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 第251話 欠けた地図

 欠けている部分は、何もない場所ではない。


 何もない場所なら、誰も、わざわざ、欠けさせる必要がない。


 ――欠けさせたということは、そこに、誰かが隠したいものがある、ということだ。

 翌日、評議会の場で、地図の欠損について、改めて検討された。


「破られた範囲を、もう一度、確認します」


 リアが、地図を、卓に広げた。


 ミルヴァが、その傍らで、欠けた部分の輪郭を、指でなぞった。


「儀礼施設の、中心部に近い。リアの見立てと、一致する」


「中心部に、何があったか、記録は」


 ヒコが、聞いた。


「分からない」


 ミルヴァが、答えた。


「シグレとヴェラの記録にも、その部分の詳細は、残っていない」


──────────────────────────────────────


 サヤが、評議会の場に、静かに、入ってきた。


 地図を、ちらりと見た瞬間、足が、止まった。


「サヤさん」


 ヒコが、声をかけた。


 サヤは、答えなかった。


 地図を、見つめたまま、動かなかった。


「……ノイズ」


 サヤが、ようやく、小さく、つぶやいた。


「サヤ?」


 ヒコが、もう一度、声をかけた。


 サヤが、ゆっくりと、顔を上げた。


「認識阻害の痕跡があります」


 サヤのその一言で、評議会の空気が、凍りついた。


──────────────────────────────────────


「認識阻害、というのは」


 ヒコが、聞いた。


「分かりません」


 サヤが、答えた。


「ただ、見た瞬間、自分の中で、何かが、引っかかりました。説明できる感覚ではありません」


「以前にも、似たような感覚を、持ったことが」


「あります」


 サヤが、続けた。


「旧遺構の深部。《可視化》が、乱れた場所。その時と、似た感覚です」


 ヒコの中で、何かが、繋がった。


 昨夜、自分自身が、地図の欠けた部分を見て、覚えた違和感。


 それが、サヤの言う感覚と、近いものかもしれなかった。


「私も、似たことを、感じました」


 ヒコが、静かに、言った。


「昨夜、地図を見ていたとき、見えるはずのものが、見えない、という違和感がありました」


 サヤが、ヒコを見た。


「ヒコさんも、ですか」


「ええ」


 サヤが、しばらく、黙った。


「……これは、ただの破損ではないかもしれません」


──────────────────────────────────────


「誰が、破ったのか」


 ガッツが、聞いた。


「分からない」


 ミルヴァが、答えた。


「ただ、この地図は、ローデル準男爵領経由で、届いた。その前に、誰の手を、経ているかは、分からない」


「経由した場所で、すでに、破られていた可能性が」


 ヒコが、聞いた。


「ある」


 ミルヴァが、頷いた。


「タウルスに、改めて、確認する」


──────────────────────────────────────


 ドガンが、別の角度から、口を開いた。


「この地図の出所は、中央商業ギルドの記録庫だろう」


「分かりますか」


 ヒコが、聞いた。


「シグレ・ヴェラの調査記録は、以前、商会の旧い依頼記録と、同じ場所に保管されていた」


 ドガンが、続けた。


「記録庫の管理体制を、もう一度、確認する必要がある」


「漏洩の可能性、ですか」


「分からない。ただし、誰かが、意図的に破ったなら、その誰かは、この地図の存在を、知っていたことになる」


 ドガンが、低い声で、言った。


「知っている者が、限られているなら、出所も、限られる」


──────────────────────────────────────


「誰が、いつ、破ったのか」


 ヒコが、評議会全体に、整理するように、言った。


「分かりません。ただし、考えるべきことが、もう一つ、増えました」


「もう一つ、というのは」


「サヤさんの言う、認識阻害の痕跡。これが、何を意味するのか」


 ヒコが、続けた。


「セルヴァン・ロウが探していると思われるもの。あの石の存在。今、繋がっているものが、何かあるのかもしれません」


 評議会が、しばらく、静まった。


 誰も、明確な答えを、持っていなかった。


──────────────────────────────────────


「サヤさん」


 ヒコが、改めて、聞いた。


「これを、調べることは、できますか」


「断言はできません。ただ、痕跡を追える可能性はあります」


 サヤが、答えた。


「ただ、知っておいた方がいいと思います」


「分かりました」


 ヒコが、頷いた。


「今は、すぐに動けません。ただし、記録として、残しておきます」


──────────────────────────────────────


 その夜、ヒコは一人、執務室で考えた。


 《可視化》を、短く使った。


 地図の写しを、もう一度、確認した。


 欠けた部分は、変わらず、欠けたままだった。


 ただし、その輪郭の周りに、わずかに、見慣れない色の揺れがあった。


 以前、旧遺構の深部で見た、あの乱れと、似ていた。


 名前のつかない、何かが、そこに、関わっていた。


──────────────────────────────────────


 その夜、ヒコは記録をつけた。


 地図の欠損、儀礼施設中心部に近い範囲。サヤ、「認識阻害の痕跡」を指摘。


 ヒコ自身も、似た違和感を覚えていたことを確認。旧遺構深部の乱れと、近い感覚。


 ドガン、記録庫の管理体制を再確認する方針。情報漏洩元の可能性。


 ペンを置いた。


 欠けた部分には、何かが、隠されていた。


 それが、誰の意図によるものか。


 それとも、もっと、別の何かが、関わっているのか。


 ヒコには、まだ、分からなかった。


 ただ、一つだけ、確かなことがあった。


 この地図は、ただの古地図ではない。



 第251話 欠けた地図 了

【次回予告】評議会で、優先順位を決めた。


──────────────────────────────────────


【領地収支・第251話時点】


・所持金:金貨1483枚(変動なし)


【発展進捗・第251話時点】


・防衛:122%(変動なし)

・食料:101%(変動なし)

・水 :100%(変動なし)

・住居:85%(変動なし)

・インフラ:102%(変動なし)

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