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 第325話 届いた報せ

 言葉にならない報せほど。


 速く、届く。


 ――それは。


 伝える者の焦りが。


 言葉の隙間から、滲み出るからだ。

 評議会の間。


 いつもの穏やかな時間が、流れていた。


 その静けさを破ったのは。


 扉を叩く、激しい音だった。


──────────────────────────────────────


 衛兵が、息を切らして駆け込んでくる。


「南方から」


「緊急の早馬が」


 その一言だけで。


 評議会の空気が、一変した。


──────────────────────────────────────


 早馬の騎士が、よろめきながら、評議会の間へ入ってきた。


 全身、埃と汗にまみれている。


 休まず駆け通してきたことは、一目で分かった。


「報告、いたします」


 騎士の声が、震えていた。


「南方廃址にて」


「防衛機構の暴走が」


「発生しました」


──────────────────────────────────────


 バルドが、すぐに詰め寄る。


「怪我人は」


「無事なのは」


 騎士は、一つずつ、答えていく。


「カイン様は」


「軽傷です」


「ですが」


 騎士は、一拍、置いた。


「ゼド様は」


「意識不明です」


「サヤ様は」


「《可視化》に異常が」


──────────────────────────────────────


 その瞬間。


 評議会の間の空気が、凍りついた。


 誰も、しばらく、声を出せなかった。


──────────────────────────────────────


 ヒコは、椅子から立ち上がっていた。


 自分でも、気づかないうちに。


「ゼドさんが」


「意識不明……」


 その言葉が、頭の中で、何度も繰り返される。


 だが。


 うまく、意味として受け止められない。


──────────────────────────────────────


 バルドが、騎士に、さらに尋ねる。


「容体は」


「安定していますか」


「脈と呼吸は」


「あります」


「ですが」


「目を覚まさない、とのことです」


 バルドの表情が、強張った。


「サヤ様は」


「視界の異常が、続いています」


「現地のコリン様が」


「対応にあたっています」


──────────────────────────────────────


 ヒコは、《可視化》を使おうとした。


 いつものように。


 南方の様子を、確認しようと。


 だが。


 視界に映る色が。


 いつもと、違う。


 揺らいでいる。


 うまく、焦点が合わない。


──────────────────────────────────────


「――」


 ヒコは、思わず目を押さえた。


 マユミが、すぐに気づく。


「ヒコ?」


「どうしたの」


「大丈夫、です」


 ヒコは、答えた。


 だが、その声は。


 自分でも驚くほど、動揺していた。


──────────────────────────────────────


 ヒコは、もう一度、《可視化》を試みた。


 だが。


 視界は、乱れたままだった。


 いつもなら、静かに見えるはずの流れが。


 どこか遠い、霧の向こうにあるように感じられる。


──────────────────────────────────────


「使えない……」


 ヒコは、小さく呟いた。


「《可視化》が」


「うまく、使えません」


──────────────────────────────────────


 ドガンが、鋭くヒコを見る。


「落ち着け」


「今は」


「お前が、乱れている場合じゃない」


「分かっています」


 ヒコは、深く息を吸った。


 吐く。


 もう一度、吸う。


 だが。


 簡単には、心を静められなかった。


──────────────────────────────────────


 バルドが、評議会全体に告げる。


「まずは」


「南方への応援と」


「必要な物資の手配を」


「進めましょう」


「ゼドさんとサヤさんの容体については」


「引き続き、報告を待ちます」


──────────────────────────────────────


 評議会が、動き出す。


 指示が飛び。


 人が動き。


 必要な物資が、次々と手配されていく。


 だが、その慌ただしさの中で。


 ヒコだけが、しばらく、その場に立ち尽くしていた。


──────────────────────────────────────


 自分の感情の乱れが。


 自分の力を、乱している。


 その事実を。


 ヒコは、初めて思い知らされていた。


 《可視化》は。


 自分にとって、ただの便利な力ではない。


 見て。


 判断して。


 守るための。


 自分自身の、目だった。


──────────────────────────────────────


 その目が。


 今、見えなくなっている。


──────────────────────────────────────


 言葉にならない報せほど、速く届く。


 そして。


 その報せは。


 いつも、心の一番柔らかい場所を、正確に突いてくる。


 ヒコは、震える拳を握りしめた。


 そして。


 自分に、できることを探し始めた。


 第325話 届いた報せ 了

【次回予告】行くと決めた日。

 迷いを、断ち切る言葉は、いつも、短い。


──────────────────────────────────────


【領地収支・第325話時点】


・所持金:金貨4185枚(変動なし)


──────────────────────────────────────


【発展進捗・第325話時点】


・防衛:122%(変動なし)

・食料:101%(変動なし)

・水 :100%(変動なし)

・住居:90%(変動なし)

・インフラ:105%(変動なし)

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