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 第269話 魔法兵団、発足

 組織は、名前がついた瞬間から、別の何かになる。


 人の集まりが、意志を持った集団に変わる。


 ――名前とは、そういう、重さを持つものだ。

 白雪月、十二日。


 訓練場に、いつもより、多くの人が、集まっていた。


 リアが、その先頭に、立っていた。


 いつもの淡々とした表情の中に、わずかな、緊張が、あった。


「本日をもって、魔法兵団を、正式に、発足します」


 リアの声は、静かだったが、よく、通った。


 ヒコが、隣で、頷いた。


「思想は、一つです」


 リアが、続けた。


「撃つ前に、読む」


「魔法は、一人で撃つものではありません」


「隣を見てください」


「味方を見てください」


「それが、兵団です」


「感情で、撃たない。理解して、撃つ」


 その言葉に、集まった候補生たちが、姿勢を、正した。


──────────────────────────────────────


 候補生の中には、見覚えのある、小さな顔が、いくつか、あった。


 その中でも、ルナだけは、周囲ではなく、リアだけを見ていた。


 以前、適性がまとまって発見された、子どもたちだった。


 まだ、幼さの残る顔つきで、しかし、目だけは、真剣だった。


 リアが、その一人に、視線を、向けた。


「怖いですか」


「……少し」


「怖いのは、正常です」


 リアが、短く、言った。


「怖さを、なくす必要は、ありません。怖さを、制御すればいい」


 その言葉に、子どもは、小さく、頷いた。


──────────────────────────────────────


 訓練が、始まった。


 射線の取り方。


 詠唱のタイミングを、合わせる練習。


 火球が、一拍ずれて放たれる。


 威力は分散し、的の手前で消えた。


「もう一度」


 リアは、それだけを言った。


 最初は、ぎこちなかった。


 それでも、少しずつ、形になっていく。


 リアが、一人一人の動きを、見て、指示を、出す。


「そこで、止まらない。読んで、動く」


「詠唱は、揃える。バラバラでは、威力が、逃げます」


 声に、感情の起伏は、少なかった。


 三人の火球が、一点に重なった。


 的が、一撃で砕ける。


「それです」


 ただし、一つ一つの指摘は、正確だった。


──────────────────────────────────────


 訓練の合間、ヒコは、《可視化》を、発動した。


 領地全体の色の中に、これまでなかった、新しい色が、見えた。


 訓練場を中心に、


 今まで領地には存在しなかった、一筋の流れが生まれていた。


 組織として、初めて、この領地に、「魔法兵団」という流れが、生まれた瞬間だった。


 ヒコは、その色を、しばらく、見ていた。


「これが、組織が生まれる、ということですか」


 リアが、隣で、頷いた。


「名前は、器です」


「器があるから、人は同じ方向を向けます」


──────────────────────────────────────


 夕方、評議会で、予算の話が、出た。


 ゴルフが、資料を、確認しながら、言う。


「今年から、研究費ではなく、兵団運営費として計上します」


「すべて、この枠から、出ます」


 リアが、頷いた。


「無駄には、しません」


「一つの詠唱、一枚の紙にも、意味を、持たせます」


 ドガンが、腕を、組んだまま、言った。


「投資が、初めて、形になったな」


「これで、この領地は、また一つ、強くなる」


──────────────────────────────────────


 夜、リアは、一人、訓練場に、残っていた。


 子どもたちが、残していった、小さな杖が、並んでいる。


 訓練名簿を閉じようとして、リアの手が、一瞬だけ止まった。


 一文字だけ、書き直された跡がある。


 誰かが、訂正したのだろう。


 そう判断して、リアは、そのまま名簿を閉じた。


 誰も、それを、気に留めなかった。


 まだ、何者でもない、器たちだった。


 才能は、選べない。


 だが、育つ環境は、作れる。


 育てる、という意志だけは、確かだった。



第269話 魔法兵団、発足 了

【次回予告】もう一つの兵団が、発足した。

 守ることには、二つある。外から来るものを防ぐことと、内側を保つことだ。


──────────────────────────────────────


【領地収支・白雪月十二日時点】


・所持金:金貨2211枚(変動なし)


──────────────────────────────────────


【発展進捗・第269話時点】


・防衛:122%(変動なし)

・食料:101%(変動なし)

・水 :100%(変動なし)

・住居:85%(変動なし)

・インフラ:103%(変動なし・魔法兵団正式発足により組織体制拡充)

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