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 第313話 深部への接近

 進むほどに、戻れる距離が、遠くなる。


 それでも、進まなければ、見えないものがある。


 ――だから。


 進む者は、いつも、少しだけ、賭けをしている。

 南方廃址。


 地図の欠損していた地点を、調査隊は、既に越えていた。


 ゼドが、松明を掲げながら、先頭を歩く。


「ここから先は」


「前回、誰も、足を踏み入れていない」


 タウルスが、周囲を、警戒しながら、続いた。


「気配は、変わらないな」


「静かなものだ」


──────────────────────────────────────


 サヤが、《可視化》を、細く使いながら、後ろを、歩いていた。


 以前より、視界のノイズは、落ち着いている。


 それでも、時折、視界の端で、何かが、揺らぐ。


「大丈夫ですか」


 コリンが、隣で、小さく、声をかけた。


「はい」


 サヤが、頷く。


「前より、ずっと、落ち着いています」


「無理はしないでください」


 コリンが、念を押した。


「何か、変化があれば、すぐに」


「言います」


──────────────────────────────────────


 通路の先に、以前の記録にはない、彫刻が、現れた。


 壁一面に、幾何学的な、模様が、刻まれている。


 ゼドが、足を止めた。


 その模様を、じっと、見つめる。


 しばらく、動かなかった。


「ゼドさん」


 カインが、声をかけた。


 ゼドは、答えなかった。


 視線だけが、模様の上を、なぞり続けている。


──────────────────────────────────────


「ゼドさん」


 もう一度、カインが、呼ぶ。


 ゼドは、僅かに、肩を震わせて、我に返った。


 指先が、無意識に、壁と同じ模様を、宙へ描いていた。


 慌てて、手を止める。


「――ああ、すまない」


「見入って、いた」


 指先が、無意識に、壁と同じ模様を、宙へ描いていた。


 タウルスが、僅かに、眉をひそめた。


「今の、変だったぞ」


「呼んでも、反応がなかった」


 ゼドは、自分の手のひらを、見つめた。


「そう、だったか」


「気づかなかった」


──────────────────────────────────────


 サヤが、その様子を、じっと見ていた。


「ゼドさん」


「近頃、そういうこと」


「多くないですか」


 ゼドは、少し、考えるように、間を置いた。


「言われてみれば」


「無意識に、手が、動くことがある」


「この模様に、似た形を」


「なぞるような、癖が」


──────────────────────────────────────


「いつからです」


 コリンが、尋ねる。


 ゼドは、記憶を、辿るように、目を細めた。


「前回の、調査の後からだ」


「帰ってきてから」


「特に」


──────────────────────────────────────


 タウルスが、腕を組んだ。


「気になるな」


「戻ったら、コリンにしっかり、診てもらった方がいい」


「そうだな」


 ゼドは、頷いた。


 だが、その頷きは、どこか、上の空だった。


 視線は、既に、また、壁の模様へ、戻っている。


──────────────────────────────────────


 サヤが、小さく、声をかけた。


「ゼドさん」


「先、進みましょう」


 ゼドは、はっとしたように、サヤを見た。


「ああ」


「そうだな」


 その一瞬、ゼドの目に、僅かな、戸惑いが、見えた。


 自分の意識が、どこかへ、引っ張られていたことへの、戸惑いのようだった。


──────────────────────────────────────


 隊は、再び、歩き出した。


 深部へ、進むほどに。


 通路は、静かに、しかし、確かに、変わっていく。


 空気が、重くなる。


 壁の模様が、増えていく。


 まるで、何かが、少しずつ、姿を現し始めているようだった。


──────────────────────────────────────


 その夜。


 野営の焚き火の傍で、サヤが、コリンに、そっと、尋ねた。


「ゼドさん、大丈夫でしょうか」


「分かりません」


 コリンは、正直に、答えた。


「脈も、呼吸も、魔力の流れも、異常はありません」


「でも」


 コリンは、焚き火に照らされた、ゼドの寝顔を、見つめた。


「心の、どこかが」


「何かと、繋がろうとしているような」


「そんな、気がします」


──────────────────────────────────────


 サヤは、自分の目に、そっと手を当てた。


 自分にも、似たようなことが、起きていた。


 見えているのに、理解できていないもの。


 ゼドの異変も、もしかしたら、同じ根から、来ているのかもしれない。


 進むほどに、戻れる距離が、遠くなる。


 その言葉は、道だけではなく。


 人にも、当てはまるのかもしれない。


 サヤは、焚き火を見つめながら、静かに、そう思った。



 第313話 深部への接近 了

【次回予告】設計者の血。

 名は、受け継がれる。だが、意味は、時に、隠される。


──────────────────────────────────────


【領地収支・第313話時点】


・所持金:金貨3712枚(変動なし)


──────────────────────────────────────


【発展進捗・第313話時点】


・防衛:122%(変動なし)

・食料:101%(変動なし)

・水 :100%(変動なし)

・住居:89%(変動なし)

・インフラ:105%(変動なし)

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