第三十七話「東の街道と、四人の連携」
東の街道に入ってすぐだった。
リアが止まった。
「反応があります。左前方、三十メートル」
俺もスキルで確認した。
「同じです。二つの気配。消耗なし」
アーヴィンが剣に手をかけた。
マユミが低い姿勢になった。
リアが俺を見た。
「役割、どうしますか」
「アーヴィンさんが前、マユミさんが右。リアさんは左から牽制、俺は後ろで確認します」
「わかりました」
四人が動いた。
茂みから出てきたのは、中型の魔物だった。
二頭。
犬に似ていたが、足が六本あった。
スキルで確認した。
消耗なし。元気。
Dランク相当の気配だった。
アーヴィンが前に出た。
一頭が向かってきた。
アーヴィンが右に捌いて、剣を入れた。
一撃だった。
もう一頭がマユミの方に向かった。
マユミが横に動いた。
速かった。
短剣が二連続で入った。
倒れた。
終わった。
リアが牽制の構えを解いた。
「出番がありませんでした」
「それでいいです」
俺が言った。
「牽制の構えがあったから、二頭が分散しなかった。リアさんがいたから、この結果になりました」
「そういう見方をするんですね」
「そうです。戦わなかった人間の貢献は、見えにくい。でも、現場では一番大事なことがある」
リアが少し考えた。
「わかりました」
アーヴィンが言った。
「次も同じ動きでいい」
「はい」
四人で先に進んだ。
街道沿いを一時間歩いた。
採取依頼の薬草を探した。
リアの索敵が役立った。
「左、二十メートル先に薬草の反応があります。カルミ草だと思います」
「依頼のリストに入っています」
俺が確認した。
「採取量は」
「群生しています。依頼分は十分取れます」
「行きましょう」
四人で草むらに入った。
薬草を採取した。
マユミが手際よく摘んだ。
リアが索敵を続けた。
アーヴィンが周囲を警戒した。
俺がスキルで確認しながら、採取量を数えた。
「依頼分は揃いました。余分があります。どうしますか」
「持っていくか」
マユミが言った。
「コルテさんに聞いてみます。定期依頼の品目に入るかもしれません」
「そうするか」
リアが言った。
「私も採取に慣れておいた方がいいですか」
「できると幅が広がります。ただ、強制はしません」
「効率的ならやります」
「効率的です」
「わかりました。教えてください」
マユミが言った。
「俺が教えてやる。簡単だ」
「お願いします」
マユミとリアが並んで薬草を摘んだ。
珍しい組み合わせだった。
昨日まで、二人はほとんど話していなかった。
でも今は、マユミが実演して、リアが見て、少しずつ覚えていた。
スキルで確認した。
リアの気配。
緊張、ほとんどなし。
昨日より、ずっと落ち着いていた。
昼過ぎ、木陰で休んだ。
マルティナさんが持たせてくれた昼食を出した。
四人分あった。
マルティナさんは朝のうちに、四人分を用意していた。
昨日まで三人分だったのに。
リアが包みを見た。
「最初から四人分ありますね」
「そうです」
「昨日から泊まっているのに」
「マルティナさんは、そういう人です」
リアが包みを開けた。
干し肉と、固いパンと、小さな果物が入っていた。
「……気が利きますね」
「そうです。余計なことを言わないで、こういうことをします」
アーヴィンが言った。
「前に同じことを聞いた気がする」
「俺もそう言いました。アーゼルタウン北側の依頼で」
「覚えているのか」
「大事なことなので」
マユミが笑った。
リアが干し肉を一口食べた。
「美味しいです」
「マルティナさんの作ったものは全部そうです」
「持ち出しまで美味しいとは思いませんでした」
「驚きました、俺も最初は」
四人で食べた。
木陰に風が来た。
鳥の声がした。
静かな昼だった。
リアが空を見た。
「こういう時間が、久しぶりです」
「どういう時間ですか」
「急いでいない時間です。一人で動いていると、常に次を考えていました。休んでいる間も、次の依頼、次の移動、次の準備。止まっている時間が怖かったです」
「なぜですか」
「止まると、考えてしまうから」
俺は少し黙った。
リアが続けた。
「師匠のこととか、一人でいることとか。動いている方が、考えずに済みます」
「それは、よくある話です」
「そうですか」
