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 第333話 届かない敵

 押し返せる敵と。


 届かない敵は、違う。


 ――押し返せる敵には。


 形が、ある。


 だが、届かない敵には。


 輪郭すら、掴めない。

 南方廃址。


 野営地。


 ヒコは、フォルテス領へ、戻る準備を、進めていた。


 ゼドの、容体は、日に日に、安定している。


 サヤの、視界も、少しずつ、回復の、兆しを、見せていた。


──────────────────────────────────────


 早馬から、届いた、報告書を。


 ヒコは、何度も、読み返していた。


 弾劾請求、保留。


 中央評議会からの、視察の、噂。


 どちらも、決定的な、情報ではない。


 だが。


 ヒコには、その二つが。


 妙に、気になっていた。


──────────────────────────────────────


 マユミが、隣に、腰を、下ろした。


「難しい、顔」


「はい」


 ヒコは、正直に、答えた。


「これまで」


「ヴァルク男爵の、圧力に」


「対応してきました」


「噂」


「引き抜き」


「監査要求」


「そして」


「弾劾請求」


「一つずつ」


「押し返してきました」


──────────────────────────────────────


「でも」


 ヒコは、報告書を、見つめたまま、続けた。


「押し返しても」


「また、別の、問題が、出てくる」


「それを」


「また、押し返す」


「その、繰り返しです」


──────────────────────────────────────


 マユミが、静かに、尋ねた。


「ヴァルク男爵は」


「駒に過ぎない、って」


「言ってたよね」


「はい」


 ヒコは、頷いた。


「ヴァルク男爵は」


「押し返せます」


「事実を、積み重ねれば」


「対応できる」


「相手です」


「でも」


──────────────────────────────────────


 ヒコは、一拍、置いた。


「その、向こうにいる、誰かには」


「まだ」


「指一本」


「届いていません」


──────────────────────────────────────


 その言葉に。


 マユミは、しばらく、黙っていた。


 やがて、静かに、言う。


「怖い、こと言うね」


「はい」


 ヒコは、頷いた。


「でも」


「今までより」


「その、可能性を」


「強く、感じています」


──────────────────────────────────────


 ヒコは、南方廃址の、方角を、見やった。


 防衛機構の、暴走。


 外部からの、干渉の、痕跡。


 王都で、保留となった、弾劾請求。


 そして。


 中央評議会からの、視察の、噂。


 どれも、単独で見れば。


 別々の、出来事に、見える。


 だが。


 それぞれの、背後に。


 同じ、流れが、あるような、気がしていた。


──────────────────────────────────────


「私は」


 ヒコは、静かに、呟いた。


「目の前ばかり」


「見ていたのかもしれません」


──────────────────────────────────────


 マユミが、ヒコを、見た。


「どういう、意味?」


「ヴァルク男爵の、圧力」


「情報流出」


「弾劾請求」


「目の前に、現れる、問題に」


「一つずつ」


「対応してきました」


「それ自体は」


「間違いでは、ありません」


──────────────────────────────────────


「でも」


 ヒコは、続けた。


「その、問題の、向こうで」


「別の、何かが」


「動いている」


「そう、感じていながら」


「私は」


「目の前の、対応に」


「追われていました」


──────────────────────────────────────


 マユミは、しばらく、考えていた。


「それは」


「仕方ない、ことじゃない?」


「目の前の、問題を」


「放って、おけないもの」


「そうです」


 ヒコは、頷いた。


「だからこそ」


「難しいんです」


──────────────────────────────────────


「目の前の、問題を」


「解決することは、できる」


「でも」


「それだけでは」


「次の、問題を」


「防げない」


──────────────────────────────────────


 ヒコは、報告書を、静かに、閉じた。


「南方の、暴走」


「弾劾請求」


「セドリックの、消息」


「そして」


「中央評議会の、動き」


「一つ一つは」


「別々の、問題に」


「見えます」


「でも」


「もし」


「その、いくつかが」


「どこかで、繋がっているのなら」


「私たちは」


「今までとは」


「違う、見方を」


「しなければ、なりません」


──────────────────────────────────────


 マユミは、しばらく、黙っていた。


 やがて、ヒコの、手を、そっと、握った。


「じゃあ」


「これから、どうする?」


 ヒコは、その、手を、握り返した。


「もっと、遠くまで」


「見ます」


──────────────────────────────────────


「《可視化》で?」


「それだけでは」


 ヒコは、首を、横に、振った。


「私一人の、目では」


「足りません」


「一人では」


「見える範囲に」


「限界が、あります」


──────────────────────────────────────


 マユミが、少し、笑った。


「今更?」


「今更、です」


 ヒコも、小さく、笑った。


「でも」


「気づかないより」


「ずっと、いい」


──────────────────────────────────────


 その夜。


 ヒコは、《可視化》で、遠く、王都の、方角を、見つめた。


 太い、流れは、まだ、そこに、ある。


 人。


 情報。


 物。


 それらが、複雑に、交差している。


 だが。


 その、さらに、奥にあるものは。


 依然として、見えなかった。


──────────────────────────────────────


 見えない。


 だからこそ。


 見なければ、ならない。


 ヒコは、そう、思った。


 だが。


 そのためには。


 自分一人で、すべてを、見る必要は、ない。


 むしろ。


 一人では、見えないものを。


 皆で、見る。


──────────────────────────────────────


 押し返せる敵と、届かない敵は、違う。


 押し返せる敵には、形が、ある。


 だが、届かない敵には。


 輪郭すら、掴めない。


 その、届かなさに。


 ヒコは、初めて。


 明確な、焦燥を、覚えていた。


 だが、その、焦燥は。


 ただの、不安では、なかった。


 もっと、広く。


 もっと、遠く。


 そして。


 一人ではなく。


 皆で、見る。


 その、必要性を。


 ヒコに、気づかせるものだった。


 第333話 届かない敵 了

【次回予告】帰還。

 帰る場所が、あるということは、それだけで、力になる。


──────────────────────────────────────


【領地収支・第333話時点】


・所持金:金貨4420枚(変動なし)


──────────────────────────────────────


【発展進捗・第333話時点】


・防衛:122%(変動なし)

・食料:101%(変動なし)

・水 :100%(変動なし)

・住居:90%(変動なし)

・インフラ:105%(変動なし)

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