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 第305話 奪われる領地(完結)

 奪われなかったものの重さは、奪われかけた後でしか、分からない。


 失って、初めて、その、価値に、気づく。


 ――それでも、失う前に、気づけるなら、それに、越したことは、ない。

 長影月、下旬。


 評議会の間に、緊張した、空気が、流れていた。


 ミルヴァが、卓の前に、立っていた。


「情報流出の、出元が、判明した」


 その、一言に、全員が、息を、飲んだ。


──────────────────────────────────────


「記録係の一人、セドリックだ」


 ミルヴァが、続けた。


「書類の、保管庫への、出入りが、許されていた」


「登録は、準領民。半年前に、この領地に、来た」


 バルドが、少し、驚いた、表情を、見せた。


「セドリック……真面目な、働きぶりだと、聞いていました」


「表向きは、そうだった」


 ミルヴァが、続けた。


「詳しく調べたところ、あの男には故郷に家族が残っていた。家族の安全を盾に取られ、従わざるを得なかった可能性が高い」


──────────────────────────────────────


 評議会の間に、重い、沈黙が、流れた。


 ドガンが、低く、唸った。


「脅されて、やった、ということか」


「断定は、できない」


 ミルヴァが、答えた。


「ただ、状況から、見て、その、可能性が、高い」


 ヒコが、静かに、聞いた。


「今、どこに」


「すでに、領地を、離れていた」


 ミルヴァが、答えた。


「発覚に、気づいて、逃げたのか。それとも、役目を、終えて、呼び戻されたのか」


「追跡中だが、まだ、追いつけていない」


──────────────────────────────────────


 評議会が、その、事実を、静かに、受け止めた。


 誰かを、責める、声は、上がらなかった。


 ただ、事実として、それを、受け入れた。


 ゴルフが、少し、震える、声で、言った。


「一人の、領民が、こんな形で、利用されたと、思うと……」


「複雑な、気持ちに、なります」


 ヒコも、同じ、気持ちを、抱えていた。


 この領地を、守るために、来たはずの、一人の領民が、外の圧力に、追い詰められて、その、意志を、歪められた。


 それも、一つの、「奪われた」形だった。


──────────────────────────────────────


 ヒコは、しばらく、その、事実を、飲み込んでから、静かに、言った。


「土地は守れました。」


 ヒコが、続けた。


「ですが、この一年で、奪われたものもあります。」


「情報。」


「信用。」


「時間。」


「それらは確かに、奪われました。」


 その、言葉が、評議会の、間に、静かに、染み渡った。


──────────────────────────────────────


 ドガンが、腕を、組んだ。


「奪われたものは、確かに、ある」


「しかし」


 ドガンが、続けた。


「奪われなかったものも、それ以上に、ある」


 評議会の、何人かが、頷いた。


「この評議会は、崩れなかった」


 ドガンが、続けた。


「弟子制度も、産業省の、承認も、白金霊鉱も、南方の、記録も」


「守るべき、大事なものは、全部、まだ、ここにある」


「だから、この勝負は、まだ負けちゃいない。」


──────────────────────────────────────


 ヒコが、頷いた。


「今年、取られたものが、あります」


 ヒコが、続けた。


「ただし、今年、守ったものも、あります」


 その、言葉に、評議会の、空気が、少しずつ、和らいでいった。


──────────────────────────────────────


 評議会全員で、この一年を、振り返る、時間が、設けられた。


 白雪月の、婚約発表。


 魔法兵団、循環医療兵団の、発足。


 学校の、開設。


 ヴァルク男爵の、四方向の、圧力。


 情報流出という、痛み。


 監査要求という、試練。


 南方廃址で、明らかになった、新しい、謎。


 そして、白金霊鉱の発見。


 一つ一つを、思い出しながら、評議会の、誰もが、少し、疲れた、しかし、確かな、表情を、していた。


 バルドが、静かに、言った。


「大変な、一年でした」


「ただし」


 バルドが、続けた。


「それだけ、この領地は、大きく、なった、一年でも、ありました」


──────────────────────────────────────


【エピローグ一】


 王都から、離れた、ある、屋敷の一室。


 ヴァルク男爵が、一人、報告書を、読んでいた。


 情報流出の、出元が、断たれた。


 監査要求は、保留に、なった。


 四方向の、圧力も、思うように、機能しなかった。


 男爵は、その、報告書を、静かに、閉じた。


「……あの男は、まだ、崩れない」


 男爵が、つぶやいた。


「が、しかし」


 男爵が、続けた。


「私は、所詮、盤上の駒の一つに過ぎない。」


 窓の外に、視線を、向ける。


「次の手は、私ではなく」


「別の、場所から、来る」


 その、言葉に、含まれた、諦観とも、確信とも、つかない、響きが、部屋に、静かに、残った。


──────────────────────────────────────


【エピローグ二】


 遠く、名前のない、場所。


 窓のない、部屋。


 誰の、姿も、見えない。


 ただ、声だけが、そこに、あった。


「……そろそろ」


 その、声は、静かに、続けた。


「盤上へ、出る頃だ」


 それ以上、何も、なかった。


 声の、主も、その、姿も、誰にも、分からないまま。


 ただ、その、一言だけが、暗闇の中に、残った。


──────────────────────────────────────


【エピローグ三】


 夜、ヒコは、施設の前に、立っていた。


 長影月の、長い、影が、地面に、伸びている。


 マユミが、隣に、来た。


「お疲れ様」


「マユミも」


 二人は、しばらく、無言で、その、影を、見ていた。


「守るだけでは」


 ヒコが、静かに、口を、開いた。


「足りません」


「次は」


 ヒコが、続けた。


「次は、奪われない仕組みを、作ります。」


「誰か一人を守るのではなく。」


「守り続けられる領地を。」


 その、言葉を、マユミは、隣で、静かに、聞いていた。


 何も、言わなかった。


 ただ、その、言葉を、受け止めるように、小さく、頷いた。


 長い影の、季節。


 その、影の中で、一つの、決意が、静かに、根を、下ろしていた。



第11章 奪われる領地 了

 第305話 奪われる領地(完結) 了

【領地収支・第11章完結時点】


・所持金:金貨3464枚


【発展進捗・第11章完結時点】


・防衛:122%(変動なし・専門兵団による質的向上)

・食料:101%(変動なし)

・水 :100%(変動なし)

・住居:89%(第一段階完成・第二段階着工中)

・インフラ:105%(学校制度・専門兵団・領民登録定着)


辺境領主編 最終章

 第12章「決断と喪失」へ続く

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