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 第250話 南方の便り

 遠い場所からの便りは、届くまでに時間がかかる。


 時間がかかる分、届いた頃には、すでに古くなっている情報もある。


 ――古い情報でも、今、それを必要とする者がいるなら、価値は消えない。

 青天月、中旬。


 タウルスから、ミルヴァを通じて、一通の包みが届いた。


「南方廃址の件だ」


 ミルヴァが、執務室に、その包みを持ってきた。


「リアさんが言っていた話、ですね」


 ヒコが、確認した。


「ああ」


 ミルヴァが、包みを開いた。


 古い地図の写しと、短い書状が、入っていた。


──────────────────────────────────────


「これは、誰から」


 ヒコが、聞いた。


「ローデル準男爵領」


 ミルヴァが、答えた。


「セレスティア伯爵領の中にある。遺跡管理・調査に強い領地だ」


「王都への道中で、聞きました」


 ヒコが、思い出した。


「アーゼルタウンより、北東圏にある領地ですね」


「そうだ」


 ミルヴァが、続けた。


「タウルスが、以前から、その領地の調査官と、伝手を持っていた」


「タウルスさんが」


 ヒコは、少し、意外に思った。


「ミルヴァさんも、知らなかったんですか」


「最近、知った」


 ミルヴァが、短く答えた。


「タウルスは、自分の手札を、必要になるまで、表に出さない男だ」


──────────────────────────────────────


 書状の内容を、ミルヴァが、読み上げた。


「南方廃址について、追加の記録が見つかった。詳細は、地図の写しを、参照してほしい」


 ミルヴァが、地図の写しを、卓に広げた。


 古い、手描きの地図だった。


 南方の地形、遺構の輪郭が、淡く、描かれていた。


「行く価値が、あるかもしれない」


 ミルヴァが、言った。


「シグレとヴェラの調査記録と、この地図が、重なる部分がある」


──────────────────────────────────────


 地図を、丁寧に見ていたヒコが、ふと、手を止めた。


「ここ」


 ヒコが、地図の中央付近を、指した。


 その部分が、不自然に、欠けていた。


 破れたような、跡があった。


「これは」


「破られている」


 ミルヴァが、地図を、もう一度、確認した。


「最近、誰かが、意図して、この部分だけを破ったようだ」


「意図して、というのは」


「経年劣化じゃない。破れた断面が、新しい」


 ミルヴァが、続けた。


「誰かが、この部分を、見せないように、したのかもしれない」


──────────────────────────────────────


 その日の夕方、リアとコリンが、評議会の合間に、その地図を見に来た。


「これが」


 リアが、地図を、じっと見た。


「……ここは、儀礼施設の中心部に近いはずです」


「分かるんですか」


 ヒコが、聞いた。


「残っている輪郭から、推測できます」


 リアが、答えた。


「南方廃址の、最も古い部分。シグレ師匠の記録にも、この付近の記述がありました」


 コリンが、隣で、静かに、頷いた。


「行ってみたい、という気持ちは、変わりません」


 コリンが、言った。


「ただし、今の状況では、難しいことも、分かっています」


──────────────────────────────────────


「今は、まだ、動けません」


 ヒコが、正直に、言った。


「ヴァルク男爵の動き。ハイム子爵の沈黙。資料提出の反応待ち。やるべきことが、まだ、残っています」


「分かっています」


 リアが、頷いた。


「ただし、考えておいてください」


「考えます」


 ヒコが、答えた。


「南方廃址は、いつか、必ず、向き合うべき場所だと思っています。今は、その時ではない、というだけです」


 コリンが、少し、ほっとしたように、息をついた。


「それで、十分です」


──────────────────────────────────────


 夜、ヒコは一人、執務室で、地図を、もう一度、見返した。


 《可視化》を、短く使った。


 地図そのものに、色は見えなかった。


 ただし、欠けた部分を見たとき、頭の奥に、わずかな違和感が、走った。


 うまく、言葉にできない感覚だった。


 《可視化》で見えているはずの輪郭が、一部だけ、最初から存在しないような違和感だった。


「……これは」


 ヒコは、つぶやいた。


 その感覚を、深く、考える前に、頭の中から、消えてしまった。


 ただ、何かが、引っかかったことだけは、覚えていた。


──────────────────────────────────────


 その夜、ヒコは記録をつけた。


 ローデル準男爵領経由で、南方廃址の追加記録、届く。タウルスの伝手。


 地図の写し、一部、故意に破られた跡。最近のもの。


 リア・コリン、調査への意欲、継続。今は、動けない方針を再確認。


 ペンを置いた。


 遠い場所からの便りは、時間をかけて、届いた。


 その便りの中に、まだ、はっきりしない、小さな引っかかりが、残っていた。


 それが、地図の欠損によるものなのか。


 それとも、自分の《可視化》そのものに関わる違和感なのか。


 ヒコには、まだ、分からなかった。



 第250話 南方の便り 了

【次回予告】評議会で、南方廃址の話が出た。


──────────────────────────────────────


【領地収支・第250話時点】


・所持金:金貨1483枚(変動なし)


【発展進捗・第250話時点】


・防衛:122%(変動なし)

・食料:101%(変動なし)

・水 :100%(変動なし)

・住居:85%(変動なし)

・インフラ:102%(変動なし)

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