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 第289話 南方からの便り

 現地に行った者だけが、地図に書けないものを、持って帰れる。


 文字にできることには、限りがある。


 ――だが、その限りの外に、一番大事なことが、あることも多い。

 若樹月、十九日。


 南方調査隊から、第一報が、届いた。


 早馬に、ゼドの手紙が、託されていた。


 評議会が、急ぎ、招集される。


 バルドが、手紙を開き、読み上げた。


──────────────────────────────────────


「地図欠損の現場を、確認しました」


「破られた箇所の周囲に、構造的な異常があります」


 その一文に、評議会が、静まった。


「構造的な異常、というのは」


 ドガンが、聞いた。


 バルドが、続きを、読む。


「地面の下に、通常ではあり得ない、規則的な模様があります。自然の地形では、説明がつきません」


──────────────────────────────────────


 手紙は、さらに、続いた。


「これは……タナール文明期の、認識制御技術に、似ています」


 その一文に、リアが、思わず、声を、上げた。


「タナール、ですか」


「はい」


 バルドが、そのまま、読み続けた。


「確証は、ありません。ただし、記録に残るタナール期の遺構と、共通する特徴が、いくつか見られます」


「まだ、断定は、できません。引き続き、調査を続けます」


──────────────────────────────────────


 手紙には、コリンの報告も、添えられていた。


「身体的な異常は、今のところ、誰にも出ていません」


「全員、健康です。ただし、念のため、経過は、注意して、見ています」


 その一文に、評議会の緊張が、少し、緩んだ。


「まずは、良かった」


 アーヴィンが、静かに、言った。


──────────────────────────────────────


 手紙の最後に、もう一つ、伝言が、添えられていた。


「サヤさんに、確認してほしいことが、あります」


「詳細は、また、追って、お伝えします」


 バルドが、読み終え、視線を、上げた。


「サヤさんへの、伝言ですね」


 バルドが、サヤの方を、見た。


「呼びましょうか」


 ヒコが、頷いた。


「呼んでください」


──────────────────────────────────────


 サヤが、評議会に呼ばれ、手紙の内容を、聞いた。


 伝言の詳細は、まだ、届いていない。


 ただし、その一文。


 ――「確認してほしいことがある」。


 その言葉だけで、サヤは、しばらく、黙り込んだ。


「サヤさん」


 ヒコが、声を、かけた。


「……はい」


 サヤが、我に、返った。


「何か、心当たりが、ありますか」


 サヤは、少し、考えてから、答えた。


「はっきりとは、分かりません」


「ただ……ゼドさんが、確認してほしいこと、というのは」


 サヤが、続けた。


「たぶん、私の《可視化》に起きている、あのノイズと、関係が、あるのだと、思います」


 その言葉に、評議会が、また、静まった。


「詳細が、届くまで、待ちましょう」


 ヒコが、静かに、言った。


「今、憶測を、重ねても、仕方ありません」


──────────────────────────────────────


 夜。


 サヤは、一人、自分の部屋で、《可視化》を、試した。


 視界の端の、あの揺れが、また、そこに、あった。


 この揺れが、何を、意味しているのか。


 ゼドが、確認したいこととは、何なのか。


 答えは、まだ、遠い南方の地の中に、あった。


第289話 南方からの便り 了

【次回予告】陽炎月が、来た。

 同じ暑さが、去年と違う重さで、来ることがある。


──────────────────────────────────────


【領地収支・若樹月十九日時点】


・所持金:金貨2753枚(変動なし)


──────────────────────────────────────


【発展進捗・第289話時点】


・防衛:122%(変動なし)

・食料:101%(変動なし)

・水 :100%(変動なし)

・住居:88%(変動なし)

・インフラ:105%(変動なし)

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