第四十三話「打診と、コリンの答え」
翌朝。
コリンは早く起きていた。
食堂に下りると、一人で座っていた。
何かを読んでいた。
小さな本だった。
俺を見た。
「おはようございます」
「おはようございます。よく眠れましたか」
「はい。久しぶりに」
少し間があった。
「パーティの話、聞かせてもらえますか」
コリンが先に言った。
俺は椅子を引いた。
「どうぞ」
まず、俺が話した。
パーティの構成。
ヒコ、アーヴィン、マユミ、リア。
今の役割分担。前衛二人、後衛二人。
主にどんな依頼を受けているか。
コリンは黙って聞いた。
メモは取らなかった。
でも、ちゃんと聞いていた。
「回復職が今いないのは、意図してですか」
「意図はしていません。結果としてそうなっています」
「困る場面はありますか」
「あります。長期の依頼や、消耗が続く場面では特に」
「そうですか」
コリンが少し考えた。
「一つ聞いてもいいですか」
「はい」
「なぜ俺に声をかけたんですか。昨日、ギルドの前で」
俺は少し考えた。
「スキルで、あなたが何かを探しているのがわかりました」
「スキル」
「俺のスキルは、人の状態が少しわかります。疲れているか、消耗しているか。昨日のあなたは落ち着いていたけど、探していた」
「……それは便利なスキルですね」
「地味なスキルです」
「地味とは思いません」
コリンが俺を見た。
「もう一つ聞いていいですか」
「どうぞ」
「パーティに入れるかどうか、まだ決めていないですよね」
「はい」
「なのになぜ、宿を紹介してくれたんですか」
俺はまた少し考えた。
「現場で一緒に動く前に、人を見る時間が要ります。昨日は今日のための段取りです」
コリンが少し目を細めた。
「段取り」
「俺の前の仕事での話ですが、段取りが八割だと思っています。本番より準備が大事だ、という意味です」
「前の仕事」
「少し変わった事情があります。詳しくは、パーティに入ってから話します」
コリンがうなずいた。
「わかりました」
それ以上は聞かなかった。
賢い人間だ、と思った。
他の三人が下りてきた。
マユミが眠そうに椅子に座った。
リアがコリンを一瞥した。
アーヴィンさんがいつもの席に座った。
マルティナさんが朝食を運んできた。
五人分。
何も言わなかった。
でも、用意していた。
そういう人だ。
「今日、一緒に動いてみませんか」
俺はコリンに言った。
「依頼ですか」
「採取依頼を一本入れています。街の東側の森です。戦闘になることは少ない場所ですが、実際に動いてみた方がお互いわかることがある」
コリンが少し間を置いた。
「俺が足を引っ張ったら」
「その時はその時です」
「楽観的ですね」
「現場仕込みなので」
コリンがまた少し目を細めた。
「……わかりました。お供します」
午前中に街を出た。
五人で並んで歩いた。
東側の森は、街から半刻ほどだった。
起伏が少ない。
視界が開けている。
初めて連れていくには悪くない場所だ。
歩きながら、コリンとリアが少し話していた。
「出身はどこですか」
リアが聞いた。珍しかった。
「東のネルタです。ご存知ですか」
「知っています。小さな街ですね」
「はい。リアさんは」
「ノルファです」
「……ノルファ」
コリンが少し止まった。
「師匠がノルファの出身でした」
リアが少し顔を動かした。
「そうですか」
「シグレという人間です。知っていますか」
リアが少し間を置いた。
「……知っています。師匠の、知り合いでした」
二人が少し黙った。
俺は前を向いて歩きながら聞いていた。
世界は狭い。
いや、繋がっている。
マユミが小声で俺に言った。
「なんか、すごい偶然だな」
「そうですね」
「リアの顔、珍しい顔してる」
俺も少し思った。
リアは普段、感情を表に出さない。
でも今は、少しだけ違った。
森に入った。
採取依頼の対象は、薬草が二種類と、樹液を採る木が三本。
難しくはない。
でも、慣れていないと迷う。
俺が先頭に立った。
リアが索敵を張った。
「半径五十メートル、反応なし」
「わかりました。では進みます」
コリンが少し驚いた顔をした。
「索敵魔法ですか」
「そうです」
「精度が高いですね」
「当然です」
リアが当然のように言った。
コリンが少し笑った。
採取は順調だった。
薬草はマユミとリアが手際よく摘んだ。
樹液の採取はアーヴィンさんが担当した。
コリンは最初、少し遠慮がちに動いていた。
でも、マユミが薬草を摘んでいるときに躓いた。
コリンがすぐに動いた。
「足首は」
「平気。ちょっと捻っただけ」
「見せてください」
マユミが少し戸惑いながら足首を出した。
コリンが手を当てた。
静かに、短く何かを唱えた。
淡い光が出た。
「腫れる前に処置しました。今日は無理に動かさない方がいいですが、支障はないと思います」
「……早いな」
「習慣です。師匠に叩き込まれました」
マユミが足首を動かした。
「ほんとだ。痛くない」
「よかったです」
コリンが立ち上がった。
特に何も言わなかった。
俺はそれを見ていた。
出しゃばらない。
でも、必要な場面で動く。
いい動き方だ。
昼過ぎに街に戻った。
ギルドに採取物を納品した。
「五人で動いたのか」
受付の人間が少し驚いた顔をした。
「今日は試験的に」
「そうか。まあ、ちゃんと揃っているならいいが」
銀貨を二枚受け取った。
五人で割ると少ない。
でも、今日の目的は別だ。
ギルドの外に出た。
五人で立った。
「コリンさん」
「はい」
「正式に、パーティへの加入を打診したいと思います」
コリンが少し緊張した顔をした。
「……俺でいいんですか」
「昨日から今日、見ていました。問題ないと思っています」
「足を引っ張りませんでしたか」
「引っ張っていません。むしろ助かりました」
マユミが口を挟んだ。
「足首、ありがとな」
「いえ」
リアが腕を組んだまま言った。
「索敵と回復の二段構えになります。悪くない」
「リアさん、それは賛成ということですか」
「事実を言っています」
コリンが少し困った顔をした。
でも、笑っていた。
アーヴィンさんが少し前に出た。
コリンを見た。
「強くなれるか」
短く言った。
コリンが少し間を置いた。
「なります」
答えが早かった。
アーヴィンさんが少し目を細めた。
何も言わなかった。
でも、それが答えだった。
「よろしくお願いします」
コリンが深く頭を下げた。
「こちらこそ」
俺は言った。
五人になった。
段取りが、一つ完成した。
現場は人間で動く。
人間が増えた。
それだけでいい。
第四十三話「打診と、コリンの答え」 了




