第263話 結束
外から押されたとき、内側がどれだけ固いかが分かる。
固さは、力で作るものではない。それぞれが、ここにいる理由を持っているとき、初めて固くなる。
――理由が揃ったとき、集団は、組織になる。
長影月、下旬。
ドガンが、ヒコを、呼んだ。
「ヴァルク男爵について、少し、全体像が、見えてきた」
「分かりましたか」
ヒコが、聞いた。
「断定はできない。ただし、これまでの動きを、並べると、一つの絵が、見えてくる」
ドガンが、続けた。
「蒼鋼の件。取引先への圧力。人材への接触。どれも、フォルテス領を、外から、あるいは内側から、崩そうとした手だ」
「崩す目的が、何か、ですね」
「そうだ。欲しいのは、蒼鋼でも、土地でもない」
ドガンが、低い声で、言った。
「フォルテス領が、成長するための、仕組みだ」
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「仕組みを、欲しがっている、ということですか」
ヒコが、確認した。
「ガルム鉱区領を、持っている。ディルク商圏領も、持っている。あの男には、資源も、流通も、ある」
ドガンが、続けた。
「ただし、人が、育たない。制度が、根付かない。ヴァルク男爵の領地は、力で抑えているだけで、自然には、育たない」
「だから、フォルテス領の、育て方を、欲しがっている」
「そういうことだ」
ドガンが、頷いた。
「適正可視化。弟子制度。評議会。あれらは、人を育てるための仕組みだ。それを、金で買おうとした」
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「ベルン商会との繋がりは」
ヒコが、聞いた。
「ベルン商会は、資金の流れを、作る役割だろう。ヴァルク男爵が、直接手を出さずに動かせる、中間の存在だ」
「その更に後ろに、別の意思がある可能性は」
「ある」
ドガンが、答えた。
「ただし、今の段階では、証拠がない。ヴァルク男爵を、証拠で押さえる方が先だ」
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その日の午後、評議会が、招集された。
ドガンの分析が、全員に、共有された。
評議会の空気が、少し、変わった。
「ヴァルク男爵の狙いが、仕組みそのものだったとは」
アーヴィンが、腕を組んで、言った。
「ならば、仕組みを、壊させなければ、いい」
「そのためには、全員が、ここにいることが、必要です」
ヒコが、評議会全体を、見渡した。
「改めて、確認させてください。この領地に、留まる意思は、ありますか」
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誰も、すぐには、答えなかった。
しばらくの沈黙の後、アーヴィンが、最初に、口を開いた。
「俺は、ここで、戦う」
マユミが、続いた。
「私は、ヒコの隣にいる」
ガッツが、短く言った。
「建てるものが、まだ、残っている」
ガデルが、工房の方を向いたまま、言った。
「弟子が、まだ、育っていない」
ゴルフが、帳簿を見ながら、言った。
「まだ、黒字を、もっと、積み上げられます」
セリウスが、静かに、言った。
「ギルドが、まだ、根を張り切っていない」
リアが、淡々と、言った。
「研究は、まだ、始まったばかりです」
コリンが、言った。
「治せていない人が、まだ、います」
ミルヴァが、最後に、短く言った。
「私は、影を、続ける」
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ヒコは、その言葉を、一つずつ、静かに、聞いていた。
理由は、それぞれ、違った。
ただし、ここにいる理由が、全員に、あった。
「分かりました」
ヒコが、言った。
「この領地は、みなさんと、一緒に、前へ進みます」
「……これで、ようやく、一つの領地になりました」
バルドが、小さく、頷いた。
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夕方、ドガンが、ヒコに、一言だけ、言った。
「ヴァルク男爵への、正式な対応を、そろそろ、決める必要がある」
「はい」
ヒコが、答えた。
「証拠が、集まり次第、動きます」
「急ぐな。ただし、遅すぎるのもダメだ」
ドガンが、言った。
「タイミングが、全てだ」
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夜、ヒコは一人、施設の前に立った。
《可視化》で、領地全体を確認した。
星形要塞、外堀、稜堡。
全部の色が、落ち着いていた。
ただし、その色の中に、以前より、確かな、温かみが、混ざっていた。
人が、増えた色だった。
理由を持った人たちの、色だった。
その色は、どんな石壁よりも、強く見えた。
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その夜、ヒコは記録をつけた。
ヴァルク男爵の全体像、ほぼ判明。狙いは、仕組みそのもの。ベルン商会は中間役。
評議会、全員の意思を確認。それぞれの理由で、留まる意思あり。
ヴァルク男爵への正式対応、証拠が揃い次第、実行する方針。
ペンを置いた。
外から押されたことで、この領地は、組織になった。
それが、この領地の、今の姿だった。
第263話 結束 了
【次回予告】対応の日が来た。
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【領地収支・第263話時点】
・所持金:金貨1975枚(変動なし)
【発展進捗・第263話時点】
・防衛:122%(変動なし)
・食料:101%(変動なし)
・水 :100%(変動なし)
・住居:85%(変動なし)
・インフラ:103%(変動なし)




