第四十二話「コリンと、静かな出会い」
翌日。
コルテさんの依頼で倉庫へ行った。
いつもの仕事だった。
品目の確認、数量の記録、棚の整理。
手が覚えている動きだ。
アーヴィンさんとマユミは外で待っていた。
リアは近くの市場で薬草を見ていると言った。
一時間ほどで終わった。
「早いな」
コルテさんが言った。
「慣れました」
「また来週頼む」
「はい」
それだけだった。
外に出ると、マユミが欠伸をしていた。
「終わったか」
「終わりました」
「リアはまだ市場だろ」
「迎えに行きましょう」
アーヴィンさんが先を歩いた。
三人で市場の方へ向かった。
リアはすぐ見つかった。
薬草の束を三つ抱えていた。
「効率が悪い待ち方をしていましたね」
「お前を迎えに来たんだ」
マユミが言った。
「無駄な動きです」
「うるさい」
四人になった。
帰り道を歩いた。
冒険者ギルドの前を通るときだった。
見慣れない人間が立っていた。
背が高かった。
黒い法衣を着ていた。
腕を組んで、ギルドの掲示板を眺めていた。
俺のスキルが反応した。
消耗していない。
落ち着いている。
それから、ぼんやりと。
何かを探している。
アーヴィンさんが少し足を止めた。
その人間が振り向いた。
目が合った。
少し間があった。
「……冒険者の方ですか」
静かな声だった。
低い。
落ち着いている。
顔を見た。
二十代の前半か、半ばか。
整った顔だちだが、派手さはない。
目が、少し疲れていた。
「そうです」
俺が答えた。
「ギルドに用がありますか」
「少し、聞きたいことがあって」
男が掲示板を振り返った。
「この街で、僧侶は珍しいですか」
俺は少し考えた。
「珍しくはないと思いますが、なぜですか」
「三日前に着きました。依頼を探しているんですが、なかなか」
男がまた掲示板を見た。
「戦闘向きの依頼が多くて。回復職は単独だと難しい」
「パーティを探しているということですか」
「そういうことになります」
男が俺を見た。
「突然すみません。人に話しかけるのが得意じゃなくて」
マユミが俺の隣で少し動いた。
何か言いかけて、止めた。
「名前を聞いてもいいですか」
「コリンです。コリン・ヴァーネ」
俺は少し間を置いた。
「ヒコといいます。こちらはアーヴィン、マユミ、リア」
コリンが四人を順番に見た。
「よろしくお願いします」
深く頭を下げた。
丁寧な人間だった。
アーヴィンさんが少し目を動かした。
コリンを見た。
何も言わなかった。
マユミが口を開いた。
「どこから来たんだ」
「東の街です。ネルタという小さな街で」
「なんでこっちに」
「師匠が、この方面に行けと言ったので」
「師匠」
「もう亡くなりました。三年前に」
マユミが少し黙った。
リアが腕を組んだまま、少し顔を上げた。
俺は続けた。
「今日は宿はどこですか」
「まだ決めていません。荷物はギルドに預けています」
俺は少し考えた。
段取りとしては、すぐに誘うのは早い。
でも、話を聞く機会は作れる。
「もしよければ、少し話を聞かせてもらえますか。近くに食堂があります」
コリンが少し驚いた顔をした。
「いいんですか」
「ただの立ち話です。パーティの話は、それからです」
「……はい。ありがとうございます」
近くの食堂に入った。
五人のテーブルは少し狭かった。
コリンは飲み物だけを頼んだ。
「遠慮しなくていいですよ」
「いや、本当に大丈夫です。さっき食べたので」
正直な人間だな、と思った。
話を聞いた。
コリンは東の街の出身だった。
師匠の下で五年、回復魔法と補助魔法を学んだ。
師匠が病で亡くなってから、一人になった。
この街には三日前に着いた。
「スキルは何がありますか」
「回復魔法と、あと少し」
「少し、というのは」
「あまり使わないので」
コリンが少し間を置いた。
「状態異常の解除と、簡単な結界です。防御向けの補助が少し」
リアが少し顔を動かした。
「補助魔法の系統は」
「師匠の専門が防御系だったので、そちらが得意です」
「攻撃は」
「ほぼありません」
「……なるほど」
リアが腕を組んだ。
「効率は悪くない構成です」
コリンが少し首を傾けた。
「そうですか」
「うちは攻撃と前衛は揃っています。回復と補助が薄い。理屈の上では合います」
「リア」
俺が言った。
「速い」
「事実を言っただけです」
マユミが笑った。
コリンが少し困った顔をした。
「こういう人です」
俺が言った。
「悪い人間ではないので」
「……はい。なんとなく、わかります」
コリンが少し笑った。
初めて笑った顔だった。
俺のスキルが、ぼんやりと反応した。
緊張が、少し解けた。
それだけだった。
でも、わかった。
この人間は、ずっと一人だった。
師匠が亡くなってから、三年間。
「コリンさん」
「はい」
「今夜の宿は、星の宿はどうですか。俺たちも泊まっています。空きがあるか確認できます」
コリンが少し止まった。
「パーティに、ということではないですよね」
「今夜の宿の話です。パーティの話は別です」
「……そうですか」
少し間があった。
「では、お願いしてもいいですか」
「はい」
星の宿に戻った。
マルティナさんに話した。
「一泊、空きはありますか」
マルティナさんがコリンを見た。
「法衣か」
「はい。コリンといいます」
「いくつだ」
「二十二です」
マルティナさんが少し間を置いた。
「食事は」
「いただけるなら」
「座れ」
コリンが少し戸惑った顔をした。
「それは、つまり」
「空きがある。座れ」
「……ありがとうございます」
コリンが椅子を引いた。
マルティナさんが厨房に戻った。
アーヴィンさんがコリンの向かいに座った。
少し間があった。
「何年目だ」
アーヴィンさんが言った。
「冒険者登録は、今年です。師匠の下にいた間は登録していなかったので」
「強さは」
「わかりません。比べたことがないので」
アーヴィンさんが少し黙った。
「正直だな」
「嘘をついても仕方ないので」
アーヴィンさんが少し目を細めた。
何も言わなかった。
でも、悪い反応じゃなかった。
俺はそれだけ確認した。
夕食が来た。
五人分のテーブルだった。
コリンが静かに食べた。
マユミがよく喋った。
リアが時々口を挟んだ。
アーヴィンさんが黙っていた。
俺は聞いていた。
いつもと、少し違うテーブルだった。
でも、悪くなかった。
今夜は今夜だ。
パーティの話は、明日以降だ。
段取りは焦らない。
現場と同じだ。
人間を見る時間が、まず必要だ。
第四十二話「コリンと、静かな出会い」 了




