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 第314話 設計者の血

 名は、受け継がれる。


 だが、意味は、時に、隠される。


 ――そして。


 隠された意味は、忘れられた頃に、姿を現す。

 野営地。


 深夜。


 サヤは、目を覚ました。


 焚き火が、小さく、揺れている。


 その傍に、ゼドが、一人、座っていた。


 眠っている様子は、なかった。


──────────────────────────────────────


「眠れないんですか」


 サヤが、小さく、声をかけた。


 ゼドは、振り返らずに、答えた。


「ああ」


「少し、考え事を、していた」


 サヤは、そっと、焚き火の反対側に、腰を下ろした。


「壁の模様のこと、ですか」


 ゼドは、しばらく、黙っていた。


 やがて、静かに、口を開いた。


「……話しておかなければ、ならないことがある」


──────────────────────────────────────


「私の、家のことだ」


 ゼドは、焚き火を見つめたまま、続けた。


「ゼド家には、代々」


「言い伝えが、残っている」


「二つの、戒めだ」


──────────────────────────────────────


「一つは」


「『見るな』」


「もう一つは」


「『近付くな』」


 サヤは、息を、飲んだ。


「何を、ですか」


「分からない」


 ゼドは、首を、横に振った。


「代々、理由は語られなかった。」


「ただ、その二つだけは」


「決して、破るなと」


「何世代も、受け継がれてきた」


──────────────────────────────────────


「今まで、誰も」


「気にしていなかった」


「ただの、迷信だと」


「そう、思っていた」


 ゼドは、自分の両手を、見つめた。


「だが」


「今回、この壁の模様を、見て」


「初めて」


「あの戒めの、意味を」


「考えるように、なった」


──────────────────────────────────────


 サヤは、しばらく、言葉を、選んだ。


「ゼド家は」


「タナール文明と」


「何か、関係が、あるんでしょうか」


 ゼドは、即答しなかった。


 長い、沈黙があった。


「分からない」


「だが」


 ゼドは、自分の手のひらを、見つめたまま、続けた。


「この模様を、見た瞬間」


「懐かしい、と思った」


「初めて見るはずなのに」


「知っている、気がした」


「それが、一番、怖かった」


──────────────────────────────────────


 サヤは、その言葉に、静かに、頷いた。


「私の《可視化》も」


「似たようなことが、あります」


「見えているのに」


「理解できない」


「でも」


 サヤは、少し、考えてから、続けた。


「理解できないのに」


「なぜか、知っている気がする」


「そういう、感覚」


 ゼドが、初めて、サヤの方を、見た。


「同じ、感覚か」


「はい」


 サヤは、頷いた。


──────────────────────────────────────


「もし」


 ゼドが、静かに、言った。


「ゼド家の血に」


「タナール文明の、技術者の、血が」


「流れているとしたら」


「私は」


 ゼドは、言葉を、探すように、間を置いた。


「何を、受け継いでいる、ことになるんだろうな」


──────────────────────────────────────


 サヤは、すぐには、答えられなかった。


 やがて、静かに、言った。


「良いものか、悪いものか」


「まだ、分からないなら」


「今は、それで、十分です」


 ゼドが、僅かに、目を細めた。


「怖くは、ないか」


「怖いです」


 サヤは、正直に、答えた。


「でも」


「ゼドさんが、悪いものに」


「変わっていくとは」


「思えません」


──────────────────────────────────────


 ゼドは、その言葉に、小さく、笑った。


「根拠のない、慰めだな」


「はい」


 サヤも、少し、笑った。


「でも」


「私は、根拠のないことを」


「信じることに、決めているので」


──────────────────────────────────────


 しばらく、二人は、無言で、焚き火を、見つめていた。


 ゼドが、ぽつりと、言った。


「戻ったら」


「タウルスなら」


「古い家の記録にも、詳しい」


「ゼド家の、古い記録を」


「探してもらおうと思う」


「戒めの、由来を」


「知っておいた方がいい」


 サヤは、頷いた。


「私も、手伝います」


──────────────────────────────────────


 焚き火が、小さく、爆ぜた。


 その火の粉が、夜空へ、消えていく。


 名は、受け継がれる。


 だが、意味は、時に、隠される。


 ゼドの中で、受け継がれていたものは。


 忘れられた、記憶ではない。


 まだ、果たされていない。


 一つの、役目なのかもしれない。


 サヤは、そう思いながら、静かに、焚き火を、見つめ続けた。



 第314話 設計者の血 了

【次回予告】凍氷月の収支。

 積み上げてきたものは、静かに、確かに、形を成していく。


──────────────────────────────────────


【領地収支・第314話時点】


・所持金:金貨3712枚(変動なし)


──────────────────────────────────────


【発展進捗・第314話時点】


・防衛:122%(変動なし)

・食料:101%(変動なし)

・水 :100%(変動なし)

・住居:89%(変動なし)

・インフラ:105%(変動なし)

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