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 第274話 産業省の返事

 待っていた返事は、いつも、予想と違う形で来る。


 勝ちでも、負けでもない、その中間の形で。


 ――そういう返事ほど、後になって、じわじわと、効いてくる。

 凍氷月、十四日。


 王都から、正式な書状が、届いた。


 差出人は、王国産業省。


 評議会の間に、緊張が、走った。


 ヒコが、封を、開ける。


 ドガンが、隣で、それを、覗き込んだ。


──────────────────────────────────────


 書状の内容は、こうだった。


 フォルテス領における現行の自主管理体制については、当面、これを認める。


 ただし、条件として、定期的な報告義務を、課す。


 文面は、丁寧だった。だが、その丁寧さの中に、明確な、線引きが、あった。


 完全な承認では、なかった。


 しかし、否定でも、なかった。


──────────────────────────────────────


 ドガンが、書状を、読み終えて、腕を、組んだ。


「勝ちでも、負けでもない」


「ただし、認められた」


 ヒコが、頷いた。


「報告義務は、重荷ではありません」


「こちらから、見せる機会になります」


 ドガンが、少し、感心したように、ヒコを、見た。


「その考え方は、悪くない」


「見せるべきものは、十分にあります」


 ヒコが、続けた。


「見せることで、こちらの正当性を、積み重ねます」


──────────────────────────────────────


 バルドが、書状を、もう一度、確認しながら、言った。


「完全な承認に、ならなかったのは、ヴァルク男爵側の、働きかけの影響でしょう」


「産業省内部にも、慎重派が、いる、ということです」


 ヒコが、頷いた。


「予想の範囲内です」


「先手の資料提出が、なければ、もっと、厳しい条件が、付いていたはずです」


 ドガンが、頷く。


「それは、間違いない」


「先に、手を、打っておいて、良かった」


──────────────────────────────────────


 評議会が、一区切りついたところで、ドガンが、書状を、もう一度、手に取った。


 文面を、じっと、見つめる。


「……なあ」


「何ですか」


 ドガンが、少し、眉を、寄せた。


「この書状の言葉の選び方……少し、気になる」


「気になる、というのは」


「フォルテス領の内情を、ある程度、知っている者が、書いたような気がする」


 ヒコは、書状を、もう一度、受け取り、目を、通した。


「どういうことですか」


「例えば、ここだ」


 ドガンが、一文を、指さした。


「『部門別の運営が、機能している点は、評価に値する』とある」


「部門ごとの裁量予算の、話は、産業省への提出資料には、詳しく、書いていない。表面的な、報告だけだ」


 ヒコの表情が、わずかに、変わった。


「……確かに」


「偶然かもしれん」


 ドガンが、続けた。


「産業省の職員が、独自に、調べた可能性も、ある」


「ただし」


 ドガンが、少し、間を、置いた。


「……証拠はない。だが、嫌な違和感だ」


 その言葉に、これといった、結論は、出なかった。


 それでも、その違和感だけが、その場に、残った。


──────────────────────────────────────


 夜、ヒコは、書状を、もう一度、読み返していた。


 文面は、丁寧で、隙のない、行政文書だった。


 だが、ドガンの言った、その一文だけが、どうしても、頭から、離れなかった。


 誰かが、この領地の、内側を、見ている。


 そんな感覚が、ヒコの胸に、小さな棘のように、残った。


 書状の差出人は、産業省。


 だが、その向こう側にいる者は、本当に、それだけなのだろうか。



第274話 産業省の返事 了

【次回予告】ハイム子爵から、ようやく、動きがあった。

 長く黙っていた者が動くとき、その一歩は、他の誰より、重い。


──────────────────────────────────────


【領地収支・凍氷月十四日時点】


・所持金:金貨2281枚(変動なし)


──────────────────────────────────────


【発展進捗・第274話時点】


・防衛:122%(変動なし)

・食料:101%(変動なし)

・水 :100%(変動なし)

・住居:85%(変動なし・工事進行中)

・インフラ:105%(変動なし・産業省の自主管理体制承認を反映)

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