第294話 正当性の罠
雷は、鳴る前に、空気が変わる。
その変化に、気づいた者だけが、備えられる。
――気づかなければ、ただ、突然、落雷を、受けるだけだ。
雷鳴月、一日。
評議会の間に、月次給与支払いのための、いつもの顔ぶれが、集まっていた。
ゴルフが、帳簿を、卓に、広げる。
「今月の、収支を、まとめました」
外部収入は、堅調な、伸びを、見せていた。
噂の、影響も、ほぼ、収まりつつある。
バルドが、資料を、めくった。
「もう一つ、今月、二十日は、ガデル様の誕生日です」
ガデルが、鼻を、鳴らした。
「誕生日なんぞで、浮かれてる、暇はねぇ」
その、言葉とは、裏腹に、口元は、少し、緩んでいた。
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和やかな、空気が、続く中、ドガンが、険しい表情で、資料を抱え、部屋へ入ってきた。
「大変だ」
その、切迫した、声に、評議会の、空気が、一瞬で、変わった。
「ヴァルク男爵が、再び、大きく、動いた」
ドガンが、資料を、卓に、広げた。
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「産業省を、通じて」
ドガンが、続けた。
「フォルテス領の、蒼鋼採掘区域の、第三者監査を、要求してきた」
その、言葉に、評議会が、静まった。
「監査、ですか」
バルドが、聞き返した。
「ああ」
ドガンが、頷いた。
「表向きの、理由は、公共の安全と、資源管理の、適正化だ」
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ヒコは、しばらく、資料を、見つめていた。
やがて、その意味に、気づいて、表情が、強張った。
「……以前、私たちが、産業省に、提出した、資料」
「あの、公共性を、示すための、資料」
ヒコが、続けた。
「それを、逆手に、取られた、ということですか」
「その通りだ」
ドガンが、苦々しく、言った。
「あの時、こちらは、『フォルテス領の、運営は、公共の、利益に、資する』と、示すために、資料を、出した」
「その、論理を、そのまま、返してきた」
ドガンが、続けた。
「『公共の、利益を、主張するなら、公共の、監査を、受けるべきだ』と」
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評議会の間に、重い、沈黙が、流れた。
ガッツが、腕を、組んだ。
「先に、示したことが、裏目に、出た、ということか」
「そういう、ことになる」
ドガンが、頷いた。
ゴルフが、少し、青ざめた、顔で、言った。
「監査が入れば、内部まで、調べられます」
「白金霊鉱も……隠し通せるとは、限りません」
ガデルが、低く、唸った。
「あの石だけは、絶対に、見せられん」
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ドガンが、腕を、組んだまま、低く、つぶやいた。
「……こちらの手を」
「こちらに、向けて、使ってきた」
その一言が、評議会の、緊張を、さらに、深くした。
これまでの、四方向の圧力とは、違う、質の攻撃だった。
こちらが、積み上げてきた、正当性そのものを、逆手に、取る手。
最も、対応が、難しい、種類の、攻撃だった。
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ヒコは、しばらく、黙って、考えていた。
やがて、静かに、口を、開いた。
「今日、すぐに、結論を、出すのは、難しいと、思います」
「時間を、いただけますか」
ドガンが、頷いた。
「もちろんだ。ただ、あまり、悠長には、していられん」
「産業省への、回答期限は」
バルドが、聞いた。
「一月以内、という、指定だ」
ドガンが、答えた。
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夜、ヒコは、《可視化》で、遠く、王都の方角を、確認した。
ヴァルクの、流れが、以前より、太く、こちらへ、伸びてきているように、見えた。
合法という名の、一撃。
それは、剣よりも、静かに。
そして、剣よりも、深く。
この領地の、根幹へと、迫っていた。
第294話 雷鳴月の声 了
【次回予告】評議会が、対策を議論した。
自分の言葉が、自分に返ってくるとき、それは罠だったと気づく。
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【領地収支・雷鳴月一日時点】
・所持金:金貨3113枚(+125)
収入内訳
・冒険者固定給 金貨 42枚
・勲爵士給与 金貨 12枚
・外部取引 金貨 108枚
・ギルド収益 金貨 60枚
合計 金貨 222枚
支出内訳
・幹部級給与 金貨 24枚
・準幹部級給与 金貨 9枚
・一般職給与 金貨 40枚
・部門運営費 金貨 24枚
合計 金貨 97枚
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【発展進捗・第294話時点】
・防衛:122%(変動なし)
・食料:101%(変動なし)
・水 :100%(変動なし)
・住居:88%(変動なし)
・インフラ:105%(変動なし)




