第267話 約束の形
約束は、心の中にあるうちは、まだ、誰のものでもない。
言葉にした瞬間、それは、外に出る。
――外に出た約束だけが、他人と、未来を、繋ぐことができる。
評議会の間に、いつもより、静かな緊張があった。
白雪月、三日。
議題は、いくつか、片付いていた。
最後に、ヒコが、立ち上がった。
「一つ、この場で、正式に、伝えたいことがあります」
全員の視線が、集まる。
マユミが、少しだけ、姿勢を正した。
「マユミと、婚約します」
「これからも、この領地で生きていく覚悟として、お伝えします」
短い、言葉だった。
だが、部屋の空気が、確かに、変わった。
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ガッツが、まず、口を開いた。
「やっと、か」
どこか、ほっとしたような声だった。
ガデルが、鼻を鳴らす。
「遅い」
「鍛冶でも婚約でも、迷ってる時間が一番もったいねぇ」
リアが、少し、目を伏せて、言った。
「……おめでとうございます」
いつもの淡々とした調子の中に、わずかに、感情が滲んでいた。
コリンが、静かに、頷く。
「お二人らしい、決め方だと、思います」
アーヴィンが、腕を組んだまま、口の端を上げた。
「いい判断だ」
ドガンが、口笛を、吹きかけて、やめた。
「商談なら、値切るところだが」
「これは、値切れない話だ」
その場に、笑い声が、小さく、広がった。
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その夜、食堂に、いつもの顔ぶれが、集まった。
マルティナが、料理を、運んでくる。
いつもより、皿が、一つ、多かった。
誰も、何も、聞かなかった。
マルティナも、何も、言わなかった。
マルティナは、皿を置く手だけが、少しだけ、優しかった。
根菜の煮込みが、湯気を、立てている。
ヒコの好物だった。
「今日は、量が、多いですね」
ヒコが、言うと、マルティナは、短く、答えた。
「祝い事の日くらい、いいだろう」
それだけだった。
それ以上の言葉は、必要なかった。
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食事のあと、ヒコとマユミは、施設の外に、出た。
雪は、止んでいた。
夜空に、星が、見えていた。
「思ったより、あっさり、決まりましたね」
ヒコが、言った。
「あっさり、じゃない」
マユミが、少し、強めに、返した。
「わたしは、ずっと、待ってた」
「待たせました」
「でも、これからは待たせません」
「いい」
マユミが、短く、言って、それから、少し、笑った。
「今、言ったなら、それでいい」
二人は、しばらく、無言で、夜空を、見ていた。
――そのときだった。
マユミが、ふと、視線を、門の方に、向けた。
「……ヒコ」
「どうしましたか」
「今日、知らない顔が、門の近くにいた」
ヒコは、少し、驚いた。
「知らない顔、ですか」
「うん。旅装束だった。でも、旅人なら、門を見る。あいつは、人を見てた」
「商人か、旅人でしょう。この時期、外部からの出入りも、増えています」
ヒコの言葉に、マユミは、頷いた。
ただし、その頷き方は、納得したものではなかった。
「……そうかもしれない」
それだけ、言って、マユミは、口を、閉じた。
この日のことは、それ以上、話題に、上らなかった。
ただ、マユミだけは、その後も、しばらく、その顔のことを、気にし続けていた。
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夜が、更けていく。
施設の窓には、まだ、明かりが、灯っていた。
その夜。
一つの未来が結ばれ。
一つの破綻が、静かに始まっていた。
第267話 約束の形 了
【次回予告】リクが、近衛副隊長になった。
役割が変わると、見える景色も、変わっていく。
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【領地収支・白雪月三日時点】
・所持金:金貨2211枚(変動なし)
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【発展進捗・第267話時点】
・防衛:122%(変動なし)
・食料:101%(変動なし)
・水 :100%(変動なし)
・住居:85%(変動なし)
・インフラ:103%(変動なし)




