第302話 観察者の助言
助言は、求めた者より、求めていない者から来るとき、より深く刺さる。
頼んでいないからこそ、その、意図が、気になる。
――なぜ、今、それを、差し出すのか。
紅葉月、十日。
評議会の間に、一通の、書状が、届けられた。
差出人は、ハイム子爵。
バルドが、封を、開き、内容を、確認した。
その、表情が、少しずつ、変わっていく。
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「これは……」
バルドが、少し、驚いた、声で、言った。
「地下遺構を、監査対象から、除外できる、法的な、根拠が、示されています」
全員の、視線が、集まった。
「具体的な、条項も、添付されています」
バルドが、書状を、卓に、広げた。
そこには、古い、王国法の、条文の、写しが、あった。
未調査の、危険区域については、管理者の、裁量で、立ち入りを、制限できる、という、条文だった。
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ドガンが、その、内容を、読んで、目を、見開いた。
「これは……使える」
「先日、俺たちが、主張した、理屈を、裏付ける、内容だ」
バルドも、頷いた。
「しかも、明確な、法的、根拠として、示せます」
「これがあれば、産業省への、説得力が、格段に、上がります」
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評議会の間に、驚きと、疑問が、同時に、広がった。
「なぜ、今、このタイミングで」
ガッツが、聞いた。
「まるで、こちらが、必要とする、タイミングを、見越していたかのようだ」
誰も、その、疑問に、すぐには、答えられなかった。
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マユミが、それまで、黙って、聞いていたが、静かに、口を、開いた。
「……あの人は」
全員の、視線が、マユミに、集まった。
「最初から、この法を、知っていたんだと、思う」
「だから、今まで、黙っていた」
その、言葉に、評議会が、静まった。
「なぜ、最初から、教えて、くれなかったんでしょうか」
バルドが、聞いた。
「分からない」
マユミが、答えた。
「ただ……最初から、渡していたら、こちらは、それに、頼っていた」
「今、この、タイミングで、渡すことに、意味が、あったんだと、思う」
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ドガンが、腕を、組んで、考え込んだ。
「情報は、持っているだけじゃ、意味がない」
ドガンが、続けた。
「いつ、出すかを、知っている者が、一番、強い」
「あの男は、それを、よく、分かっている」
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ヒコは、しばらく、その、書状を、見つめていた。
やがて、静かに、言った。
「この助言は、ありがたく、使わせて、いただきます」
「ただし」
ヒコが、続けた。
「意図は、まだ、分かりません」
その、言葉に、評議会の、全員が、頷いた。
感謝と、警戒。
その、両方を、抱えたまま、この、助言を、受け取ることに、なった。
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数日後、ハイム子爵から、短い、追記が、届いた。
バルドが、それを、読み上げる。
「『ご活用、いただけたようで』」
「『私は、あなたの、敵では、ありません』」
「『ただし、味方でも、ありません』」
「『今は、まだ』」
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その、最後の一文――「今は、まだ」。
その、言葉が、評議会の、誰の心にも、静かに、残った。
いつか、この、関係が、変わる日が、来るのかもしれない。
あるいは、来ないのかもしれない。
その、答えは、まだ、誰にも、分からなかった。
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夜、ヒコは、《可視化》で、遠くの、ハイムの、流れを、確認した。
その、色は、以前よりも、わずかに、温かさを、帯びていた。
ただし、その、輪郭は、まだ、はっきりとは、読み取れない。
敵でも、味方でもない。
その、曖昧な、色のまま、ハイムの流れは、この領地の、傍らに、静かに、在り続けていた。
第302話 観察者の助言 了
【次回予告】監査の件が、一旦、落ち着いた。
落ち着いた瞬間こそ、何かが、動き始めている。
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【領地収支・紅葉月十日時点】
・所持金:金貨3342枚(変動なし)
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【発展進捗・第302話時点】
・防衛:122%(変動なし)
・食料:101%(変動なし)
・水 :100%(変動なし)
・住居:89%(変動なし)
・インフラ:105%(変動なし)




