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 第268話 リクの昇進

 役割が変わると、見える景色が変わる。


 立つ場所が変われば、見えるものも変わる。


 ――だから、人は、役割を得るたびに、少しずつ、別の人間になっていく。

 白雪月、七日。


 評議会の間に、リクが、呼ばれていた。


 いつもより、少し、緊張した面持ちだった。


 アーヴィンが、口を開いた。


「リク。この一年の、騎士団での功績を踏まえて、決めたことがある」


「近衛副隊長。マユミの下で、正式に、この役を担ってもらう」


 リクが、一瞬、息を、止めた。


「……自分が、ですか」


「他に、誰がいる」


 アーヴィンが、当然のように、言った。


 マユミが、一歩、前に、出た。


 昇進の言葉は、短かった。


「これからは、近衛副隊長として、隣に立て」


「頼りにしてる」


 それだけだった。


 だが、その短さの中に、確かな信頼が、あった。


──────────────────────────────────────


 リクが、深く、頭を、下げた。


「マユミさんの隣で学んだことを、これからは、我が君主を守るために使います」


 声は、震えていなかった。


 ただ、まっすぐだった。


 ガッツが、腕を、組んだ。


「ようやくか」


「まあ、順当な人選だ」


 ゴルフが、少し、笑う。


「給与体系も、更新しておきます」


「準幹部級から、幹部級への、格上げですね」


 その場に、小さな、拍手が、起きた。


──────────────────────────────────────


 会議のあと、アーヴィンが、ヒコに、声を、かけた。


「一つ、考えていることがある」


「なんですか」


「リクが、近衛に、抜ける」


「騎士団の方も、いずれ、同じ穴が、開く」


 アーヴィンが、少し、遠くを、見た。


「俺の騎士団にも、そろそろ、副隊長が、必要だ」


「候補は」


「まだ、決めていない」


 アーヴィンが、短く、答えた。


「ただし、探し始める時期だと、思っている」


 ヒコは、頷いた。


「探しておいてください。必要になってから育て始めても、間に合いません」


 この会話が、後に、大きな意味を持つことを、この時点では、まだ、誰も、知らなかった。


──────────────────────────────────────


 その日の午後、ガッツが、工房から、戻ってきた。


 少し、困ったような顔を、していた。


「おい、ヒコ」


「どうしました」


「建設現場の工具が、一本、消えた」


 ヒコは、少し、首を、傾げた。


「消えた、というのは」


「削岩用の、鑿だ。昨日の作業では、確かに、あった」


「今朝、道具箱を、開けたら、なかった」


「誰かが、借りて、返し忘れているのでは」


「かもしれん」


 ガッツが、頷いた。


「探せば、出てくるだろう。現場は、いつも、こんなもんだ」


 それ以上、深刻には、受け止められなかった。


 ヒコも、ガッツも、その時は、そう思っていた。


──────────────────────────────────────


 しかし。


 その工具は、この後、二度と、見つからなかった。


 そして、その事実を、誰も、記録しなかった。


──────────────────────────────────────


 夜、ヒコは、執務室で、今日一日を、振り返っていた。


 リクの昇進。


 アーヴィンの言葉。


 ガッツの、工具の話。


 どれも、この日だけを見れば、小さな出来事だった。


 だからこそ、ヒコは、まだ、それらを、結びつけて考えていなかった。

 

 小さな違和感は、いつも、小さな顔をして現れる。



第268話 リクの昇進 了

【次回予告】専門兵団が、動き出した。

 組織は、名前がついた瞬間から、別の何かになる。


──────────────────────────────────────


【領地収支・白雪月七日時点】


・所持金:金貨2211枚(変動なし)


──────────────────────────────────────


【発展進捗・第268話時点】


・防衛:122%(変動なし)

・食料:101%(変動なし)

・水 :100%(変動なし)

・住居:85%(変動なし)

・インフラ:103%(変動なし・リク副隊長昇進により人事体制強化)

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