表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

35/193

第三十五話「新しい依頼と、見知らぬ魔法使い」

 数日後。


 冒険者ギルドに来ていた。


 依頼の掲示板を見ていた。


 マユミが隣に立っていた。


 アーヴィンは少し離れた場所で壁にもたれていた。



 掲示板に、新しい依頼が出ていた。


 街の南東、二時間ほどの森の中に、薬草の群生地があるらしい。


 ただし、その近辺に最近魔物が出るようになった。


 依頼内容は護衛と採取の補助。


 依頼主は薬草商。


 報酬は銀貨二枚。


 ただし、一つ条件があった。


 魔法使いが同行できること。


 その一文が、赤い文字で書いてあった。


「私たち、魔法使いいないよな」


 マユミが言った。


「そうですね」


「惜しい依頼だな。報酬もいいのに」


「別の依頼を探しましょうか」


「そうするか」


 そのとき、声がした。


「その依頼、一緒に受けませんか」


 振り向いた。


 知らない顔だった。


 年は十七か十八。


 長い黒髪だった。


 細身だった。


 静かな目をしていた。


 こちらを真っ直ぐ見ていた。


 スキルで確認した。


 消耗なし。


 気配が、普通じゃなかった。


 魔法使いの気配だ、と思った。


 今まで感じたことのない種類の重さだった。



「あなたが魔法使いですか」


 俺が聞いた。


「そうです」


 短い答えだった。


「一人で活動していますか」


「そうです」


「今は」


「パーティを探しています。ただし、条件があります」


 マユミが腕を組んだ。


「条件って」


「無駄な動きをするパーティとは組みません」


 はっきり言った。


 遠慮がなかった。


 マユミが少し眉を上げた。


「無駄な動き、というのは」


「判断が遅い。計画性がない。感情で動く。そういうパーティです」


 俺は少し考えた。


 感情で動かない。段取りを重視する。


 それは、俺が現場でずっとやってきたことだった。


「名前を聞いていいですか」


「リアです」


「前田和彦です。ヒコと呼んでください」


「わかりました」


 マユミが言った。


「マユミだ」


 リアが頷いた。


 アーヴィンが壁から離れた。


 近づいてきた。


 リアがアーヴィンを見た。


 少し目が動いた。


 驚いたのかもしれない。


 アーヴィンの気配は、普通じゃない。


 それはリアにも伝わったはずだった。


「アーヴィンだ」


 アーヴィンが言った。


 リアが頷いた。


「よろしくお願いします」


 四人が、掲示板の前に立っていた。



「条件の話を聞かせてください」


 俺が言った。


「私が魔法を使う場面は、私が判断します。指示には従いません」


「わかりました」


「あと、効率が悪い動きは指摘します。気分を害しても、言います」


「それも構いません」


 リアが少し俺を見た。


「即答するんですね」


「条件として妥当だと思ったので」


「普通は少し考えます」


「考えるまでもなかったです」


 リアが少し黙った。


 何かを測るような目だった。


「あなたのパーティのランクは」


「Dランクです」


「私もDランクです。ただし、魔法の実力はBランク相当と言われています」


 マユミが言った。


「自分で言うか」


「事実なので」


「嫌いじゃないぞ、そういうの」


 リアがマユミを見た。


「あなたは前衛ですか」


「そうだ。短剣と機動力が売りだ」


「見ればわかります」


「どこで」


「動き方です。重心の置き方が前衛のものです」


 マユミが少し目を細めた。


「よく見てるな」


「癖です」


 アーヴィンが言った。


「今日、依頼を受けるか」


 俺はリアを見た。


「一緒に受けてもらえますか。今日の依頼を、まず試してみましょう」


「構いません」


「ただし、正式なパーティ加入については、今日の動きを見てから話し合いましょう。お互いに」


 リアが少し間を置いた。


「……公平な提案ですね」


「段取りとして、それが正しいと思います」


「わかりました」



 依頼を受けた。


 四人で南東の森に向かった。


 移動中、リアは俺の隣を歩いた。


 マユミが先頭、アーヴィンが右側、リアと俺が後ろだった。


「《可視化》のスキルを持っているんですか」


 リアが聞いた。


 俺は少し驚いた。


「なぜわかりましたか」


「索敵の間隔と、目の動かし方です。常に周囲を確認している。あれは索敵スキルがある人間の動き方です」


「観察眼がありますね」


「効率的に動くために必要なので」


 俺はスキルで確認した。


 リアの気配。


 消耗なし。元気。


 感情の機微が、ぼんやり見えた。


 緊張している。


 でも、表情には出していない。


 新しいパーティに入ることへの緊張だろう、と思った。


「リアさんは、今まで何人パーティを組みましたか」


「三つです。どれも長続きしませんでした」


「理由は」


「効率が悪かったから、と言ったら語弊があります。正確には、私の言い方が悪かったと思っています」


 俺は少し驚いた。


 自分の非を認めた。


「そうですか」


「指摘の仕方が直接的すぎると言われました。間違っていることを指摘するのに、なぜ遠回しに言わないといけないのか、今でもわかりませんが」


「それは難しい問題ですね」


「ヒコさんはどう思いますか」


「現場では、指摘の仕方より、指摘の中身の方が大事だと思っています。ただ、聞いてもらえないと中身も届かないので、順番としては関係を作ってから中身を出す、という段取りになります」


