第272話 兵舎を建てる
帰る場所がある者は、戦い方が変わる。
守るべきものがあるからこそ、人は、強くなれる。
――ただし、その帰る場所を、誰が、守るのか。
凍氷月、一日。
朝から、建設現場に、槌の音が、響いていた。
住居拡張第一段階。
中心となるのは、騎士団兵舎の建設だった。
それに合わせて、職員寮、近衛宿舎、魔力適性者用区画も、同時に着工した。
ガッツが、現場の中央に、立っていた。
図面を、手に持ち、大声で、指示を、飛ばす。
「そこ、基礎の深さが、図面と違う」
「図面通りに戻せ。現場判断で変えるな」
職人たちが、慌てて、確認する。
「勝手に、良かれと思って、変えるのが、一番、危ない」
ガッツの声には、現場を、長年、見てきた者の、確信があった。
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この建設は、評議会での審議を経て、ヒコが、正式に、決裁した案件だった。
部門ごとの予算とは、別枠の、施設建設費。
バルドが、着工前の会議で、その旨を、確認していた。
「兵舎、寮、区画。すべて、施設建設として、領主決裁の対象です」
「部門運営費とは、切り分けて、管理します」
ヒコが、頷いた。
「間違えないように、してください。部門の予算を、削って、建てるものでは、ありません」
ゴルフが、資料に、目を通しながら、答えた。
「承知しています。建設費は、別途、計上します」
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アーヴィンが、完成予定の、騎士団兵舎の、図面を、眺めていた。
「これで、少し、落ち着ける」
その一言に、これまでの、苦労が、滲んでいた。
団員たちは、まだ、仮設の宿舎で、寝泊まりしていた。
冬の寒さの中、隙間風の入る建物で、過ごしてきた者も、いた。
「かなり、我慢させてしまったな」
アーヴィンが、そう、つぶやいた。
ガッツが、それを、聞いて、答える。
「あと二月もすれば、形になる」
「それまで、待たせろ」
「待たせるのは、慣れている」
アーヴィンが、少し、笑った。
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午後、工房の方から、ガッツを呼ぶ声が、聞こえた。
職人の一人が、困った顔で、駆けてきた。
「棟梁、また、無くなりました」
ガッツの眉が、わずかに動く。
「またか」
「工具です。今度は、工房のものです」
ガッツの表情が、少し、険しくなった。
「削岩用の鑿の、次は、何だ」
「墨壺です。朝、確認したときは、あったんですが」
ガッツは、腕を、組んだ。
「誰かが、持ち出しているのか」
周囲の職人たちに、聞いて回る。
誰も、心当たりが、なかった。
「借りた覚えは、ないな」
「俺も、知らん」
全員が、そう、答えた。
「……気のせい、かもしれん」
ガッツは、そう言って、その場を、収めた。
道具は、多い。管理も、日々、慌ただしい。
紛失くらい、あって当然だと、自分に、言い聞かせた。
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夕方、ヒコは、《可視化》で、建設現場を、確認した。
新しい工事の色が、四つ、並んで、見えている。
少しずつ、形になっていく、住居の色。
悪くない、色だった。
だが、一色だけ、その流れに溶け込まない色があった。
ただ、その色の端に、ごく小さな、揺れが、あった。
風でも、術式でもない、何かの、揺れ。
ヒコは、その揺れを、しばらく、見つめた。
――ただし、この時点では、まだ、それが、何であるかまでは、分からなかった。
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夜、槌の音が、止んだ現場に、静けさが、戻った。
新しい兵舎の、骨組みだけが、月明かりの下に、立っていた。
帰る場所が、少しずつ、形になっていく。
その裏側で、小さな穴も、また一つ、静かに、増えていた。
第272話 兵舎を建てる 了
【次回予告】学校が、開かれた。
覚えた文字は、一生、消えない。
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【領地収支・凍氷月三日時点】
・所持金:金貨2281枚(−50)
【領主決裁案件・承認済】
・住居拡張第一段階 建設費 金貨 50枚
(職員寮拡張・騎士団兵舎・近衛宿舎・
魔力適性者用区画)
・工期:約二か月。
着工に伴い、建設費を順次執行。
部門運営費とは別枠で管理。
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【発展進捗・第272話時点】
・防衛:122%(変動なし)
・食料:101%(変動なし)
・水 :100%(変動なし)
・住居:85%(変動なし・着工段階のため進捗反映は次話以降)
・インフラ:104%(変動なし)




