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 第301話 監査の条件

 条件とは、守るものと、譲るものを、決める線だ。


 線を引く側が、常に、有利とは、限らない。


 ――相手も、同じ、線を、見ているからだ。

 紅葉月、五日。


 産業省との、監査協議が、進む中、新たな、書状が、届いた。


 バルドが、その、内容を、確認し、表情を、曇らせた。


「ヴァルク男爵側からの、条件、追加です」


──────────────────────────────────────


「内容は」


 ヒコが、聞いた。


 バルドが、書状を、読み上げる。


「『蒼鋼採掘区域に、加え、地下遺構の、状況も、報告の対象に、含めるべきである』」


 その、一文に、評議会の空気が、一瞬で、張り詰めた。


──────────────────────────────────────


 誰も、しばらく、口を、開かなかった。


 白金霊鉱の、存在は、この、評議会の、最も、深い、秘密の一つだった。


 地下遺構の、状況を、報告対象に、含めるということは、その、秘密に、直接、触れる、可能性が、あるということだった。


──────────────────────────────────────


 ガデルが、低く、唸った。


「……それだけは」


 ガデルの、声が、震えていた。


「それだけは、できない」


 その、言葉に、誰も、反対しなかった。


 白金霊鉱の、存在が、外部に、知られれば、この領地は、これまでとは、比較にならない、規模の、脅威に、晒される。


──────────────────────────────────────


 ドガンが、腕を、組んだ。


「断るための、理由が、要る」


「ただの、拒絶では、通らない」


「向こうは、監査を、受け入れると、こちらが、言った、直後だ」


 ドガンが、続けた。


「今、地下遺構だけ、拒めば」


「隠しているものが、ある、と、自ら、認めるようなものだ」


──────────────────────────────────────


 ヒコは、しばらく、考えていた。


 やがて、静かに、口を、開いた。


「理由は、あります」


 全員の、視線が、ヒコに、集まった。


「安全管理上、外部の、立ち入りは、制限されています」


 ヒコが、続けた。


「地下遺構は、未調査の、危険区域を、含んでいます。過去にも、複数の、異常事象が、確認されています」


「立ち入りを、制限するのは、監査を、拒むためではなく」


「監査する側の、安全を、守るため、という、理由です」


「安全が確保できない区域への立ち入りは、管理者として認められません」


──────────────────────────────────────


 ドガンが、少し、考えてから、頷いた。


「筋は、通る」


「未調査の、危険区域に、外部の人間を、入れられない、というのは、正当な、理由だ」


 バルドが、資料に、メモを、取りながら、言った。


「その、方針で、回答文を、作成します」


──────────────────────────────────────


 その、議論が、一区切りついたところで、ミルヴァが、静かに、口を、開いた。


「一つ、指摘しておきたい」


「なんですか」


「この、タイミングだ」


 ミルヴァが、続けた。


「情報流出が、あった、直後に、この、条件追加が、来た」


「偶然、とは、思えない」


「地下遺構に着目した要求だ。知らなければ、ここまで踏み込めない」


 評議会の間に、緊張が、走った。


──────────────────────────────────────


 ヒコが、その、指摘の、意味を、噛み締めた。


「内側から、漏れた、情報が」


「外側からの、圧力に、使われている、ということですか」


「その、可能性が、高い」


 ミルヴァが、頷いた。


 ドガンが、腕を、組んだまま、低く、言った。


「中から、攻める者と」


「外から、攻める者」


「両方が、同時に、来ている」


──────────────────────────────────────


 この、同時圧力が、これまでで、最も、この領地を、追い詰める、ものになっていた。


 内側の、見えない、脅威。


 外側の、明確な、脅威。


 その、両方に、対応しなければ、ならなかった。


 ヒコは、しばらく、その、状況を、受け止めていた。


 やがて、静かに、言った。


「両方、対処します」


「一つずつ、確実に」


 評議会の、全員が、頷いた。


──────────────────────────────────────


 夜、ヒコは、《可視化》で、この領地を、確認した。


 外からの、圧力の、色。


 内側の、まだ、見えない、脅威の、色。


 その、両方が、この領地を、じわじわと、締め付けているように、見えた。


 それでも、この領地の、中心の、色は、まだ、しっかりと、輝いていた。


 外からの圧力も。


 内側の裏切りも。


 その、どちらにも、この領地は、負けない。


 ヒコは、静かに、そう、決意するのだった。



第301話 監査の条件 了

【次回予告】ハイム子爵が、また、動いた。

 助言は、求めた者より、求めていない者から来るとき、より深く刺さる。


──────────────────────────────────────


【領地収支・紅葉月五日時点】


・所持金:金貨3342枚(変動なし)


──────────────────────────────────────


【発展進捗・第301話時点】


・防衛:122%(変動なし)

・食料:101%(変動なし)

・水 :100%(変動なし)

・住居:89%(変動なし)

・インフラ:105%(変動なし)

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