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 第323話 陽炎月・扉の向こう

 選択とは。


 その先が、見えないまま、下すものだ。


 先が見えているのなら。


 それは、選択ではない。


 ――ただの、確認作業だ。


 だから、人は、迷う。

 陽炎月、一日。


 フォルテス領。


 評議会の間では、届いたばかりの返書が、読み上げられていた。


 バルドが、書状を、手にする。


「調査を、継続してよい」


「ただし」


「危険を、感じた場合は」


「即座に、撤退すること」


「以上が、評議会の判断です」


──────────────────────────────────────


 ドガンが、頷いた。


「妥当な、判断だ」


 ヒコも、頷く。


「無理は、しないように」


「重ねて、伝えてください」


「はい」


 バルドが、答えた。


──────────────────────────────────────


 同じ頃。


 南方廃址。


 深部の、扉の前。


 カインが、返書を携えて、戻ってきていた。


「戻りました」


「評議会からの、返事です」


 カインが、書状を、ゼドへ、手渡す。


 ゼドが、内容を、読む。


「継続してよい」


「ただし、危険を感じたら」


「即座に、撤退」


──────────────────────────────────────


 ゼドは、書状を、畳んだ。


「決めよう」


 全員が、頷いた。


 サヤが、扉に、視線を向ける。


「規則正しい、揺らぎは」


「まだ、続いています」


「変化は」


「ありません」


──────────────────────────────────────


「よし」


 ゼドが、扉の中央に刻まれた模様へ、手を伸ばす。


「開ける」


──────────────────────────────────────


 ゼドの指先が、模様に触れた瞬間。


 扉全体が、淡く、発光し始めた。


 刻まれた術式の線が、次々と、輝いていく。


 重々しい音とともに。


 扉が、僅かに、動き始めた。


──────────────────────────────────────


「下がれ」


 タウルスが、全員を、後方へ促した。


 扉が、ゆっくりと、左右へ開いていく。


 その奥から。


 冷たい空気が、吹き出してきた。


──────────────────────────────────────


 中は、広い空間だった。


 天井まで届く柱が、規則正しく、並んでいる。


 その中央に。


 巨大な、人型に近い構造物が、佇んでいた。


 全身が、金属質の装甲に、覆われている。


 その表面にも。


 扉と同じ、精緻な模様が、刻まれていた。


──────────────────────────────────────


「これは……」


 ゼドが、息を呑んだ。


「防衛機構、か」


「おそらく、間違いない」


 タウルスが、剣の柄に、手をかける。


「動いて、いるのか」


 サヤが、《可視化》を、強める。


 そして、その構造物を、じっと、見つめた。


「はい」


「稼働、しています」


「ですが」


 サヤは、慎重に、続けた。


「今のところ」


「敵対する、反応は」


「ありません」


──────────────────────────────────────


 コリンが、緊張した声で、尋ねる。


「眠っている、だけでしょうか」


「分からない」


 ゼドは、慎重に、構造物へ近づいていく。


 一歩。


 また、一歩。


 構造物は、動かない。


 ただ。


 その表面に刻まれた模様だけが、微かに、脈打つように、光っていた。


──────────────────────────────────────


「見た限りでは」


 ゼドが、確認するように、言った。


「侵入者を、識別する機構のようだ」


「反応が、ないのは」


「まだ」


「私たちを」


「脅威と、認識していない」


「そういうことかもしれない」


──────────────────────────────────────


 カインが、周囲を、警戒しながら、言った。


「記録を、取りましょう」


「刺激しないように」


 タウルスが、頷いた。


「最低限の、確認だけだ」


「深追いは、しない」


──────────────────────────────────────


 サヤは、その構造物を、じっと、見つめ続けていた。


 規則正しい、脈のような光。


 その奥に。


 何か、途方もなく、大きなものが、眠っている。


 そんな感覚が、あった。


 だが。


 それが、何なのか。


 サヤには、まだ、分からなかった。


──────────────────────────────────────


 その夜。


 野営地に戻った一同は。


 誰も、多くを、語らなかった。


 ただ、それぞれが、目にしたものを。


 静かに、胸の中で、反芻していた。


 ゼドは、焚き火を、見つめながら、呟いた。


「自分たちで、選んだ道だ」


「後悔は、しない」


──────────────────────────────────────


 選択とは。


 その先が、見えないまま、下すものだ。


 扉の向こうに、あったものは。


 答えではなかった。


 新しい、問いだった。


 そして。


 その問いが、何を、もたらすのか。


 まだ、誰にも、分からない。


 夜の闇の奥で。


 構造物の、微かな光だけが。


 静かに、脈打ち続けていた。


 第323話 陽炎月・扉の向こう 了

【次回予告】喪失、その一。

 守るために、進んだ道の先に、失うものが、待っていることがある。


──────────────────────────────────────


【領地収支・陽炎月一日時点】


・所持金:金貨4185枚(+115)


 収入内訳

 ・冒険者固定給  金貨   42枚

 ・勲爵士給与   金貨   12枚

 ・外部取引    金貨  105枚

 ・ギルド収益   金貨   53枚

  合計      金貨  212枚


 支出内訳

 ・幹部級給与   金貨   24枚

 ・準幹部級給与  金貨    9枚

 ・一般職給与   金貨   40枚

 ・部門運営費   金貨   24枚

  合計      金貨   97枚


──────────────────────────────────────


【発展進捗・陽炎月一日時点】


・防衛:122%(変動なし)

・食料:101%(変動なし)

・水 :100%(変動なし)

・住居:90%(変動なし)

・インフラ:105%(変動なし)

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