第254話 弟子たちの正式発足
育てると決めたものは、形にしないと、育たない。
形にしないままの「いつか」は、いつまでも、いつかのままだ。
――いつかを、今日に変える瞬間が、必ず、どこかで要る。
評議会が、招集された。
議題は、技能別弟子制度の正式発足だった。
「適正可視化の試験運用から、もう、一年近くが過ぎました」
ヒコが、口を開いた。
「今日、この場で、正式に、制度として、発足させます」
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「ガデルさん」
ヒコが、声をかけた。
「弟子は、決まっていますか」
「決まっている」
ガデルが、答えた。
「あの、穀物運びの男だ。金属感知の適性を見つけてから、ずっと、工房で見てきた」
「正式に、迎えますか」
「迎える」
ガデルが、頷いた。
「あいつは、もう、穀物を運ぶより、鉄を見ている方が、よっぽど、目が、輝いている」
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「ガッツさんも」
ヒコが、聞いた。
「土質感覚の適性者を、見ています」
ガッツが、答えた。
「若い男だ。土の硬さを、手で当てる。基礎工事に、ちょうどいい」
「マルティナさんは」
「私も、決めたよ」
マルティナが、答えた。
「畜産から流れてきた女の子だ。味の違いに、敏感でね」
「エルナさんは」
「畜産の方は、若い男の子です」
エルナが、答えた。
「土質感覚と、動物への観察力が、両方、強いです」
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「これで、四部門で、正式に、弟子を迎える形になります」
ヒコが、評議会全体に、確認した。
「適正可視化は、これで、試験運用から、組織的な運用に、移ります」
「悪くない」
ガッツが、言った。
「見つけて、終わりじゃなく、育てる場所まで、繋がった」
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「もう一つ、決めたいことがあります」
ヒコが、続けた。
評議会の空気が、少し、変わった。
「個人の給与は、これまでと、変えません」
ヒコが、言った。
「ただし、部門ごとに、使える運営費を、別に、持ってもらいます」
「運営費、というのは」
アーヴィンが、聞いた。
「騎士団、近衛、研究魔法、医療結界、錬金鍛冶、土木建築、農業畜産、食料加工
それぞれの部門ごとに、月ごとの運営費を設定します」
「俺たちが、自分で、使い方を決める、ということか」
ガッツが、聞いた。
「ええ」
ヒコが、答えた。
「現場が、一番、何が要るか、分かっています」
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「……現場に、金を持たせるのか」
ガッツが、わずかに、眉を寄せた。
「危なくないか」
「危なさは、あります」
ヒコが、認めた。
「ただし、毎回、私が、全部の判断を、下していたら、いつか、間に合わなくなります」
「間に合わなくなる、というのは」
「私一人の決裁では、いずれ、処理が詰まります」
ヒコが、続けた。
「弟子制度も、同じです。育てるのは、私じゃなく、それぞれの師匠です。予算も、それぞれの部門に、任せます」
「対象は」
ドガンが、聞いた。
「アーヴィン、マユミ、リア、コリン、ガデル、ガッツ、エルナ、マルティナ。八部門です」
ヒコが、答えた。
「ゴルフさんは、純利益の一割という形を、続けます。セリウスさんのギルド、ドガンさんの商業ギルドも、これまでと同じです」
「いいか」
ガッツが、聞いた。
「ヒコは、何を決める」
「施設建設。大型の設備投資。装備の更新」
ヒコが、答えた。
「この三つだけは、引き続き、私が決裁します」
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ドガンが、しばらく、考えていた。
「帳簿の分け方を、決めておいた方がいい」
ドガンが、言った。
「人件費。材料費。設備投資。予備費。この四つに、分けて管理する」
「それぞれの部門も、同じ形式で」
ヒコが、聞いた。
「そうだ。同じ形式なら、後で、比べやすい」
ドガンが、続けた。
「どこに、無駄があるか。どこに、足りないか。すぐに、分かる」
「いいですね」
ヒコが、頷いた。
「築城クラスの現場監督みたいなやり方だ」
ドガンが、わずかに、笑った。
「お前の、本来の仕事だろう」
ヒコは、その言葉に、少し、懐かしさを覚えた。
「そうですね」
ヒコが、笑った。
「数字を分けて、見る。それが、一番、得意なことです」
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「異論は」
ヒコが、評議会全体に、確認した。
誰も、何も、言わなかった。
「では、決定します」
ヒコが、続けた。
「弟子制度、正式発足。部門別運営費、来月から、導入します」
「来月、というのは」
ガッツが、聞いた。
「準備に、少し、時間が要ります」
ヒコが、答えた。
「帳簿の形式を、整えてから、始めます」
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評議会が終わった後、ガデルが、ヒコに、一言だけ、声をかけた。
「お前、本当に、変わったな」
「変わりましたか」
「最初の頃は、全部、一人で、抱え込もうとしていた」
ガデルが、言った。
「今は、任せる場所を、選んでいる」
「任せる方が、怖いです」
ヒコが、正直に、言った。
「ただし、抱え込み続ければ、いつか、私自身が、追いつかなくなります」
「それが、領主になった、ということだ」
ガデルが、短く言って、工房へ戻っていった。
工房では、ガデルの弟子になった青年が、初めて、自分専用の工具を、受け取っていた。
まだ、手つきは、ぎこちない。
それでも、その目は、真っ直ぐに、工具を見つめていた。
ガデルは、何も言わなかった。
ただ、一度だけ、静かに、頷いた。
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その夜、ヒコは記録をつけた。
技能別弟子制度、正式発足。ガデル・ガッツ・マルティナ・エルナ、それぞれ弟子を迎える。
部門別運営費、八部門に導入決定。来月から開始。帳簿は、人件費・材料費・設備投資・予備費に区分。
ヒコ決裁項目:施設建設・大型設備投資・装備の三つに限定。
ペンを置いた。
育てると決めたものを、ようやく、形にした。
今度は、その形が、どう育っていくか。
ヒコには、それを、見守る番だと、分かっていた。
第254話 弟子たちの正式発足 了
【次回予告】新しい弟子たちが、動き出した。
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【領地収支・第254話時点】
・所持金:金貨1609枚(変動なし)
【発展進捗・第254話時点】
・防衛:122%(変動なし)
・食料:101%(変動なし)
・水 :100%(変動なし)
・住居:85%(変動なし)
・インフラ:103%(技能別弟子制度・正式発足)




