第199話 来る
来る、と分かったとき、人は二つに分かれる。
逃げる側と、待つ側だ。
――待てる者が、守れる。
長影月、末日。
朝、セリウスが来た。
いつもより早い時間だった。
「話があります」
「どうぞ」
「来ます。確認が取れました。傭兵部隊が動き出した模様です」
「規模は」
「四十名前後。ヴァルク男爵の旗は立てていません。ただし、出所はヴァルク男爵領地です」
「到着までは」
「七日前後です。街道を使っています。侵攻速度は速くありません」
セリウスが続けた。
「急いでいないのが気になります」
「なぜですか」
「急がない理由があるのではと。合流を待っているか、あるいは別の動きと連動しているかです」
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午前、全員を集めた。
アーヴィン・マユミ・リア・コリン・ミルヴァ・ゴルフ・ドガン・セリウス・バルド・ガッツ・ガデル。
地下指揮所に集まった。
「セリウスさんから報告がありました。傭兵部隊が動き出しました。到着まで七日前後です」
誰も声を上げなかった。
ただし、空気が変わった。
「準備を確認します。各担当から、現状を教えてください」
アーヴィンが先に口を開いた。
「外堀石壁補強、昨日完了した。稜堡の射線確認済み。五個分隊、配置確認済み。地下警戒、コリンとリク分隊二名が継続中」
「ガッツさん」
「建設物の補強、問題なし。避難場所の確保、完了している」
「ガデルさん」
「工房は封鎖できる。蒼鋼保管庫、結界二重発動済み」
「コリンさん」
「広域回復補助、最大出力で維持できます。地下結界、感知型で稼働中です」
「ゴルフさん」
「取引先に事前連絡を入れました。当面の輸送は止めます。備蓄は十分あります」
「ドガンさん」
「ギルドの運用は継続します。ただし、外来者の識別を強化する。セリウスと共有済みだ」
「バルドさん」
「村人への周知、準備できています」
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全員の確認が終わった。
「村人への周知は、今日行います。バルドさんお願いできますか」
「承知しました」
バルドが頷いた。
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昼前、鐘システムの最終確認をした。
見張り塔に上がった。
鐘は三つあった。
一回叩く。
音が領地に響いた。
「外敵接近の合図です」
近衛の一人が確認した。
「聞こえました」
「二回叩きます」
音が響いた。
「火災の合図です」
「確認しました」
「三回叩きます」
音が三回響いた。
「全員避難の合図です」
「確認しました」
パルスが地下で反応したときに、見張り塔の鐘が連動する体制も確認した。
問題なかった。
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昼、ヒコは近衛の配置を確認した。
マユミが三名を連れて、領主館の周囲を確認していた。
「問題ありますか」
「一か所、見通しが悪い場所がある」
マユミが示した。
「倉庫の裏側。死角になる」
「ガッツさんに言いますか」
「もう言った。明日、格子を一枚入れてもらう」
「早いですね」
「気になったからね」
マユミが短く言った。
「ヒコ。戦闘中前には出ないで」
「分かっています」
「分かっていても……だ」
「……はい」
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午後、避難訓練を行った。
「一度、動いてみましょう」
バルドが村人に声をかけた。
「訓練です。本番のつもりで動いてください」
鐘が三回鳴った。
全員避難の合図だった。
領地中の人間が動いた。
最初の一分は、混乱した。
子どもが迷子になった。
老人が方向を間違えた。
家畜が暴れた。
避難場所への誘導が渋滞した。
全員が揃うまで、三十分かかった。
バルドが全員を見渡した。
「三十分かかりました。話になりません」
静かな声だった。
ただし、誰も言い返さなかった。
「本番では、三十分待ってくれる敵はいません。次は、半分で動けるようにします」
ヒコが全員に言った。
「今日動いてみたことに、意味があります。何が足りなかったか、全員が分かったはずです。それが、次に繋がります」
子どもの一人が手を挙げた。
「次はもっと早く動けます」
「その意気です」
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夕方、アーヴィンと外堀を確認した。
水が全周の半分以上を囲んでいた。
石壁は固かった。
「想定通りですか」
「ああ」
アーヴィンが外堀を見た。
「敵が来て、初めて分かることがある」
「想定通りに動くかどうかですか」
「そうだ。作った本人より、使う場面の方が正直だ」
少し間があった。
「七日ある」
「七日、あります」
「長い」
「長いですね」
アーヴィンが短く言った。
「早く来い」
ヒコは少し考えた。
「来てくれれば、答えが出ます」
「そうだ」
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夜、記録をつけた。
長影月末日。セリウス報告:傭兵部隊が動き出した。四十名前後。七日前後で到着予定。急いでいない点が気になる(合流待ちか連動の可能性)。全体会議:各担当から準備完了の報告。外堀補強・稜堡確認・五個分隊配置・地下結界・工房封鎖・ギルド識別強化・在庫確保、全て完了。村人への告知完了。バルド「告げる。隠すより、備える方がいいです」。鐘システム最終確認済み。近衛配置確認・マユミが倉庫裏の死角を発見・明日格子設置予定。避難訓練第一回実施:三十分かかった。バルド「話になりません」。課題が全員に伝わった。
ペンを置いた。
七日ある。
できる準備は、ほぼ今日で終わった。
あとは、来るのを待つだけだ。
待つことが、今できる一番良いことだった。
ただし、《可視化》の北西の色は、まだ動いていた。
地下も、地上も、同時に来るかもしれなかった。
もしそうなら――
それが、フォルテス領に対する最初の本格侵攻になる。
第199話 来る 了
【次回予告】パルスが、反応した。
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【領地収支・長影月末時点】
・所持金:金貨672枚(変動なし)
※輸送一時停止中・備蓄で対応
【発展進捗・長影月末時点】
・防衛:105%(全体会議完了・全配置確認済み・避難訓練第一回実施)
・食料:100%(燻製・備蓄・三十日分確保済み)
・水 :95%(外堀水が全周半分以上を囲む)
・住居:85%(変動なし)
・インフラ:100%(鐘システム・識別強化・ギルド継続稼働)




