第264話 聖夜月の収支(二年目)
二度目の年末は、一度目より、落ち着いている。
落ち着きは、慣れから来るものと、積み上げから来るものがある。
――積み上げから来る落ち着きは、何が起きても、簡単には崩れない。
聖夜月、一日。
月次の給与支払いが、行われた。
「今年も、もう、聖夜月ですね」
ゴルフが、帳簿を見せながら、言った。
「去年の今頃は、まだ、外敵侵攻の後始末をしていました。今年は、静かな年末です」
「静かすぎる、とも言えますが」
ヒコが、続けた。
「その静けさの中で、動き続けてきた一年でした」
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長影月十九日に行われた、ミルヴァの誕生日祝いの話題になった。
ルナが、花冠を、両手で、ミルヴァの頭に、乗せた。
「……重い」
ミルヴァが、わずかに、眉を寄せた。
「花冠は、そういうものです」
ルナが、当然のように、言った。
「嫌いですか」
「嫌いでは、ない」
ミルヴァが、短く、答えた。
「ただし、似合わない」
「似合っています」
ルナが、断言した。
評議会の面々が、その様子を見て、わずかに、笑った。
ミルヴァは、花冠を、外さなかった。
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評議会で、一年の振り返りが、行われた。
「白雪月から、聖夜月まで」
ゴルフが、表を、広げた。
「外部収入は、年間を通じて、着実に、伸びました。王都訪問の効果が、半年以上、続いています」
「弟子制度の正式発足。部門別運営費の導入。領民登録制度の整備」
ヒコが、補足した。
「形にしたものが、多い一年でした」
「星形要塞化の完成も、大きいです」
ガッツが、言った。
「防衛としての形が、整いました」
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「ヴァルク男爵への対応は」
アーヴィンが、聞いた。
「証拠の整理が、進んでいます」
ドガンが、答えた。
「ベルン商会との繋がり。ディルク商圏領への圧力。人材への買収の試み。これらを、正式な追加資料として、産業省へ、提出します」
「送る、というのは」
「先手の資料提出の、続きだ」
ドガンが、続けた。
「正当な領地運営に対して、圧力を加えてきた。それを、記録として、残す。それだけで、向こうの動きが、大きく、制限される」
「戦わずに、退ける、ということですね」
「そうだ」
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「ベルン商会については」
ミルヴァが、口を開いた。
「影の調査で、商会の中間役としての動きが、ある程度、記録できた」
「証拠として、使えますか」
「直接の証拠ではない。ただし、圧力の経路を、示す補助資料としては、使える」
ミルヴァが、続けた。
「ベルン商会も、これまでのようには、フォルテス領の周辺で、自由に動けなくなるだろう」
「十分です」
ヒコが、頷いた。
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「ハイム子爵は」
ゴルフが、聞いた。
「変わらず、静かです」
ミルヴァが、答えた。
「ただし、気配は、続いています」
「引き続き警戒だな」
ドガンが、言った。
「ハイム子爵のことは、今は、まだ、結論を出せない」
ヒコが、頷いた。
「観察を、続けます」
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「産業省からの、正式な反応は」
ヒコが、確認した。
「今年中には、来なかった」
ドガンが、答えた。
「ただし、来年、何かがある可能性は、高い」
「待ちます」
ヒコが、言った。
「こちらは、すべき準備を、してきました。あとは、向こうが、どう動くか、だけです」
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夜、ヒコは一人、施設の前に立った。
《可視化》で、領地全体を確認した。
星形要塞、外堀、稜堡。
全部の色が、落ち着いていた。
ヴァルクという、太く絡みつく筋が、前より、わずかに、細くなっていた。
消えたわけではない。
ただ、確かに、この一年で、弱くなっていた。
ハイムという、細く落ち着いた筋は、変わらず、そこにあった。
そして、名前も色も定まらない、深く沈んだ筋が、遠くに、まだ、あった。
一年で、変わったものと、変わらないものが、あった。
ヒコには、それが、よく分かっていた。
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その夜、ヒコは記録をつけた。
聖夜月一日。月次給与支払い、完了。ミルヴァ誕生日、長影月十九日に実施済み。
年間総括:外部収入着実に成長。弟子制度・部門別運営費・領民登録、定着。星形要塞化完成。
ヴァルク男爵対応:追加文書を産業省へ送付予定。ベルン商会の経路記録、補助資料として活用。
ハイム子爵:気配継続。引き続き、観察を続ける。
産業省からの反応:今年中なし。来年に何らかの動きがある可能性
ペンを置いた。
二度目の年末は、一度目より、確かに、落ち着いていた。
ただし、その落ち着きは、慣れからではなかった。
積み上げてきたものが、落ち着きになっていた。
それを、ヒコは、今年初めて、はっきりと、感じることができた。
第264話 聖夜月の収支(二年目) 了
【次回予告】第10章、最後の一日。
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【領地収支・聖夜月一日時点】
・所持金:金貨2093枚(+118)
収 入:冒険者固定給 金貨 30枚
勲爵士給与 金貨 12枚
外部取引 金貨 約110枚
ギルド収益 金貨 約40枚
合計 金貨 約192枚
支 出:月次固定 金貨 約46枚
弟子制度運用費 金貨 約14枚
住居拡張見積費 金貨 約 9枚
対応文書作成・送付費 金貨 約 5枚
合 計 金貨 約74枚
【発展進捗・第264話時点】
・防衛:122%(変動なし)
・食料:101%(変動なし)
・水 :100%(変動なし)
・住居:85%(変動なし)
・インフラ:103%(変動なし)




