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 第255話 学びの場

 学ぶ場所ができると、領地に新しい色が増える。


 新しい色は、最初は、どこに置いていいか分からない、不安定な色だ。


 ――不安定な色も、場所が決まれば、やがて、領地の風景の一部になる。

 弟子制度が発足してから、数日が過ぎた。


 工房では、ガデルの弟子になった青年が、初めて、自分専用の工具を、受け取っていた。


 建設現場では、ガッツの弟子が、地盤の見極め方を、真剣な表情で、学んでいた。


 制度は、紙の上ではなく、人の手で、動き始めていた。


 そんな中、バルドが、執務室に、相談を持ってきた。


「ヒコ様」


「何ですか」


「弟子制度が、形になりました。次は、子どもたちのことを、考えるべきだと思います」


「子どもたち、というのは」


「弟子になれるのは、ある程度、年齢が上の者です」


 バルドが、続けた。


「もっと、幼い子どもたちには、まだ、学ぶ場所がありません」


──────────────────────────────────────


「学校、ということですか」


 ヒコが、聞いた。


「簡易的なもので、構いません」


 バルドが、答えた。


「読み書き、数の数え方。それだけでも、将来、役に立ちます」


「ルナは」


「ちょうど、いい歳です」


 バルドが、頷いた。


「最初の生徒の一人に、どうでしょうか」


「いいと思います」


 ヒコが、答えた。


「検討、進めてください」


──────────────────────────────────────


 その数日後、ヒコは、子どもたちを、施設の前に、集めた。


 《可視化》を、適性可視化の形で、試すための場だった。


「一人ずつ、順番に、お願いします」


 ヒコが、声をかけた。


 最初の子どもに、《可視化》を、向けた。


 淡い色が、見えた。


 土の感覚に、強く、反応する色だった。


「土質感覚、強いですね」


 ヒコが、つぶやいた。


──────────────────────────────────────


 次の子ども。


 また、淡い色が、見えた。


 今度は、魔力の流れに、敏感に、反応する色だった。


「……リアさん」


 ヒコが、近くにいたリアに、声をかけた。


「この子、魔法適性があります」


 リアが、すぐに、近づいてきた。


「確認します」


 リアが、自分の方法で、確かめた。


「……本当ですね」


 リアが、わずかに、驚いた表情を見せた。


──────────────────────────────────────


 三人目。


 また、別の色が、見えた。


 回復、治癒に、近い色だった。


「コリンさん」


 ヒコが、コリンを、呼んだ。


「この子は、回復適性です」


 コリンが、確かめに来た。


 しばらく、子どもを、見ていた。


「……これも、本当です」


 コリンが、静かに、言った。


──────────────────────────────────────


 次々と、子どもたちを、確かめていった。


 全員に、適性が、あったわけではない。


 ただし、魔法適性と、回復適性を持つ子どもが、それぞれ、何人か、まとまって、見つかった。


「これは」


 リアが、しばらく、考えていた。


「単発の適性者ではなく、まとまった数がいる、ということですか」


「そうみたいです」


 ヒコが、答えた。


「これまで、気づいていなかっただけかもしれません」


 コリンが、子どもたちの方を、見ながら、つぶやいた。


「……これは、個人で抱える規模じゃないかもしれません」


──────────────────────────────────────


「いつか、専門の教育組織が、必要になるかもしれません」


 ヒコが、静かに、言った。


「ただし、今は、まだ早いです」


「早い、というのは」


 リアが、聞いた。


「子どもたちです。まず、適性を、見つけただけです」


 ヒコが、答えた。


「育てる場所も、育てる仕組みも、まだ、ありません」


「分かっています」


 リアが、頷いた。


「ただ、考えておきます」


「研究予算の、使い道として」


 コリンが、ふと、言った。


「医療予算も、同じです。今は、まだ、形にしません。ただし、いつかのための、準備として」


 ヒコは、その言葉を、静かに、受け取った。


 部門別運営費として設けた、研究予算と医療予算。

 

 その意味が、少しずつ、形になり始めていた。


──────────────────────────────────────


 その日の夕方、評議会で、子どもたちの適性の話が、共有された。


「人員が、増える見込みがある、ということだな」


 アーヴィンが、口を開いた。


「将来的には」


 ヒコが、答えた。


「ならば」


 アーヴィンが、続けた。


「兵舎の話を、もう一度、しておく」


「ええ」


 ヒコが、頷いた。


「適性者が増えれば、住む場所も、要る。今の兵舎じゃ、すぐに、限界だ」


──────────────────────────────────────


「私からも、一つ」


 マユミが、ぽつりと、言った。


「近衛の宿舎も、いずれ、足りなくなる」


「分かっています」


 ヒコが、答えた。


「魔力適性者が、増えるなら」


 リアが、淡々と、付け加えた。


「暴走防止の設備も、専用区画に、要ります」


「分かりました」


 ヒコが、頷いた。


「次の建設課題に、加えます」


──────────────────────────────────────


「見積もりだけ、出しておく」


 ガッツが、口を開いた。


「着工は、まだ、先か」


「ええ」


 ヒコが、答えた。


「今は、貴族対応が、優先です。ただし、見積もりは、今のうちに、進めてください」


「分かった」


 ガッツが、頷いた。


「兵舎、近衛宿舎、魔力適性者用の区画。三つ、並行して、考える」


──────────────────────────────────────


 夜、ヒコは、記録をつけた。


 学校制度、検討開始。ルナ、最初の生徒候補。


 子どもたちの適性可視化、魔法適性・回復適性が、まとまった数で発見。リア・コリン、組織化を見据えて検討。


 住居拡張、見積もりのみ進行。兵舎・近衛宿舎・魔力適性者用区画、三つの課題として記録。


 ペンを置いた。


 学ぶ場所が、一つ、できようとしていた。


 その場所から、また、新しい何かが、育っていくのかもしれなかった。


 ヒコには、それが、今は、まだ、小さな種に見えた。


 ただし、種は、いつか、必ず、形になる。


 それを、ヒコは、すでに、知っていた。


 子どもたちの未来も、きっと、その一つになるのだろう。



 第255話 学びの場 了

【次回予告】収穫月が来た(二年目)。


──────────────────────────────────────


【領地収支・第255話時点】


・所持金:金貨1609枚(変動なし)


【発展進捗・第255話時点】


・防衛:122%(変動なし)

・食料:101%(変動なし)

・水 :100%(変動なし)

・住居:85%(変動なし・職員寮・兵舎・近衛宿舎・魔力適性者用区画の見積もり開始)

・インフラ:103%(変動なし)

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