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 第297話 流出

 守れなかったものは、守ろうとした意志まで、否定しない。


 全てを、守り切れる者は、いない。


 ――それでも、守ろうとしたことに、意味が、なくなるわけではない。

 雷鳴月、十五日。


 ミルヴァが、評議会に、緊急の、報告を、持ち込んだ。


 その、表情は、これまでに、なく、硬かった。


「評議会の内部資料が、外部へ、渡っていることが、判明した」


 その、一言に、評議会の、空気が、凍りついた。


──────────────────────────────────────


「流出した、内容は」


 ヒコが、静かに、聞いた。


「弟子制度の、詳細な、運用マニュアル」


 ミルヴァが、答えた。


「それから、部門別予算の、概要」


 バルドが、思わず、声を、上げた。


「それは……内部でしか、扱っていない、資料です」


「ああ」


 ミルヴァが、頷いた。


「一般には、出さない、内容だ」


──────────────────────────────────────


「どこから、漏れたんですか」


 ドガンが、聞いた。


「まだ、分からない」


 ミルヴァが、正直に、答えた。


「出所を、追っている。ただ、まだ、特定できていない」


 評議会に、重い、沈黙が、流れた。


──────────────────────────────────────


 その、沈黙を、破ったのは、ガッツだった。


「登録外の、出入り者の、線は」


「調べている」


 ミルヴァが、答えた。


「ただし……」


 ミルヴァが、一度、言葉を、切った。


「今回の、流出は、登録外の、出入り者だけでは、説明が、つかない」


「資料の、性質を、考えると」


 ミルヴァが、続けた。


「この資料は、限られた者しか、閲覧していない。」


「だから、外部だけでは、説明できない。」


「内側の、誰かが、関わっている、可能性が、高い」


──────────────────────────────────────


 評議会が、初めて、この、可能性を、正面から、議論することに、なった。


 誰も、すぐには、口を、開かなかった。


 疑いたくない、という、気持ちと。


 目を、逸らしては、いけない、という、気持ちが。


 その場の、全員の中で、せめぎ合っていた。


──────────────────────────────────────


 ヒコが、しばらくの、沈黙の後、静かに、口を、開いた。


「……これも」


 その、声は、少し、震えていた。


「奪われる、ということなんですね」


 誰も、その、問いに、すぐには、答えなかった。


 この一年、積み上げてきた、仕組みが、その、外側へ、漏れ出した。


 土地を、奪われたわけではない。


 だが、確かに、何かが、奪われた。


──────────────────────────────────────


 ドガンが、その、沈黙を、破った。


「一本、取られたな」


 ドガンの、声は、重かった。


「だが、致命傷じゃない」


 ドガンが、続けた。


「大事なものは、まだ、ここにある」


「白金霊鉱の、記録じゃない。南方廃址の、情報でもない」


 ドガンが、続けた。


「弟子制度の、マニュアルと、予算の、概要だ。痛いが、致命的じゃない」


──────────────────────────────────────


 ミルヴァが、静かに、しかし、確かな、声で、言った。


「出口を、必ず、特定する」


「時間は、かかるかもしれない。ただ、必ず、突き止める」


 その、言葉に、評議会の、空気が、わずかに、変わった。


 完全な、絶望では、なかった。


 だが、確かに、何かを、失ったという、事実だけが、そこに、残っていた。


──────────────────────────────────────


 ヒコは、しばらく、その、事実を、受け止めていた。


 やがて、静かに、言った。


「今回のことを、忘れません」


「ただし、これで、立ち止まるわけにも、いきません」


「引き続き、それぞれの、仕事を、進めてください」


 評議会の、全員が、頷いた。


 それぞれの、表情に、悔しさと、決意が、混ざっていた。


──────────────────────────────────────


 夜、ヒコは、一人、執務室で、流出した、資料の、写しを、見つめていた。


 この、資料の、向こうに、誰かの、意思が、あった。


 それが、誰なのか。


 まだ、分からない。


 この一年、積み上げてきたものが。


 初めて、自分たちの意思とは、違う形で、領地の外へ、流れた。


 その事実だけが、静かに、胸へ、残っていた。



第297話 流出 了

【次回予告】ガデルの誕生日が来た。

 数字は、感情を持たない。だから、数字を見ることが、一番、落ち着く。


──────────────────────────────────────


【領地収支・雷鳴月十五日時点】


・所持金:金貨3113枚(変動なし)


──────────────────────────────────────


【発展進捗・第297話時点】


・防衛:122%(変動なし)

・食料:101%(変動なし)

・水 :100%(変動なし)

・住居:88%(変動なし)

・インフラ:105%(−1・情報流出による信用への影響)

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