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 第308話 継ぐ者

 組織とは、人を増やすことではない。


 誰かの役割を、受け継げる者を育てることだ。


 ――だからこそ。


 役割は、人から人へ、受け継がれていく。

 訓練場。


 朝の空気が、まだ冷たい。


 アーヴィンが、騎士団の面々を前に、立っていた。


「整列」


 短い一言で、隊列が、瞬時に整う。


──────────────────────────────────────


 ヒコとバルドが、訓練場の端で、その様子を見ていた。


「今日、決めるそうです」


 バルドが、小さく言った。


「副隊長を」


「リクさんが、近衛に移ってから、ずっと、空いていましたね」


 ヒコが答える。


「はい」


 バルドが頷いた。


「アーヴィン様は、これまで、慎重に、見極めてこられました」


「誰か一人に、肩入れしないよう、時間をかけて」


──────────────────────────────────────


 アーヴィンが、隊列の前に立つ。


「副隊長を、決める」


 短く、告げた。


 騎士団の面々に、緊張が走る。


「候補は、三人、いた」


「ドラン」


「カイン」


「トマ」


 名を呼ばれた三人が、それぞれ、姿勢を正す。


──────────────────────────────────────


 アーヴィンは、一人ずつを、順に見た。


「ドラン」


「お前は、強い」


「だが、一人で、突っ走る」


 ドランが、僅かに、視線を落とす。


「カイン」


「お前は、判断が、速い」


「だが、部下を、信じきれていない」


 カインも、無言で、頷いた。


──────────────────────────────────────


 アーヴィンは、最後に、トマを見た。


「トマ」


「一歩、前へ」


 トマが、前に出る。


「お前は、地味だ」


 その言葉に、周囲が、少しざわついた。


「目立たない」


「派手な戦果も、ない」


「だが」


 アーヴィンは、一拍、置いた。


「誰よりも、後ろを、見ている」


 目立つ男ではない。


 だが、誰よりも、周囲を見て動く男だった。


──────────────────────────────────────


「訓練中、お前だけが、遅れた者に、気づいた」


「補給が、途切れかけた時、お前だけが、先に、動いた」


「リクが抜けた穴は」


「守る場所を、見る目だ」


「お前には、それがある」


 トマは、しばらく、何も言わなかった。


 やがて、深く、頭を下げた。


「精一杯、務めます」


──────────────────────────────────────


「よし」


 アーヴィンが、短く言う。


「今日から、副隊長」


「以上」


 それだけだった。


 説明も、称賛も、それ以上はない。


 ドランが、先に拍手を送った。


 続いて、カインも笑って頷く。


「頼んだぞ、トマ」


 その一言で、隊の空気が和らいだ。


 ミーナは小さく微笑み、トマへ向けて静かに頷いた。


 騎士団の面々の表情は、納得していた。


──────────────────────────────────────


 訓練場の端で、バルドが、小さく息を吐いた。


「あっさり、していますね」


「アーヴィン様らしい」


 ヒコも、頷いた。


「言葉は、少ないですが」


「見ているところは、深いです」


──────────────────────────────────────


 訓練後。


 アーヴィンが、ヒコのもとへ来た。


「決めた」


 ヒコが尋ねる。


「トマさんで、良かったですか」


「良かった」


 アーヴィンは、短く答えた。


「強さだけなら、ドラン」


「速さだけなら、カイン」


「だが、俺が、いない時」


「一番、頼れるのは、トマ」


──────────────────────────────────────


 ヒコは、少し考えてから、尋ねた。


「アーヴィンさんは、いつも」


「誰を副隊長にするか、迷わないんですか」


 アーヴィンは、一瞬、間を置いた。


「迷う」


「だから、最後は」


「一番、人を見ている者を選ぶ」


──────────────────────────────────────


 その日の夕方。


 ヒコは、《可視化》で、訓練場を見た。


 《可視化》の中で、人の流れが、静かに組み替わっていく。


 リクが担っていた流れは、ゆっくりと、トマへ繋がり始めていた。


 まだ、完全ではない。


 それでも、組織は、確かに、新しい形へ、流れ始めていた。


──────────────────────────────────────


 空いた場所は、誰かが埋める。


 そして、埋めた者は、そこで、また新しく育つ。


 リクが去った穴は、リクの代わりではなく。


 トマという、新しい形で、埋まっていく。


 それでいい。


 ヒコは、そう思った。



 第308話 継ぐ者 了

【次回予告】二度目の南へ。

 同じ場所へ向かっても、同じ景色は、もう見えない。


──────────────────────────────────────


【領地収支・第308話時点】


・所持金:金貨3589枚(変動なし)


──────────────────────────────────────


【発展進捗・第308話時点】


・防衛:122%(変動なし)

・食料:101%(変動なし)

・水 :100%(変動なし)

・住居:89%(変動なし)

・インフラ:105%(変動なし)

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