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 第309話 二度目の南へ

 同じ道でも、二度目は、違って見える。


 一度目に、何を見落としたかを、知っているからだ。


 ――それでも。


 見落としを知っていることが、必ずしも、答えになるとは限らない。

 早朝。


 領地の門の前に、荷馬車が並んでいた。


 前回よりも、一台、多い。


 ゼドが、積荷を、一つずつ確認していく。


「灯りの魔道具、予備含めて六」


「食料、二十日分」


「医療品、コリンさんの指示通りに」


 コリンが、頷く。


「止血材と、解毒薬は、多めに積みました」


「前回、足りなくなりかけたので」


──────────────────────────────────────


 タウルスが、荷を担ぎながら言った。


「今回は、記録用の道具も増やした」


「何が起きても、後で、検証できるように」


 ゼドが、頷く。


「前回は、記録より、生還を優先した」


「今回は、両方、狙う」


──────────────────────────────────────


 騎士団の三名が、装備を整えていた。


 前回の二名から、一名、増えている。


 その中に、見覚えのある顔があった。


 ヒコが、声をかける。


「カインさんも、行くんですか」


 カインが、姿勢を正した。


「はい」


「トマが、副隊長になった以上」


「俺も、動ける場所で、動きます」


 その言葉に、ヒコは、少し、驚いた顔をした。


「無理は、していませんか」


「していません」


 カインは、はっきりと答えた。


「判断は、速い方だと、思っています」


「今回は、その速さを、生かします」


──────────────────────────────────────


 サヤが、最後に、荷馬車のそばへ来た。


 旅装に身を包み、以前より、どこか落ち着いた表情をしている。


 マユミが、サヤに、小さな包みを渡した。


「これ」


「お守り、というほどのものじゃないけど」


 サヤが、包みを開ける。


 中には、小さな布切れが入っていた。


 フォルテス領の紋章が、丁寧に刺繍されている。


「マユミさんが、作ったんですか」


「暇な時間に、少しずつ」


 マユミは、少し、照れたように言った。


「無事に、帰って来て」


 サヤは、それを、大切そうに、懐へしまった。


「はい」


──────────────────────────────────────


 ヒコが、隊列の前に立つ。


「皆さん」


 全員が、ヒコへ視線を向けた。


「前回、多くのことを、学びました」


「そして、多くのことを、見落としていました」


「今回は、その両方を、忘れないでください」


 ヒコは、一拍、置いた。


「そして、何か、おかしいと思ったら、迷わず引き返してください」


「命より、大切な成果は、ありません」


 ゼドが、頷いた。


「約束します」


──────────────────────────────────────


 ドガンが、荷馬車の脇で、腕を組んでいた。


「情報は、随時、送れ」


「早馬を、五日おきに、往復させる」


 ミルヴァも、隣で頷く。


「セドリックの追跡と、南方の連絡」


「両方、同時に、こなす」


「大変だけど、やる」


──────────────────────────────────────


 出発の時間になった。


 ゼドが、御者台に上がる。


「では」


 短く、告げた。


「行ってきます」


 荷馬車が、ゆっくりと、動き始めた。


 サヤは、懐の布に、そっと触れた。


 小さな布の感触だけが、不思議と心を落ち着かせた。


 サヤが、最後に、振り返る。


 ヒコと、マユミと、評議会の面々が、見送っていた。


 サヤは、小さく、手を振った。


 そして、前を向いた。


──────────────────────────────────────


 荷馬車の列が、街道の向こうへ、小さくなっていく。


 ヒコは、《可視化》で、その動きを、追った。


 前回よりも、人の流れが、乱れていない。


 準備という積み重ねが、そのまま、一つの流れになっていた。


──────────────────────────────────────


 マユミが、隣で、ぽつりと言った。


「大丈夫、かな」


「大丈夫です」


 ヒコは、答えた。


「今回は、あの時より、ずっと、準備しています」


「それに」


 ヒコは、遠ざかる荷馬車を、見つめたまま、続けた。


「サヤさんは、もう、迷っていません」


 同じ道でも、二度目は、違って見える。


 それが、良い方向に働くことを。


 ヒコは、ただ、願うしかなかった。



 第309話 二度目の南へ 了

【次回予告】観測者の願い。

 差し出された手の意味を、まだ、誰も知らない。


──────────────────────────────────────


【領地収支・第309話時点】


・所持金:金貨3589枚(変動なし)


──────────────────────────────────────


【発展進捗・第309話時点】


・防衛:122%(変動なし)

・食料:101%(変動なし)

・水 :100%(変動なし)

・住居:89%(変動なし)

・インフラ:105%(変動なし)

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