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 第283話 揺らぐ見え方

 見えていたはずのものが、ある日、見えなくなる。


 その変化に気づくのは、いつも、後になってからだ。


 ――見えなくなる前の兆しに、気づける者は、少ない。

 花灯月、十六日。


 評議会の間に、サヤが、少し緊張した面持ちで、立っていた。


「一つ、報告したいことが、あります」


 全員の視線が、サヤに集まる。


「《可視化》の精度に、ノイズが入っています」


「以前より……確実に、増えています」


 その言葉に、評議会が、静まった。


──────────────────────────────────────


 サヤが、続けた。


「風景の輪郭が、揺れて見えることが、増えました」


「特に、南方の方角を視ようとしたとき、その揺れが、強くなります」


 バルドが、心配そうに、聞いた。


「体調は、大丈夫ですか」


「大丈夫です。ただ、精度は、確実に落ちています」


 サヤが、正直に、答えた。


──────────────────────────────────────


 その報告を聞いていたヒコが、静かに、口を開いた。


「実は、私も、似た感覚を覚えています」


 評議会の視線が、今度は、ヒコに集まった。


「地図の欠損を確認した時期から、ずっとです」


「《可視化》を発動したとき、時折、視界の端が揺れることがあります」


「一瞬のことなので、気のせいだと思っていました」


 ヒコが、続けた。


「ただ、サヤさんの報告と合わせて考えると……気のせいでは、ないのかもしれません」


──────────────────────────────────────


 リアが、資料をめくりながら、考え込んだ。


「魔力の流れに、何らかの干渉が、あるのかもしれません」


「干渉、というと」


 ドガンが、聞いた。


「《可視化》は、魔力の流れを読み取るスキルです」


 リアが、説明した。


「その、読み取る対象――流れそのものに、ノイズが混ざっているとしたら」


「見る側の精度が落ちるのも、当然です」


「原因は」


 ヒコが、聞いた。


「分かりません」


 リアが、正直に、答えた。


「ただ、南方廃址の地図欠損。旧遺構深部の乱れ」


「それらと、同じ原因かもしれません」


──────────────────────────────────────


 評議会の間に、緊張が走った。


 アーヴィンが、腕を組んだ。


「今すぐ、南方廃址に行くべきではないか」


 その意見に、いくつかの頷きが返った。


 だが、ドガンが、慎重な声で、言った。


「原因が分からないまま、飛び込むのは危険だ」


「ゼドの見立てでは、これは『見えなくする』力かもしれない、という話だった」


「相手の正体も分からないまま、乗り込めば、こちらが危険に晒される」


 ガデルが、低く、唸った。


「かといって、放っておいて、いいものでもないだろう」


 評議会は、再び、南方廃址への対応を巡って、議論を始めた。


──────────────────────────────────────


 ヒコは、その議論を聞きながら、考えをまとめた。


「今すぐの大規模な調査は、見送ります」


「ただし」


 ヒコが、続けた。


「小規模な調査隊の準備は、進めておきます」


「タイミングを見極めて、すぐに動けるように」


 アーヴィンが、頷いた。


「それで、いい」


 ドガンも、同意した。


「準備は、無駄にはならない」


──────────────────────────────────────


 夜、サヤは、一人、《可視化》を試みた。


 視界の端に、また、あの小さな揺れが走った。


 まるで、見られることを拒む何かが、そこにあるかのように。


 サヤは、その揺れを、しばらく、見つめていた。


 ――何かが、確かに、近づいてきている。


 その予感だけが、はっきりと、あった。


第283話 揺らぐ見え方 了

【次回予告】白金霊鉱をめぐる、不穏な動きがあった。

 深いところにあるものが狙われるとき、気配は表面に出る。


──────────────────────────────────────


【領地収支・花灯月十六日時点】


・所持金:金貨2531枚(変動なし)


──────────────────────────────────────


【発展進捗・第283話時点】


・防衛:122%(変動なし)

・食料:101%(変動なし)

・水 :100%(変動なし)

・住居:88%(変動なし)

・インフラ:105%(変動なし)

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