第293話 青天月の収支
夏の空は、何もかもを、明るく見せる。
だからこそ、影が、見えにくい。
――明るさの中にこそ、注意して、見なければ、見落とすものが、ある。
青天月、一日。
評議会の間に、月次給与支払いのための、いつもの顔ぶれが、集まっていた。
ゴルフが、帳簿を、卓に、広げる。
「今月の、収支を、まとめました」
外部収入は、今月も、堅調だった。
蒼鋼を巡る、噂の影響も、少しずつ、薄れ始めている。
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バルドが、資料を、めくりながら、ふと、微笑んだ。
「今日は、もう一つ、忘れて、いけないことが、あります」
「バルド様の、誕生日ですね」
ゴルフが、先に、言った。
バルドが、少し、照れたように、頷いた。
「また、一つ、歳を、重ねただけの、日です」
「そんなことは、ありません」
ヒコが、言った。
「今日まで、この領地を、支えてきてくれた、証の日です」
評議会に、小さな、拍手が、起きた。
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挨拶が、一段落したところで、ヒコが、話題を、切り替えた。
「南方調査の、結果を、評議会全体で、共有します」
全員が、姿勢を、正した。
ゼドが、前に、出た。
「南方で、確認したことを、報告します」
「地図欠損地点には、人工的な、認識制御の、痕跡が、残っていました」
ゼドが、説明を、続けた。
「人工的な、ものです。かなり、古い技術です」
そして、はっきりと、言った。
「タナール文明期の、認識制御技術に、似ています」
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その、一言に、評議会の、空気が、一気に、変わった。
タナールという、名前は、この評議会にとって、もはや、ただの、歴史用語では、なかった。
地図の、欠損。
旧遺構の、乱れ。
そして、今、南方廃址で、確認された、この、痕跡。
すべてが、その、一つの、名前に、繋がろうと、していた。
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サヤが、ゆっくりと、口を、開いた。
「……その技術を」
サヤの、声が、少し、震えた。
「……その技術は。まだ、誰かが、使っているのですか」
その、問いに、評議会の、視線が、一斉に、ゼドに、集まった。
ゼドは、しばらく、沈黙していた。
やがて、静かに、答えた。
「………否定は、できません」
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評議会が、静まり返った。
誰も、何も、言わなかった。
言葉を、発すること自体が、その、可能性を、認めることに、なるような、そんな、沈黙だった。
ヒコは、しばらく、その、沈黙を、そのまま、受け止めていた。
やがて、静かに、口を、開いた。
「今すぐ、答えが、出るものでは、ありません」
「ただし」
ヒコが、続けた。
「私たちは、もう、この可能性を、知ってしまった」
「知った以上、目を、逸らすわけには、いきません」
誰も、それに、反対しなかった。
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会議のあと、ヒコは、《可視化》で、遠く、南方の方角を、見つめた。
夏の、明るい光の中、その、方角だけが、以前より、わずかに、暗く、見える気がした。
夏の空は、何もかもを、明るく見せる。
だからこそ、その奥にある影は、見えにくい。
それでも、ヒコには、もう、見えてしまっていた。
第293話 青天月の収支 了
【次回予告】雷鳴月が来た。ヴァルク男爵が、また動いた。
雷は、鳴る前に、空気が変わる。変化に気づいた者だけが、備えられる。
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【領地収支・青天月一日時点】
・所持金:金貨2988枚(+120)
収入内訳
・冒険者固定給 金貨 42枚
・勲爵士給与 金貨 12枚
・外部取引 金貨 105枚
・ギルド収益 金貨 58枚
合計 金貨 217枚
支出内訳
・幹部級給与 金貨 24枚
・準幹部級給与 金貨 9枚
・一般職給与 金貨 40枚
・部門運営費 金貨 24枚
合計 金貨 97枚
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【発展進捗・第293話時点】
・防衛:122%(変動なし)
・食料:101%(変動なし)
・水 :100%(変動なし)
・住居:88%(変動なし)
・インフラ:105%(変動なし)




