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 第257話 領民登録

 誰がここにいるかを知ることは、誰を守るかを知ることだ。


 守る相手が、曖昧なまま、守ることはできない。


 ――登録とは、人を縛るものではなく、守るための約束を、形にするものだ。

 紅葉月、上旬。


 バルドが、評議会に、提案を持ってきた。


「領民の登録制度を、正式に、整えたいと思います」


 バルドが、静かに、言った。


「領地の人口が、増えてきました。移住者、弟子志願者、雇用者。出入りの管理が、以前の方法では、追いつかなくなってきています」


「具体的には」


 ヒコが、聞いた。


「誰が、いつ、この領地に来たか。何のために、いるのか。緊急時に、誰を、どう守るか」


 バルドが、続けた。


「それが、把握できていなければ、いざというとき、動けません」


──────────────────────────────────────


「制度の案は」


 ヒコが、聞いた。


「三つに、分けることを、提案します」


 バルドが、答えた。


「一つ目は、創設領民」


「最初から、ここにいた人たちですね」


「そうです。この領地が、始まる前から、あるいは、始まった直後から、ここで暮らしてきた人たちです。アーヴィンさんたち、領地創設当初から支えてきた方々です」


「二つ目は」


「準領民」


 バルドが、続けた。


「ある程度の期間、ここで働いてきた人たちです。弟子制度に入った者、ギルドに登録した者、安定した雇用で、ここに根を張り始めた者」


「三つ目は」


「新規移民」


 バルドが、答えた。


「最近、来た人たちです。まだ、この領地との関係が、浅い」


──────────────────────────────────────


「三つに、分ける理由は」


 ガッツが、聞いた。


「緊急時の対応が、違うからです」


 バルドが、答えた。


「創設領民は、この領地の、根幹を支えてきた人たちです。最優先で、守ります」


「準領民は」


「次の優先順位です。ただし、権利も、それに応じた形に、なります」


「新規移民は」


「最低限の保護は、します。ただし、まだ、関係が浅い。権利も、義務も、段階的に、積み上げていく形です」


──────────────────────────────────────


「ドガンさんは」


 ヒコが、ドガンを見た。


「商業的な観点からは」


「悪くない」


 ドガンが、頷いた。


「ただし、区分を厳しくしすぎると、新しく来る人間が、減る」


「厳しくする、というのは」


「新規移民への扱いが、冷たく見えれば、フォルテス領に来ようとする人間が、減る」


 ドガンが、続けた。


「制度を作るなら、歓迎している、という形も、一緒に、見せる必要がある」


「具体的には」


「登録した者に、何か、返すものを、決めることだ」


 ドガンが、言った。


「保護。緊急時の支援。あるいは、取引の優先権。登録する価値があると、人に思わせることだ」


「なるほど」


 ヒコが、頷いた。


「登録は、縛るためではなく、守るための約束、ということですね」


「そういうことだ」


──────────────────────────────────────


「登録の、実務は」


 ヒコが、バルドに、聞いた。


「私が、中心に、進めます」


 バルドが、答えた。


「一人ずつ、話を聞いて、記録します。強制ではありません。ただし、登録することで、この領地の保護対象に、なります」


「時間は」


「一ヶ月ほど、かかるかもしれません」


「お願いします」


 ヒコが、頷いた。


──────────────────────────────────────


 評議会が終わった後、ヒコは一人、執務室で、バルドの提案書を、もう一度、読み返した。


 創設領民。準領民。新規移民。


 文字にすると、簡単に見えた。


 ただし、その一人一人に、この領地に来た、それぞれの理由があった。


 ヒコは、この領地を、始めた頃を、思い出した。


 あの頃は、誰が何のために、ここにいるのか、ほとんど、分かっていなかった。


 今は、少し、違う。


 人が、増えた。


 名前を覚えるだけでは、もう、足りない。


 それは、この領地が、少しずつ、信用されてきた証だった。


──────────────────────────────────────


 夕方、ルナが、執務室に、顔を出した。


「ヒコさん」


「何ですか」


「わたしも、登録、しますか」


「もちろん、します」


 ヒコが、答えた。


「ルナは、創設領民に、なるかもしれません」


「創設、というのは」


「最初から、ここにいた人たちのことです」


「わたし、ずっと、ここにいます」


 ルナが、当然のように、言った。


「分かっています」


 ヒコが、小さく、笑った。


──────────────────────────────────────


 その夜、ヒコは記録をつけた。


 領民登録制度、正式検討開始。三区分:創設領民・準領民・新規移民。


 バルド・ドガンが中心に、制度設計。一ヶ月ほどで、初回の登録完了見込み。


 人口管理体制の整備を、優先課題とする。


 ペンを置いた。


 誰がここにいるかを、知ることにした。


 それは、この領地が、守る相手を、きちんと、見ることを、決めた、ということだった。



 第257話 領民登録 了

【次回予告】予算配分の話が出た。


──────────────────────────────────────


【領地収支・第257話時点】


・所持金:金貨1735枚(変動なし)


【発展進捗・第257話時点】


・防衛:122%(変動なし)

・食料:101%(変動なし)

・水 :100%(変動なし)

・住居:85%(変動なし)

・インフラ:103%(変動なし)

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