↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
419/476

 第276話 見学者

 何かを見に来た人間の目は、普通の目とは、違う動きをする。


 見たいものだけを、正確に、探している。


 ――ハイム子爵の目が、まさに、そういう目だった。

 凍氷月、二十七日。


 ハイム子爵が、フォルテス領を、訪れた。


 供は、最小限だった。


 護衛が一人、書記官が一人。


 物々しさは、なかった。


 ただ、その静かな佇まいの中に、隙のなさが、あった。


──────────────────────────────────────


 評議会の見学は、あらかじめ、定めた範囲に、限られていた。


 部門別運営の枠組み、領民登録制度の運用、評議会の議事進行。


 非公開の事項――白金霊鉱、南方廃址の記録、暗部の動き――は、一切、見せなかった。


 ハイムは、それに、異を、唱えなかった。


 ただ、静かに、見せられた範囲を、丹念に、見て回った。


──────────────────────────────────────


 見学の中で、ハイムが、何度も、口にした言葉が、あった。


「これは、誰が、設計したのですか」


 部門別の予算構造を、見ては、そう、聞いた。


 領民登録の三段階の仕組みを、見ては、また、そう、聞いた。


 バルドが、その都度、答えた。


「評議会全体で、話し合いながら、作り上げました」


「ただし、最初の骨格は、ヒコ様が、示されました」


 ハイムは、その答えを、静かに、書き留めた。


 表情は、ほとんど、変わらなかった。


──────────────────────────────────────


 見学の終盤、ハイムが、ヒコに、直接、向き直った。


「一つ、伺っても、よろしいですか」


「どうぞ」


 ハイムの視線が、まっすぐ、ヒコに、向いた。


「あなたは、なぜ、領主で、あり続けるのですか」


 思いがけない、問いだった。


 制度についての質問が、続いていた中で、突然、人そのものへの、問いに、変わった。


 ヒコは、少し、考えてから、答えた。


「現場を、止めたくないからです」


「土地が欲しいわけでも、権力が欲しいわけでもありません」


「ここで、人が、生きて、働き、また、明日を、迎えられる。その日常を、守り続けたいだけです」


──────────────────────────────────────


 その答えを、聞いた瞬間。


 ハイムの表情が、初めて、わずかに、変わった。


 驚きとも、興味とも、違う、微妙な、動きだった。


 ほんの、一瞬。


 だが、確かに、何かが、そこに、映った。


 ハイムは、すぐに、いつもの、静かな表情に、戻った。


「……なるほど」


 それだけ、言って、視線を、逸らした。


 その一言の裏に、何があったのか、その場の誰にも、分からなかった。


──────────────────────────────────────


 見学が、終わり、ハイムが、宿舎へと、戻っていった。


 マユミが、その後ろ姿を、じっと、見ていた。


「……あの目」


「どうしましたか」


 ヒコが、聞いた。


「あの人は、領地を、見に来たんじゃない。ヒコを、見に来た」


 マユミが、静かに、続けた。


「領地じゃない。あなた自身を、見ていた」


 その言葉に、ヒコは、少し、考え込んだ。


 ハイムが、見ていたものが、この領地の仕組みなのか、それとも、その仕組みを作った人間、そのものなのか。


 まだ、判断は、つかなかった。


 ただ、マユミの、この違和感だけは、王都での出来事を通じて、一貫して、消えることが、なかった。


──────────────────────────────────────


 夜、宿舎の一室で、ハイムが、一人、書き物を、していた。


 書いていたのは、他領の内政事例の資料――約束していた、対価だった。


 その手を、一度、止める。


 窓の外を、しばらく、見つめた。


「……あの答えは」


 それ以上、言葉には、しなかった。


 ペンを、また、動かし始める。


 その表情からは、何も、読み取れなかった。



第276話 見学者 了

【次回予告】ハイム子爵との、等価交換が、始まった。

 対等な取引は、どちらも、何かを手放すことで成立する。


──────────────────────────────────────


【領地収支・凍氷月二十七日時点】


・所持金:金貨2281枚(変動なし)


──────────────────────────────────────


【発展進捗・第276話時点】


・防衛:122%(変動なし)

・食料:101%(変動なし)

・水 :100%(変動なし)

・住居:85%(変動なし・工事進行中)

・インフラ:105%(変動なし)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。