムの、言葉は。


 ヒコの、心の、奥に。


 静かに。


 そして、深く。


 突き刺さっていた。


 それは。


 警告なのか。


 忠告なのか。


 あるいは。


 観測者自身の、決断なのか。


 まだ、ヒコには、分からなかった。


 第338話 観測者の輪郭 了

【次回予告】紅葉月の収支。

 消息は、時に、静かに、姿を、見せる。


──────────────────────────────────────


【領地収支・第338話時点】


・所持金:金貨4538枚(変動なし)


──────────────────────────────────────


【発展進捗・第338話時点】


・防衛:122%(変動なし)

・食料:101%(変動なし)

・水 :100%(変動なし)

・住居:90%(変動なし)

・インフラ:105%(変動なし)

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