「段取り、という言葉をよく使いますね」


「癖なので」


 リアが少し黙った。


「面白い人ですね」


「そうですか」


「褒めています」



 森の入り口に着いた。


 薬草商の依頼主が待っていた。


 四十代の男だった。


「来てくれましたか。助かります」


「状況を教えてください」


 俺が聞いた。


「群生地まで、森の中を二十分ほど歩きます。ただ、最近その道沿いに魔物が出るようになりました。二頭から三頭の群れで、Dランク相当です」


「種類は」


「フォレストウルフです。速い魔物です。単体では大したことはないですが、群れで来ると厄介で」


「わかりました。採取の時間はどのくらい必要ですか」


「三十分あれば十分です」


「行きと帰り、合わせて一時間二十分の護衛と、採取中の三十分。合計二時間の想定で動きます」


「そんなに細かく」


「段取りとして必要なので」


 依頼主が少し目を丸くした。


「冒険者にしては、仕事の進め方を知っているな」


「現場仕込みなので」



 森に入った。


 四人と依頼主の五人だった。


 俺がスキルで前方を確認した。


「百メートルほど先に、三つの気配があります。動いています」


「フォレストウルフだ」


 依頼主が言った。


 リアが俺を見た。


「スキルで距離もわかるんですか」


「正確な数値ではないですが、だいたいの感覚で」


「有能ですね」


「現場仕込みなので」


「それが口癖ですか」


「そうかもしれません」


 アーヴィンが前に出た。


 マユミがその横に並んだ。


 俺とリアが後ろに下がった。


 依頼主をさらに後ろに下げた。


「気配が動いています。こちらに向かっています」


「わかった」


 アーヴィンが言った。


 茂みが揺れた。


 三頭、同時に出てきた。


 速かった。


 マユミが右の一頭に向かった。


 アーヴィンが左の二頭を引きつけた。


 リアが動いた。


 手を前に出した。


 風が集まった。


 アーヴィンに向かっていた一頭が、横に吹き飛んだ。


 アーヴィンが残りの一頭に剣を入れた。


 一撃だった。


 マユミが右の一頭を仕留めた。


 吹き飛んだ一頭が立ち上がった。


「右、もう一頭います」


 俺が声を出した。


 マユミが振り返っていた。


 もう動いていた。


 短剣が入った。


 終わった。


 三頭、全部。


 時間にして、一分もかかっていなかった。


 依頼主が呆然としていた。


「……速いな」


「段取り通りです」


 俺が言った。



 採取の間、俺とリアが周囲を確認した。


 リアが索敵魔法を使った。


「半径五十メートルに魔物はいません」


「俺のスキルでも同じです」


 リアが俺を見た。


「二重確認ですね」


「念のためです。二人で確認することで、見落としが減ります」


「効率的です」


「そう言ってもらえると助かります」


 リアが少し考えた。


「さっきの戦闘、役割分担が自然でした」


「そうですか」


「マユミさんが右、アーヴィンさんが左二頭、私が一頭を弾く。誰も指示していないのに、全員が自然に動きました」


「普段からそういう動き方をしているので」


「普段から」


「依頼のたびに、少しずつ積み上げてきた結果です」


 リアが黙った。


 少し間があった。


「私が入っても、崩れませんか」


 静かな声だった。


 さっきまでの、効率を語る声じゃなかった。


 本音が少し出た声だった。


「崩れません」


 俺は答えた。


「なぜ言い切れるんですか」


「リアさんが今日、自然に動いていたからです。役割を考えて、無駄なく動いていた。それが見えました」


「スキルで」


「スキルと、目で」


 リアが少し前を向いた。


「……そうですか」


 それだけ言った。


 でも、気配が少し変わった。


 緊張が、少し和らいだ。



 採取が終わった。


 帰り道は魔物が出なかった。


 森を出た。


 依頼主が頭を下げた。


「助かりました。こんなにスムーズに終わるとは思いませんでした」


「段取り通りです」


「また頼んでもいいですか」


「依頼を出してもらえれば」


 依頼主が報酬を出した。


 銀貨二枚。


 受け取った。


「ありがとうございました」


 依頼主が去った。


 四人が残った。


 マユミがリアを見た。


