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 第334話 帰還

 帰る場所が、あるということは。


 それだけで、力になる。


 ――遠くまで、行けば、行くほど。


 その、ありがたさは。


 深く、身に、染みていく。

 フォルテス領。


 街道の、向こうに。


 見慣れた、城壁が、見えてきた。


 荷馬車の、列が。


 ゆっくりと、城門へ、近づいていく。


──────────────────────────────────────


 門の前には。


 評議会の、面々が、集まっていた。


 バルド。


 ドガン。


 ミルヴァ。


 ガデル。


 アーヴィン。


 リア。


 そして、領地を、支えてきた、多くの者たち。


──────────────────────────────────────


「戻りました」


 ヒコが、馬車を、降りて、告げた。


 その、一言に。


 門の前に、張り詰めていた、空気が。


 静かに、ほどけた。


──────────────────────────────────────


 バルドが、真っ先に、歩み寄る。


「お帰りなさいませ」


「ご無事で」


「何よりです」


 その声には。


 隠しきれない、安堵が、滲んでいた。


──────────────────────────────────────


 ドガンも、いつになく、柔らかな、表情で、頷いた。


「よく、帰ってきた」


「留守は」


「問題なかったと、聞いています」


「バルドさんと、ドガンさんの、おかげです」


 ヒコは、静かに、頭を、下げた。


「安心して、南方へ、向かうことが、できました」


──────────────────────────────────────


 荷馬車から。


 ゼドが、ゆっくりと、降りてくる。


 まだ、本調子ではない。


 それでも。


 自分の、足で、立っていた。


──────────────────────────────────────


 ガデルが、すぐに、駆け寄り。


 その、肩を、支えた。


「無事で、何よりだ」


「心配、かけたな」


 ゼドが、小さく、笑う。


「ああ」


「本当に、心配した」


──────────────────────────────────────


 サヤも。


 コリンに、支えられながら、馬車を、降りた。


 視界は、まだ、完全ではない。


 それでも。


 南方へ、向かう前より。


 随分と、はっきりしてきていた。


──────────────────────────────────────


「サヤさん」


 リアが、駆け寄る。


「大丈夫、ですか」


「はい」


 サヤは、頷いた。


「だいぶ」


「見えるように」


「なってきました」


「それなら、良かったです」


 リアの、表情が。


 ようやく、緩んだ。


──────────────────────────────────────


 アーヴィンは。


 少し、離れた場所から。


 何も、言わずに、頷いていた。


 多くを、語らない。


 だが、その、目には。


 確かな、安堵が、浮かんでいた。


──────────────────────────────────────


 カインも。


 包帯の、取れた、肩を。


 軽く、回した。


「ただいま、戻りました」


 トマが、近づく。


「お疲れ様でした」


「留守の間」


「変わりは、ありませんでしたか」


「ありません」


 トマが、頷いた。


「順調でした」


「そうか」


 カインが、小さく、笑った。


「それなら、良かった」


──────────────────────────────────────


 ミルヴァが、ヒコに、近づく。


「セドリックの、方は」


「まだ、動きなしです」


「そうか」


 ヒコは、静かに、頷いた。


「引き続き」


「頼みます」


「ああ」


──────────────────────────────────────


 街を、歩きながら。


 ヒコは、見慣れた、景色を。


 《可視化》で、確かめた。


 人の、流れ。


 物の、流れ。


 情報の、流れ。


 どれも。


 南方へ、向かう前と。


 大きくは、変わっていない。


──────────────────────────────────────


 その、変わらなさが。


 今は、何よりも、ありがたかった。


 誰かが、いなくても。


 誰かが、遠くへ、行っても。


 日常は、続いている。


 それは。


 この地に、仕組みが。


 根付き始めている、証だった。


──────────────────────────────────────


 夜。


 執務室。


 ヒコと、マユミは。


 二人で、窓の外を、眺めていた。


「帰ってきた、実感」


 マユミが、呟く。


「湧いてきた?」


「はい」


 ヒコは、頷いた。


「不思議なものです」


「あの、廃址に、いる時は」


「ここが」


「とても、遠くに」


「感じていました」


──────────────────────────────────────


「でも」


 ヒコは、続けた。


「戻ってきたら」


「あの、廃址での、出来事が」


「まるで」


「別の、世界の、ことのように」


「感じます」


──────────────────────────────────────


 マユミが、小さく、笑った。


「それが」


「帰る場所が、あるってことなんじゃない?」


 ヒコも、頷いた。


「そうですね」


「帰ってこられる場所が、ある」


「それだけで」


「人は、前へ、進めるのかもしれません」


──────────────────────────────────────


 だが。


 穏やかな、時間の中でも。


 ヒコの、心の、奥には。


 消えない、問いが、残っていた。


 届かない敵。


 ゼドの、内なる、変化。


 中央評議会の、不透明な、動き。


 そして。


 南方廃址に、残された。


 外部からの、干渉の、痕跡。


──────────────────────────────────────


 まだ。


 答えは、ない。


 それでも。


 ヒコは、もう。


 目の前だけを、見るつもりは、なかった。


──────────────────────────────────────


 帰る場所が、あるということは。


 それだけで、力になる。


 だが。


 力は、帰ってくるためだけに。


 あるのではない。


 守るために。


 そして。


 次へ、進むために、ある。


──────────────────────────────────────


 ヒコは、窓の外を、見つめた。


 そこには。


 いつもと、変わらない。


 フォルテス領の、夜が、広がっている。


──────────────────────────────────────


 帰還は。


 終わりでは、なかった。


 ここから。


 また、始まる。


 守るべき場所へ、帰ってきた。


 だからこそ。


 次は。


 この場所から。


 もっと、遠くを、見なければならない。


 第334話 帰還 了

【次回予告】雷鳴月末・分水嶺。

 一年は、いつも、真ん中で、静かに、色を、変える。


──────────────────────────────────────


【領地収支・第334話時点】


・所持金:金貨4420枚(変動なし)


──────────────────────────────────────


【発展進捗・第334話時点】


・防衛:122%(変動なし)

・食料:101%(変動なし)

・水 :100%(変動なし)

・住居:90%(変動なし)

・インフラ:105%(変動なし)

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