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 第248話 陽炎月の決着

 決着は、戦わずにつくこともある。


 戦わない勝利は、実感が薄い。だからこそ、見落としやすい。


 ――見落とした区切りの中に、次への布石が、静かに隠れている。

 陽炎月、末日。


 ゴルフが、執務室に、報告を持ってきた。


「取引先の方から、動きがありました」


 ゴルフが、言った。


「圧力を受けていた二件のうち、一件が、元の条件に、戻したいと、申し出てきました」


「戻したい、というのは」


 ヒコが、聞いた。


「こちらが、取引量を縮小してまで、関係を続けたことが、相手にも、伝わったようです」


 ゴルフが、続けた。


「『フォルテス領は、無理を言わなかった。それなら、こちらも、無理を続ける理由がない』、と」


──────────────────────────────────────


 ドガンが、その報告を聞いて、頷いた。


「商圏領の圧力より、こちらの誠実さが、勝ったか」


「もう一件は」


 ヒコが、聞いた。


「まだ、様子を見ています。ただ、悪化はしていません」


 ゴルフが、答えた。


「こちらが、簡単に崩れないと分かれば、向こうも、押し切れません」


──────────────────────────────────────


 セリウスからも、報告があった。


「周辺領地との関係、少しずつ、固まってきました」


 セリウスが、言った。


「ギルド経由の繋がりが、いくつか、形になっています」


「効果は」


「すぐには、見えません。ただ、フォルテス領の周りに、薄く、支えが、できています」


 セリウスが、続けた。


「揺らされたとき、すぐには、倒れない。それだけの厚みです」


──────────────────────────────────────


 ミルヴァも、短い報告を持ってきた。


「網の起点、まだ、完全には分からない」


 ミルヴァが、言った。


「ただし、ディルク商圏領の中で、圧力に従っていた人間の一人が、少し、態度を変えた」


「態度を変えた、というのは」


「これ以上、無理に従う必要はない、と、感じ始めている」


 ミルヴァが、続けた。


「こちらが、簡単には崩れないと分かれば、向こうの結束も、弱くなる」


──────────────────────────────────────


 夕方、評議会の主要メンバーに、現状が共有された。


「全体として、どうだ」


 ガッツが、聞いた。


「圧力は、弱まっています」


 ヒコが、答えた。


「完全に、なくなったわけではありません。ただし、当面の脅威は、後退しました」


「ヴァルクは、諦めたのか」


 アーヴィンが、聞いた。


「いえ」


 ドガンが、答えた。


「諦めたわけじゃない。今回の手が、思ったほど、効かなかった、というだけだ」


 ドガンが、続けた。


「次は、揺らされたこと自体に、気づかせない手で来る」


 評議会の空気が、わずかに、引き締まった。


──────────────────────────────────────


「巧妙に、というのは」


 ヒコが、聞いた。


「今回は、足元の取引先を、揺らした。次は、もっと、見えにくい場所を、狙うだろう」


 ドガンが、答えた。


「人かもしれない。情報かもしれない。今のところ、分からない」


「備えは」


「これまでと、同じだ」


 ドガンが、言った。


「見えるものを、見続ける。見えないものは、人を信じて、頼る」


 ヒコは、その言葉を、静かに、受け取った。


──────────────────────────────────────


 夜、ヒコは一人、施設の前に立った。


 《可視化》で、領地全体を確認した。


 星形要塞、外堀、稜堡。


 すべての色が、落ち着いていた。


 ただし、その落ち着きの奥に、まだ、終わっていない緊張が、残っていた。


 ヴァルクという、太く絡みつく筋は、まだ、消えていなかった。


 ただし、その筋は、消えてはいない。


 獲物を狙う蛇のように、一度、動きを止めているだけだった


 止めているだけで、終わったわけではなかった。


──────────────────────────────────────


 その夜、ヒコは記録をつけた。


 取引先の圧力、一件は元に戻る。もう一件は、様子見。


 周辺領地との関係、細いながらも、形になり始めている。


 ディルク商圏領内、従っていた人間の結束に、揺らぎ。


 ドガン「次は、もっと巧妙に来る」。


 ペンを置いた。


 戦わずに、決着がついた。


 ただし、それは、終わりではなく、次の局面への、静かな区切りだった。


 ヒコには、それが、分かっていた。



 第248話 陽炎月の決着 了

【次回予告】青天月が来た。


──────────────────────────────────────


【領地収支・第248話時点】


・所持金:金貨1395枚(変動なし)


【発展進捗・第248話時点】


・防衛:120%(変動なし)

・食料:101%(変動なし)

・水 :100%(変動なし)

・住居:85%(変動なし)

・インフラ:102%(変動なし)

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