↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
392/494

 第249話 青天月の収支

 夏の空は、遠くまで見える。


 遠くの動きも、見えやすくなる。だが、隠す側も、その季節を知っている。


 ――見えやすい季節に、何も見えてこないなら、それは、よほど、上手く隠されている証拠だ。

 青天月、一日。


 月次の給与支払いが、行われた。


 同じ日、バルドの誕生日でもあった。


「バルドさん、おめでとうございます」


 ヒコが、声をかけた。


「ありがとうございます、ヒコ様」


 バルドが、頭を下げた。


「毎年、この日に、新しい年が、始まる気がします」


「新しい年、というのは」


「給与支払いと、誕生日が、同じ日です」


 バルドが、わずかに、笑った。


「数字は、嘘をつきませんからね。自分の節目が、その日に重なるのは、嫌いじゃありません」


──────────────────────────────────────


 ゴルフが、帳簿を持って、執務室に来た。


「今月も、外部収入、伸びています」


 ゴルフが、言った。


「ヴァンデル男爵領との取引、安定しています。圧力を受けていた取引先も、元に戻りました」


「他の貴族との関係は」


「概ね、順調です。ハイム子爵を、除けば」


「ハイム子爵からは、まだ、何も」


「何も、ありません」


 ゴルフが、答えた。


「あの一通の手紙以来、本当に、静かなままです」


 ヒコは、その静かさを、改めて、思い出した。


 動いている者より、動かない者の方が、見えにくい。


 動かない者は、こちらに「待つ時間」を押しつけてくる。


 それは、ヴァルクの「次は、気づかせない手で来る」という言葉と、どこか、似ていた。


──────────────────────────────────────


 ガッツが、星形要塞化の進捗を、報告した。


「稜堡五か所、すべて、機能を確認した」


 ガッツが、言った。


「あとは、細部の補強だけだ」


「順調ですね」


「順調すぎて、少し、気味が悪い」


 ガッツが、珍しく、そんなことを、言った。


「気味が悪い、というのは」


「何も、起きない。それが、却って、落ち着かない」


 ガッツが、続けた。


「お前らの言う、揺さぶりが、来るのを、待ってるみたいだ」


 ヒコは、その感覚を、よく分かる気がした。


──────────────────────────────────────


 午後、ミルヴァが、短い報告を持ってきた。


「ディルク商圏領の、網の起点。少し、見えてきた」


 ミルヴァが、言った。


「分かりましたか」


「まだ、断定はできない。ただし、ヴァルク男爵から、商圏領の代表に、直接の指示があった可能性が、高い」


「証拠は」


「証拠と呼べるものは、まだ、ない。証言だけだ」


 ミルヴァが、続けた。


「証言する人間も、まだ、半信半疑だ。本当に、フォルテス領の方が、続けても、大丈夫なのか、確かめている」


「焦らせないでください」


「分かっている」


 ミルヴァが、頷いた。


「焦らせれば、また、隠れる」


──────────────────────────────────────


 夕方。ヴァルク周りの報告が一段落した頃、リアが、別件の報告を持ってきた。


「ヒコさん」


「何か、ありましたか」


「タウルスから、連絡がありました」


 リアが、言った。


「南方廃址について、何か、新しい話が、あるようです」


「南方廃址」


 ヒコの中で、その名前が、静かに、響いた。


 シグレとヴェラ、両師匠が、かつて、調査した場所だった。


「詳しくは」


「まだ、断片的です。コリンと、整理しています」


 リアが、答えた。


「分かったら、すぐに、報告します」


「お願いします」


──────────────────────────────────────


 夜、ヒコは一人、施設の前に立った。


 《可視化》で、領地全体を確認した。


 星形要塞、外堀、稜堡。


 全部の色が、夏の光の中で、はっきりと、見えていた。


 ただし、その明るさの中に、見えないものが、確かに、あった。


 ハイムの、静かな筋。


 ヴァルクの、止まったままの筋。


 そして、まだ、形になっていない、南方廃址という、新しい影。


 見える季節だからこそ、見えないものが、より、気になった。


──────────────────────────────────────


 その夜、ヒコは記録をつけた。


 青天月一日。月次給与支払い、完了。バルド誕生日。


 外部収入、安定して成長。ハイム子爵、依然、音沙汰なし。


 星形要塞化、稜堡五か所、機能確認完了。


 ミルヴァ、網の起点について、証言を得る。証拠としては、まだ不十分。


 リア、南方廃址について、タウルスより新情報。詳細待ち。


 ペンを置いた。


 夏は、遠くまで、見える季節だった。


 ただし、見える分だけ、見えないものの輪郭も、はっきりしてくる。


 ヒコには、それが、これから向き合うべき課題だと、分かっていた。



 第249話 青天月の収支 了

【次回予告】南方廃址の話が、再び動いた。


──────────────────────────────────────


【領地収支・青天月一日時点】


・所持金:金貨1483枚(+88)

 収 入:冒険者固定給 金貨   30枚

     勲爵士給与  金貨   12枚

     外部取引   金貨 約100枚(取引先復帰分含む)

     ギルド収益  金貨  約35枚

     合計     金貨 約177枚

 支 出:月次固定   金貨  約46枚

  最終星形要塞化資材 金貨  約43枚

     合計     金貨  約89枚


【発展進捗・第249話時点】


・防衛:122%(星形要塞化・稜堡五か所機能確認完了)

・食料:101%(変動なし)

・水 :100%(変動なし)

・住居:85%(変動なし)

・インフラ:102%(変動なし)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。