↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
401/474

 第258話 予算配分制

 お金の使い方を決めることは、領地の優先順位を決めることだ。


 優先順位を決めることは、何かを後回しにすることでもある。


 ――後回しにされた側が、黙っていられる組織は、多くない。

 部門別運営費の導入から、数ヶ月が経った。


 当初は、各部門とも、与えられた予算の中で、静かに運営していた。


 ただし、紅葉月に入った頃から、少しずつ、軋む音が、聞こえ始めていた。


「評議会を、開きます」


 ヒコが、招集をかけた。


「議題は、部門別運営費の、配分見直しについてです」


──────────────────────────────────────


 評議会が始まると、すぐに、空気が、重くなった。


「騎士団の運営費が、足りない」


 アーヴィンが、最初に、口を開いた。


「装備の整備。消耗品の補充。予備の矢。全部、今の枠では、賄えない」


「現状を、聞かせてください」


 ヒコが、答えた。


「枠の二割増しが、必要だ。今のままでは、いざというとき、戦えない」


「研究部門も、同じです」


 リアが、続けた。


「魔法適性の子どもたちを、育成するための設備。専門の教材。何もかも、足りていません」


「建設部門も、だ」


 ガッツが、言った。


「住居拡張の見積もりは、進んでいる。ただし、実際に、動かすための予算が、まだ、決まっていない」


──────────────────────────────────────


 評議会の空気が、張り始めた。


「全部に、増やせるか」


 ゴルフが、帳簿を見ながら、聞いた。


「難しい、と思います」


 ゴルフが、自分で、答えた。


「全部門に、二割増しを配分すれば、年度内の、余力が、なくなります」


「じゃあ、どうする」


 ガッツが、聞いた。


「順位を、決めるしかない」


 ドガンが、言った。


「どれかを、先にして、どれかを、後にする」


──────────────────────────────────────


「防衛が、先だ」


 アーヴィンが、はっきりと、言った。


「いざというとき、守れなければ、他が何も、意味をなさない」


「研究投資を、止めれば、未来が止まります」


 リアが、アーヴィンに、向けて、言った。


「今の子どもたちを、育てなければ、十年後の防衛力も、上がりません」


「建設が、遅れれば、全部が、遅れる」


 ガッツが、言った。


「住居も、施設も、人が増えるほど、必要になる。後回しにすれば、するほど、後でかかる費用が、大きくなる」


 評議会が、珍しく、三方向から、意見が、割れていた。


──────────────────────────────────────


「敵は、待ってくれない」


 アーヴィンが、静かに、言った。


 その声が、いつもより、わずかに、低かった。


「今、騎士団が、足りなければ。装備が、整っていなければ」


 アーヴィンが、続けた。


「俺たちは、また、誰かを、守れないことになる」


 評議会が、一瞬、静まった。


 アーヴィンは、怒っているわけでは、なかった。


 その声には、守れなかった未来への、恐怖が、滲んでいた。


──────────────────────────────────────


 ヒコは、その言葉を、静かに、受け取った。


 しばらく、誰も、何も、言わなかった。


「分かりました」


 ヒコが、口を開いた。


「全員に、十分に、配れない状況です。だからこそ、理由を、はっきりさせます」


「理由を、というのは」


 ガッツが、聞いた。


「各部門の運営費に、根拠を、明文化します」


 ヒコが、答えた。


「防衛。経済。建設。研究。医療。外交。それぞれの重み付けを、評議会で、決めます」


「重み付けを、決めれば」


「配分の根拠が、全員に、見えます。理由が見えれば、不満も、議論になります」


──────────────────────────────────────


「ゴルフさん、ドガンさん」


 ヒコが、二人を見た。


「具体的な配分案を、作ってもらえますか」


「いいだろう」


 ドガンが、頷いた。


「ただし、一週間ほど、もらう」


「お願いします」


 アーヴィンが、腕を組んだまま、黙っていた。


「アーヴィンさん」


 ヒコが、声をかけた。


「防衛を、後回しにするつもりは、ありません」


「……分かった」


 アーヴィンが、短く、答えた。


「ただし、必ず、間に合わせてくれ」


「間に合わせます」


 ヒコが、答えた。


──────────────────────────────────────


 評議会が終わった後、ヒコは一人、執務室で考えた。


 全員が、正しいことを言っていた。


 防衛を疎かにすれば、領地は守れない。


 研究を止めれば、未来の力が育たない。


 建設を遅らせれば、積み上げが、後で崩れる。


 全部、正しかった。


 ただし、全部を、同時には、できなかった。


 領主とは、すべてを選べる者ではない。


 ヒコは、その言葉を、改めて、思い出していた。


──────────────────────────────────────


 その夜、ヒコは記録をつけた。


 部門別運営費、軋みが表面化。防衛・研究・建設の三部門から、増額要求。


 評議会で、配分の優先順位と根拠の明文化を決定。


 ゴルフ・ドガンが、具体的な配分案を、一週間以内に提示予定。


 ペンを置いた。


 誰かを選ぶということは、誰かを切り捨てることではない。


 限られた資源で、領地全体を、前へ進めるための選択だった。


 お金の使い方を、決めることは、領地の姿を、決めることだった。


 ヒコには、それが、領主として、重い仕事の一つだと、分かっていた。



 第258話 予算配分制 了

【次回予告】紅葉月が来た。


──────────────────────────────────────


【領地収支・第258話時点】


・所持金:金貨1735枚(変動なし)


【発展進捗・第258話時点】


・防衛:122%(変動なし)

・食料:101%(変動なし)

・水 :100%(変動なし)

・住居:85%(変動なし)

・インフラ:103%(変動なし)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。