「どうだった」


「悪くなかったです」


「悪くない、か」


「褒めています」


 マユミが少し笑った。


「さっき言ってたな、それ」


「本当のことなので」


 アーヴィンがリアを見た。


「風の魔法、使い慣れているな」


「火と風が得意です」


「今日みたいな使い方は」


「牽制です。倒すより、流す方が効率的な場面があります」


「そうだな」


 アーヴィンが頷いた。


 リアが少し驚いた顔をした。


 たぶん、すんなり認められると思っていなかったのだろう。


「帰りながら話しましょう」


 俺が言った。


「正式加入の話を」


 リアが俺を見た。


「もういいんですか。判断が早くないですか」


「十分見ました」


「何を」


「動き方と、考え方と、本音が少し見えました。それで十分です」


 リアがまた、少し黙った。


「……わかりました」


 四人でアーゼルタウンに向かって歩き始めた。



 帰り道、条件の話をした。


 報酬の分配、役割の確認、宿の手配。


 リアは宿を探していると言った。


「星の宿に空きがあるか確認します。マルティナさんに聞いてみます」


「マルティナさん」


「俺たちが泊まっている宿の女将さんです。厳しい人ですが、信頼できます」


「厳しい」


「余計なことを言わない人です。でも、全部わかっています」


 リアが少し考えた。


「会ってみます」


「それがいいと思います」



 星の宿に戻った。


 マルティナさんがカウンターにいた。


 リアを見た。


 何も言わなかった。


 少し間があった。


「泊まるのか」


「検討しています」


 リアが答えた。


 マルティナさんがリアを見た。


「一人か」


「今日まで一人でした」


「そうか」


 マルティナさんがカウンターの台帳を開いた。


「空きはある。月極なら月銀貨十枚、三食込みだ」


「条件を確認してもいいですか」


「言え」


「食事の時間は」


「朝は日の出から一時間以内。昼は持ち出し。夜は日没後一時間以内だ」


「遅くなった場合は」


「言ってくれれば取っておく。言わなければない」


「わかりました」


 リアがマルティナさんを見た。


 少し間があった。


「入ります」


「そうか」


 マルティナさんが台帳に書いた。


「飯をしっかり食え。体が資本だ」


「はい」


 リアが少し目を丸くした。


 俺は小声で言った。


「いつもそう言う人です」


「そうですか」


「慣れると、安心します」


 リアが小さく頷いた。



 夕食は四人だった。


 テーブルに四人分並んでいた。


 リアが座った。


 マユミが隣に座った。


 アーヴィンが向かいに座った。


 俺が端に座った。


 しばらく、静かだった。


 マユミが言った。


「リア、嫌いな食い物はあるか」


「特にありません」


「好きな食い物は」


「考えたことがありませんでした」


「え」


「食事は栄養補給だと思っていたので」


 マユミが俺を見た。


 俺はマユミを見た。


「それは、もったいないですね」


 俺が言った。


「そうですか」


「マルティナさんの飯は、栄養補給を超えています。食べてみてください」


 リアが皿を見た。


 一口食べた。


 少し止まった。


 もう一口食べた。


「……美味しいです」


「でしょう」


 マユミが笑った。


「顔に出てるぞ」


「そんなに出ていますか」


「出てる出てる」


 アーヴィンが静かに食べながら言った。


「最初は皆、そうだ」


「アーヴィンもそうだったのか」


 マユミが聞いた。


「……覚えていない」


「覚えてるだろ」


「覚えていない」


 マユミがまた笑った。


 リアが少し、口元を動かした。


 笑ったのかどうか、わからないくらいの動きだった。


 でも、動いた。


 スキルに映る気配が、また少し変わった。


 緊張が、もう少し和らいでいた。


 今日、初めて会った人間が、今夜から同じ宿で同じ飯を食っている。


 現場でも同じだった。


 チームは、仕事だけじゃなくて、飯で作られる。


 そういうものだ、と俺は思った。


第三十五話「新しい依頼と、見知らぬ魔法使い」 了

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