第281話 新しい圧力
同じ敵が、違う顔で来るとき、初めて見る敵より、対処が難しい。
知っているつもりの相手が、知らない顔を、見せてくる。
――その落差こそが、一番、危険だった。
花灯月、三日。
評議会の間に、ドガンが、いつになく、険しい顔で、資料を抱えて、入ってきた。
「ヴァルク男爵の、新しい手が、判明した」
ヒコが、資料を受け取る。
「一つや、二つじゃない。四方向、同時だ」
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ドガンが、一つずつ、説明を始めた。
「一つ目。制度の模倣」
「ヴァルク領内で、フォルテス領の弟子制度と、評議会に似た仕組みが、正式に、始まった」
バルドが、眉を寄せた。
「表面だけ、真似ている、ということですか」
「ああ。ただ、外から見れば、区別がつきにくい」
「二つ目。技術者の引き抜き」
ドガンが、続けた。
「複数の職人や研究者に、個別の接触が、あった」
「金ではない。地位や待遇を、餌にした誘いだ」
リアが、頷いた。
「私の下にいる候補生の一人にも、話が来たと、報告がありました」
「本人は、断ったそうです」
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「三つ目。商人への圧力」
ドガンが、続けた。
「フォルテス領と取引している商人の一部に、取引量を減らすよう、働きかけている」
ゴルフが、少し、顔を曇らせた。
「実際、二件、取引量の削減を、打診されています」
「理由は、はっきり、言いません。ただ、時期を考えると、無関係とは、思えません」
「四つ目。噂の流布」
ドガンが、最後に、言った。
「『フォルテス領の蒼鋼は、品質が不安定だ』という、根拠のない話が、ギルド内で、広まりつつある」
ガデルが、鼻を鳴らした。
「ふざけるな。あの石を、そんな、いい加減な扱いをするもんか」
「事実無根だと、分かっている」
ドガンが、頷いた。
「ただし、広まってしまえば、事実かどうかは、関係なくなる」
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評議会の間に、重い空気が流れた。
ドガンが、腕を組んだ。
「同時に、四方向から、来た」
「どれも、合法だ」
「だから、止めにくい」
制度の模倣も、引き抜きも、商談の駆け引きも、噂の流布も、それぞれ単独では、罪に問えない。
証拠も、直接的な指示の記録も、残っていない。
ヴァルク男爵は、いつも、そうやって、動いていた。
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ヒコは、しばらく、資料を見つめていた。
やがて、静かに、口を開いた。
「合法的に、潰しに来ています」
「ならば」
ヒコの視線が、上がった。
「同じく、合法的に、返します」
その言葉に、評議会の空気が、少し、変わった。
ドガンが、口の端を、上げた。
「その答えを、待っていた」
「一つずつ、対処します」
ヒコが、続けた。
「制度は、結果で、差を見せます」
「人は、信頼で、引き止めます」
「商人は、こちらの誠実さで、繋ぎ止めます」
「噂は、事実で、消します」
ヒコは、四つの問題を、順番に、見た。
「四方向、それぞれに、四方向の、返し方があります」
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バルドが、資料にメモを取りながら、頷いた。
「対応方針を、それぞれ、整理します」
「時間は、ありますか」
ヒコが、聞いた。
ドガンが、少し、考えてから、答えた。
「急ぐに越したことはない」
「ただし、慌てて、雑に動けば、逆効果になる」
「ならば、急ぐべきところだけ、急ぎましょう」
ヒコが、言った。
「一つずつ、丁寧に、潰していきます」
ドガンが、頷いた。
「それでいい」
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夜、ヒコは、《可視化》で、遠くのヴァルクの流れを、確認した。
以前より、その流れは、細かく、枝分かれしているように、見えた。
一本の太い脅威ではない。
いくつもの、細い脅威。
その方が、厄介だった。
ヒコは、その流れを、しばらく、見つめた。
そして、静かに、決意を固めた。
――全部、返す。
第281話 新しい圧力 了
【次回予告】情報の出口を、探した。
漏れ続けているものは、止める前に、どこから漏れているかを知らなければならない。
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【領地収支・花灯月三日時点】
・所持金:金貨2531枚(変動なし)
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【発展進捗・第281話時点】
・防衛:122%(変動なし)
・食料:101%(変動なし)
・水 :100%(変動なし)
・住居:88%(変動なし)
・インフラ:105%(変動なし)




