第291話 陽炎月の夜
三度目の誕生日。
一度目の誕生日には、想像もしなかった場所に、今、俺はいる。
最初の年は、生き延びることに、必死だった。
――今年は、守るべきものが、隣にいた。
陽炎月、十五日。
ヒコの、誕生日だった。
夕方。
食堂に、いつもの顔ぶれが、集まっていた。
マルティナが、料理を、運んでくる。
いつもより、皿が、一つ、多かった。
根菜の煮込み。
ヒコの、好物だった。
湯気が、いつもより、少しだけ、豊かに、立っているように、見えた。
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食事が、始まると、それぞれが、口々に、祝いの言葉を、口にした。
「おめでとうございます」
リアが、静かに、言った。
コリンも、頷いた。
「良い一年に、なりますように」
ガッツが、豪快に、笑った。
「もう一年、無事に、生きてるってのは、それだけで、めでたいことだ」
ガデルが、鼻を、鳴らす。
「まだまだ、若いんだ。これからだろう」
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食事の合間。
ヒコは、ふと、食卓を、囲む顔ぶれを、見渡した。
一年前と、比べて、確かに、顔ぶれが、増えていた。
リクが、隣に、いる。
魔法兵団と、循環医療兵団の、隊長たちが、いる。
子どもたちの、声が、施設に、響くようになった。
この一年で、積み上げてきたものが。
この食卓の、顔ぶれに、確かに、映っていた。
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食事のあと。
マユミが、ヒコを、外へ、誘った。
夜空に、星が、見えていた。
マユミが、小さな、包みを、取り出した。
「これ」
「何ですか」
ヒコが、受け取る。
中には、小さく、細工された、銀の輪が、入っていた。
「婚約の、証、というやつだ」
マユミが、少し、照れたように、言った。
「ちゃんとした、指輪は、また、後で、用意する」
「ただ、今日は、これだけ、渡しておきたかった」
ヒコは、その小さな輪を、しばらく、見つめていた。
「ありがとうございます」
「大事に、してくれ」
「します」
ヒコは、静かに、頷いた。
小さな銀の輪を、手の中で、そっと、握る。
それは、金貨で買えるものとは、違っていた。
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二人は、しばらく、無言で、星を、見ていた。
「来年の、今頃は、どうなってるんでしょうね」
ヒコが、ふと、つぶやいた。
「分からない」
マユミが、答えた。
「ただ、一つだけ、言えることが、ある」
「なんですか」
「来年も、ここに、いる」
マユミの声は、短く。
しかし、確かだった。
「わたしも、ヒコも」
ヒコは、その言葉を、しっかりと、受け止めた。
「来年も、ここに、います」
二人の約束が、静かな夜空の下で、交わされた。
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食堂に、戻ると。
マルティナが、後片付けをしながら、小さく、鼻歌を、歌っていた。
いつもは、聞かない、歌声だった。
誰かが、それに、気づいて、少し、笑った。
マルティナは、それに、気づかない、ふりを、して、鼻歌を、続けていた。
この日だけは。
その歌声が、止まらなかった。
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夜が、更けていく。
施設の窓に、明かりが、灯っている。
一年前。
この場所で、ヒコは、一人だった。
今。
この場所には、多くの、灯りが、あった。
その一つ一つが、この一年で、積み上げてきたものの、証だった。
ヒコは、夜空を、見上げた。
そして、静かに、思った。
――来年も、この灯りを、守ろう。
第291話 陽炎月の夜 了
【次回予告】南方調査隊が、帰ってきた。
帰ってきた者の顔が、行くときと違うとき、何かが、そこにあった証だ。
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【領地収支・陽炎月十五日時点】
・所持金:金貨2868枚(変動なし)
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【発展進捗・第291話時点】
・防衛:122%(変動なし)
・食料:101%(変動なし)
・水 :100%(変動なし)
・住居:88%(変動なし)
・インフラ:105%(変動なし)




