第261話 別の角度
同じ場所を、別の角度から見ると、違う弱点が見える。
弱点は、正面には、ない。横から、後ろから、内側から、来る。
――内側から来る弱点が、一番、気づきにくい。
長影月、上旬。
ミルヴァが、評議会に、追加の報告を持ってきた。
「昨日、話した件だ」
ミルヴァが、口を開いた。
「声をかけられた新規移民の男について、もう少し、分かった」
「分かったこととは」
ヒコが、聞いた。
「金貨五十枚。それが、提示された額だ」
評議会の空気が、わずかに、張った。
「内容は」
「フォルテス領の、適正可視化の仕組みを、教えること。弟子制度の運用の詳細。評議会で、何が、話し合われているか」
ミルヴァが、続けた。
「つまり、この領地が、どうやって成長しているのか。その核心を、買いに来た」
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「その男は」
ガッツが、聞いた。
「まだ、応じていない」
ミルヴァが、答えた。
「ただし、迷っている」
「迷う理由は、金か」
「それだけじゃない」
ミルヴァが、続けた。
「この領地に、来て、まだ、日が浅い。ここで、生きていけると、まだ、信じ切れていない」
「……裏切るか、留まるか、まだ決まっていない、ということですね」
ヒコが、静かに、言った。
「そういうことだ」
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「対応は」
アーヴィンが、聞いた。
「その男を、問い詰めるか」
「しません」
ヒコが、即答した。
「問い詰めれば、逃げます。逃げれば、向こうに、情報を売るかもしれません」
「放置するのか」
「放置もしません」
ヒコが、続けた。
「ミルヴァさんには、観察を、続けてもらいます。私は、その男が、この領地を、信用できると思えるような、何かを、示します」
「何かとは」
「まだ、決まっていません」
ヒコが、正直に、答えた。
「ただし、金で来た相手に、金で返すのは、違います。金で信用は、買えません。信用は、積み重ねて、初めて、残るものです」
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「ヴァルク男爵が、なぜ、人材に、目を向けたか」
ドガンが、口を開いた。
「蒼鋼の件が、うまくいかなかった。取引先への圧力も、うまくいかなかった。だから、内側から、崩しに来た」
「順番に、手を変えてきた」
ヒコが、言った。
「ええ。だが、これも、うまくいかなければ、次の手がある」
ドガンが、続けた。
「ただし、一つずつ、退けていけば、向こうの手が、尽きていく」
「尽きる、というのは」
「ヴァルク男爵は、利益で動く男だ。欲しいものが、はっきりしている。だから、退けやすい」
ドガンが、低い声で、言った。
「ただし、もし、ヴァルクの後ろに、別の誰かがいるなら、話は変わる」
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「……あの人物、ですか」
ヒコが、聞いた。
「名前は、出さない方がいい」
ドガンが、答えた。
「ただし、その可能性を、頭に、置いておけ」
「……分かりました」
ヒコが、頷いた。
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評議会が終わった後、ヒコは一人、執務室で、その男のことを、考えた。
名前も、顔も、知らない。
それでも、その選択一つが、領地の未来を、左右するかもしれなかった。
ただし、迷っている人間が、いる。
金か、信用か。
その人間が、どちらを、選ぶか。
それは、フォルテス領が、どれだけの場所か、ということへの、一つの答えでも、あった。
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その夜、ヒコは記録をつけた。
ヴァルク男爵の新たな手。適正可視化・弟子制度の仕組みへの関心。買収の試み。
金貨五十枚の提示。新規移民の一人、まだ応じていない。
対応方針:問い詰めず、観察継続。信用を示す機会を探す。
ドガン、ヴァルクの後ろに別の意思がある可能性を示唆。
ペンを置いた。
内側から来た影は、まだ、形になっていなかった。
ただし、形になる前に、その気配には、気づいた。
影は、見えた時には、もう遅い。
だからこそ、今は、この小さな違和感を、見逃さない。
第261話 別の角度 了
【次回予告】影が、それを見つけた。
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【領地収支・第261話時点】
・所持金:金貨1975枚(変動なし)
【発展進捗・第261話時点】
・防衛:122%(変動なし)
・食料:101%(変動なし)
・水 :100%(変動なし)
・住居:85%(変動なし)
・インフラ:103%(変動なし)




