↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
423/474

 第280話 芽吹月

 同じ季節は、二度と来ない。


 ただし、似た季節は、必ず来る。


 ――そのとき、去年と何が変わったのかが、初めて、はっきりと、見えてくる。

 地歴四百九十年、芽吹月、一日。


 新年最初の月次給与支払いから、二か月あまりが、過ぎていた。


 評議会の間に、いつもの顔ぶれが、揃っている。


 バルドが、資料をめくりながら、ふと、口を開いた。


「ちょうど一年前の、今頃を、覚えていますか」


 評議会の何人かが、思い出すように、視線を上げた。


「査察官が、来た時期です」


 アーヴィンが、頷いた。


「あの頃は、まだ、要塞の一部さえ、完成していなかった」


 ドガンが、続ける。


「王国産業省への、移行を、拒否するかどうか。評議会が、初めて、揺れた時期でも、あった」


 バルドが、静かに、言った。


「一年で、ずいぶん、変わりました」


──────────────────────────────────────


 ガッツが、住居拡張の進捗を、報告した。


「住居拡張、第一段階。職員寮、兵舎、近衛宿舎、魔力適性者用区画。すべて、完成した」


「住居環境は、これで、かなり、改善された」


 アーヴィンが、深く、頷いた。


「団員たちも、ようやく、暖かい部屋で、眠れる」


「よく、やってくれた」


 ガッツが、少し、照れたように、鼻を鳴らした。


「現場の連中の、働きだ。俺一人の、手柄じゃない」


──────────────────────────────────────


 ヒコは、その報告を、聞きながら、《可視化》を、発動した。


 領地全体が、視界に、広がる。


 一年前の、同じ時期と、比べる。


 ――色が、確実に、増えていた。


 防衛の色。


 食料の色。


 住居の色。


 新しく生まれた、魔法兵団の色。


 循環医療兵団の色。


 学びの声が響く、教室の色。


 どれもが、一年前より、濃く、確かなものに、なっていた。


 ヒコは、その色を、しばらく、見つめていた。


 ――ただし。


 その視界の、遠い端に、以前は、なかった、新しい影の兆しが、見え始めていた。


 まだ、輪郭は、はっきりしない。


 ただ、確かに、そこに、あった。


──────────────────────────────────────


 報告が、一通り、終わりかけた頃。


 ミルヴァが、静かに、手を挙げた。


「一つ、皆さんに、聞いてほしいことが、あります」


 評議会の空気が、少し、変わった。


「最近、気になっていることが、あります」


 ミルヴァが、続けた。


「帳簿の誤差。二度あった、工具の紛失」


「薬草の在庫が、記録より、少なかったこと」


「学校で、子どもに、知らない誰かが、声をかけたこと」


「産業省の書状の、言葉の選び方が、内情を知る者のようだったこと」


「訓練名簿に、書き直された跡が、あったこと」


「帳簿の紙の質が、一枚だけ、違っていたこと」


 一つ一つを、ミルヴァは、淡々と、並べていった。


 どれも、単独なら、見過ごしても、おかしくない出来事だった。


「一つ一つは、小さいことです」


 ミルヴァが、そこで、少し、間を置いた。


「ただし……並べると、気になります」


──────────────────────────────────────


 評議会の間に、沈黙が、広がった。


 誰かが、口を開こうとして、閉じた。


 バルドが、それぞれの出来事を、思い返すように、視線を落とした。


「言われてみれば……どれも、単独で、片付けていました」


「誤記だろう、と」


「気のせいだろう、と」


「偶然だろう、と」


 ゴルフが、少し、声を震わせた。


「一つずつ、見れば、確かに、そうです」


「ただし、これだけ、揃うと……」


 ドガンが、腕を組んだまま、低く、言った。


「……偶然とは、思えなくなってくるな」


 評議会が、この日、初めて、それらの出来事を、一つの流れとして、認識し始めていた。


──────────────────────────────────────


 ヒコは、しばらく、黙って、その議論を、聞いていた。


 やがて、静かに、口を開いた。


「今まで、一つ一つを、個別の問題として、片付けてきました」


「それは、間違いでは、ありません。当時は、それぞれが、小さすぎた」


「ただし、これからは、違います」


 ヒコが、続けた。


「ミルヴァ。これらを、一つの案件として、まとめて、追ってください」


「発生した日付、場所、関わった人物。全部、記録してください」


 ミルヴァが、頷いた。


「承知」


 短く、答えた。


「もう、見逃しません」


──────────────────────────────────────


 会議の終わり、ヒコは、もう一度、《可視化》を、発動した。


 遠くに見える、あの新しい影の兆しを、もう一度、見つめる。


 まだ、それが何かは、分からない。


 ただし、もう、気づかないふりは、できない。


 この一年、この領地が、積み上げてきたもの。


 そのすべてを、静かに、狙う何かが、確かに、動き始めていた。


第280話 芽吹月 了

【次回予告】新しい圧力が、見えてきた。

 同じ敵が、違う顔で来るとき、初めて見る敵より、対処が難しい。


──────────────────────────────────────


【領地収支・芽吹月一日時点】


・所持金:金貨2531枚(+125)


 収入内訳

 ・冒険者固定給  金貨   42枚

 ・勲爵士給与   金貨   12枚

 ・外部取引    金貨  108枚

 ・ギルド収益   金貨   60枚

  合計      金貨  222枚


 支出内訳

 ・幹部級給与   金貨   24枚

 ・準幹部級給与  金貨    9枚

 ・一般職給与   金貨   40枚

 ・部門運営費   金貨   24枚

  合計      金貨   97枚


──────────────────────────────────────


【発展進捗・第280話時点】


・防衛:122%(変動なし)

・食料:101%(変動なし)

・水 :100%(変動なし)

・住居:88%(+3・住居拡張第一段階完成)

・インフラ:105%(変動なし)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。