↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
434/472

 第291話 陽炎月の夜

 三度目の誕生日。


 一度目の誕生日には、想像もしなかった場所に、今、俺はいる。


 最初の年は、生き延びることに、必死だった。


 ――今年は、守るべきものが、隣にいた。

 陽炎月、十五日。


 ヒコの、誕生日だった。


 夕方。


 食堂に、いつもの顔ぶれが、集まっていた。


 マルティナが、料理を、運んでくる。


 いつもより、皿が、一つ、多かった。


 根菜の煮込み。


 ヒコの、好物だった。


 湯気が、いつもより、少しだけ、豊かに、立っているように、見えた。


──────────────────────────────────────


 食事が、始まると、それぞれが、口々に、祝いの言葉を、口にした。


「おめでとうございます」


 リアが、静かに、言った。


 コリンも、頷いた。


「良い一年に、なりますように」


 ガッツが、豪快に、笑った。


「もう一年、無事に、生きてるってのは、それだけで、めでたいことだ」


 ガデルが、鼻を、鳴らす。


「まだまだ、若いんだ。これからだろう」


──────────────────────────────────────


 食事の合間。


 ヒコは、ふと、食卓を、囲む顔ぶれを、見渡した。


 一年前と、比べて、確かに、顔ぶれが、増えていた。


 リクが、隣に、いる。


 魔法兵団と、循環医療兵団の、隊長たちが、いる。


 子どもたちの、声が、施設に、響くようになった。


 この一年で、積み上げてきたものが。


 この食卓の、顔ぶれに、確かに、映っていた。


──────────────────────────────────────


 食事のあと。


 マユミが、ヒコを、外へ、誘った。


 夜空に、星が、見えていた。


 マユミが、小さな、包みを、取り出した。


「これ」


「何ですか」


 ヒコが、受け取る。


 中には、小さく、細工された、銀の輪が、入っていた。


「婚約の、証、というやつだ」


 マユミが、少し、照れたように、言った。


「ちゃんとした、指輪は、また、後で、用意する」


「ただ、今日は、これだけ、渡しておきたかった」


 ヒコは、その小さな輪を、しばらく、見つめていた。


「ありがとうございます」


「大事に、してくれ」


「します」


 ヒコは、静かに、頷いた。


 小さな銀の輪を、手の中で、そっと、握る。


 それは、金貨で買えるものとは、違っていた。


──────────────────────────────────────


 二人は、しばらく、無言で、星を、見ていた。


「来年の、今頃は、どうなってるんでしょうね」


 ヒコが、ふと、つぶやいた。


「分からない」


 マユミが、答えた。


「ただ、一つだけ、言えることが、ある」


「なんですか」


「来年も、ここに、いる」


 マユミの声は、短く。


 しかし、確かだった。


「わたしも、ヒコも」


 ヒコは、その言葉を、しっかりと、受け止めた。


「来年も、ここに、います」


 二人の約束が、静かな夜空の下で、交わされた。


──────────────────────────────────────


 食堂に、戻ると。


 マルティナが、後片付けをしながら、小さく、鼻歌を、歌っていた。


 いつもは、聞かない、歌声だった。


 誰かが、それに、気づいて、少し、笑った。


 マルティナは、それに、気づかない、ふりを、して、鼻歌を、続けていた。


 この日だけは。


 その歌声が、止まらなかった。


──────────────────────────────────────


 夜が、更けていく。


 施設の窓に、明かりが、灯っている。


 一年前。


 この場所で、ヒコは、一人だった。


 今。


 この場所には、多くの、灯りが、あった。


 その一つ一つが、この一年で、積み上げてきたものの、証だった。


 ヒコは、夜空を、見上げた。


 そして、静かに、思った。


 ――来年も、この灯りを、守ろう。


第291話 陽炎月の夜 了

【次回予告】南方調査隊が、帰ってきた。

 帰ってきた者の顔が、行くときと違うとき、何かが、そこにあった証だ。


──────────────────────────────────────


【領地収支・陽炎月十五日時点】


・所持金:金貨2868枚(変動なし)


──────────────────────────────────────


【発展進捗・第291話時点】


・防衛:122%(変動なし)

・食料:101%(変動なし)

・水 :100%(変動なし)

・住居:88%(変動なし)

・インフラ:105%(変動なし)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。