「現場でも同じです。仕事を詰め込んで、考えないようにしている人間がいました。でも、止まって考えることも、仕事の一部です」
「止まって考えることが」
「段取りは、止まらないと組めません。走りながら段取りを組むと、必ずどこかで抜けが出ます」
リアが少し考えた。
「だから、今みたいな時間も、段取りのうちですか」
「そうです」
「……強引ですね、やはり」
「現場仕込みなので」
リアが小さく笑った。
今度は、はっきりわかる笑い方だった。
マユミが言った。
「リア、笑えるじゃないか」
「笑えますよ、普通に」
「昨日からずっと真顔だったから」
「緊張していたので」
「今は」
「していません」
「そうか」
マユミが満足そうに干し肉を食べた。
アーヴィンが空を見た。
「午後も動くか」
「もう一本、採取依頼があります。南の方角に」
「遠いか」
「三十分ほどです。余裕で戻れます」
「行こう」
四人が立ち上がった。
午後の依頼も問題なかった。
魔物が一頭出たが、アーヴィンが一瞬で仕留めた。
リアが索敵で先に察知していたので、奇襲にならなかった。
「察知が早かったです」
俺がリアに言った。
「感知魔法の範囲を少し広げました。試してみました」
「どのくらい広がりましたか」
「昨日は三十メートル前後でしたが、今日は五十メートルほどです」
「それは大きいです」
「まだ精度が落ちます。範囲を広げると、細かい情報が取りにくくなります」
「俺のスキルと組み合わせましょう。遠距離はリアさん、近距離は俺が精度を上げます」
リアが少し考えた。
「二段構えですね」
「そうです。一人でやるより、確実です」
「……それは認めます」
「ありがとうございます」
アーヴィンが前を歩きながら言った。
「二人の確認が重なると、俺たちが動きやすい」
「そうですか」
「前衛は、情報があれば動ける。情報がないと、体で確認するしかない。それは消耗が大きい」
「わかりました。精度を上げます」
「急がなくていい。今日だけで十分だ」
リアが少し間を置いた。
「アーヴィンさんは、口数が少ないですね」
「そうだ」
「でも、言葉に無駄がない」
「……そうか」
マユミが言った。
「褒められてるぞ、アーヴィン」
「わかってる」
「顔に出てないぞ」
「出さなくていい」
リアが俺を見た。
「ああいう人なんですか、いつも」
「そうです。でも、言葉を選んでいます。出てくる言葉は全部、必要なものです」
「なるほど」
「慣れると、わかります」
「慣れるまで、どのくらいかかりますか」
「俺はまだ慣れ途中です」
リアがまた小さく笑った。
アーゼルタウンに戻ったのは、夕方前だった。
ギルドに寄って報酬を受け取った。
採取二件で銀貨三枚。
四人で山分けした。
ギルドを出た。
マユミが伸びをした。
「今日は動いたな」
「そうですね」
「でも、疲れ方が違う」
「どう違いますか」
「四人だと、楽だ。なんかこう、分散する感じがある」
リアが言った。
「三人より四人の方が、一人あたりの負担が減ります。単純な話ですが」
「それを実感した」
「効率的です」
「そうだな」
マユミとリアが並んで歩いた。
昨日まで見なかった光景だった。
アーヴィンが俺の隣に来た。
「うまくいっているな」
小声で言った。
「そうですね」
「お前の段取りのおかげだ」
「みんなのおかげです」
「また言う」
「本当のことなので」
アーヴィンが少し口元を動かした。
星の宿が見えてきた。
マルティナさんが扉を開けて、外を見ていた。
四人が帰ってくるのを見た。
「おかえり」
「ただいまです」
「飯ができている。手を洗って来い」
「はい」
四人で中に入った。
食堂にいい匂いがした。
今夜も、四人分だった。
テーブルに着いた。
昨日より、自然に座れた。
それだけで、何かが積み上がっている気がした。
一日で、チームになるわけじゃない。
でも、一日ずつ、少しずつ積み上がっていく。
現場も同じだった。
建物は一日で建たない。
でも、毎日積み上げれば、必ず形になる。
マルティナさんが料理を運んできた。
「食え」
「いただきます」
四人の声が、揃った。
揃えようとしたわけじゃなかった。
でも、揃った。
それが、今夜一番いいことだった気がした。
第三十七話「東の街道と、四人の連携」 了




