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 第200話 夜明け前

 戦いは、始まる前から始まっている。


 気づいた者が、最初に動ける。


 ――動けた者が、守れる。

 聖夜月、三日。


 深夜、二刻。


 パルスが動いた。


 いつもの往復ではなかった。


 一点に向かって、まっすぐ動いた。


 そして、叫んだ。


「来た来た来た! 地下から来た!」


──────────────────────────────────────


 コリンの結界が反応した。


 感知型の結界が、地下遺構の入口付近で光った。


 リク分隊の二名が確認に走った。


 ヒコが飛び起きた。


 《可視化》を使った。


 地下遺構の方向から、複数の色が動いていた。


 人の色だった。


 三つ、あるいは四つ。


 ゆっくりではなかった。


 急いでいた。


 偵察ではない。目的地がある動きだった。


「アーヴィンさん」


 扉を開けると、アーヴィンがすでに廊下にいた。


「地下だ」


「はい。三から四名。入口付近まで来ています」


「コリン」


「地下通路を閉鎖します」


 コリンがすでに動いていた。


──────────────────────────────────────


 アーヴィンが指示を出した。


「リク。地下の封鎖を維持しろ。侵入者を通すな。ただし、無理に追うな」


「了解しました」


「コリン。通路の結界を一段上げろ。感知型から遮断型に切り替えろ」


「切り替えます」


「マユミ。ヒコのそばを離れるな」


「分かった」


 アーヴィンが外に出た。


 見張り塔の方向を見た。


「地上はまだ来ていない」


「七日と言っていました。今日は三日目です」


「急いで来たか、あるいは別の隊が先に動いた」


 アーヴィンが続けた。


「地下と地上が同時に来るかもしれない。鐘を鳴らす」


「一回ですか」


「一回だ。外敵接近。村人は避難する必要はない。ただし、構えさせる」


──────────────────────────────────────


 鐘が一回鳴った。


 音が夜の領地に響いた。


 灯りが一つ、また一つと増えた。


 窓から顔を出す者。


 扉を開けて外を確認する者。


 ただし、誰も叫ばなかった。


 誰も走り出さなかった。


 一回の鐘の意味を、全員が知っていた。


 バルドが村人の間を動いていた。


「落ち着いてください。一回です。構えるだけでいいです」


 静かな声だった。


 村人が頷いた。


──────────────────────────────────────


 地下で音がした。


 コリンの結界が二度目の反応をした。


「突破しようとしています」


「通しますか」


「通しません。ただし、力のある者です。時間がかかります」


 ヒコは《可視化》を地下に向けた。


 侵入者の色が、結界の手前で止まっていた。


 ヴェノムが反応していた。


「ヴェノムが何かを感じています」


「毒ですか」


「持っています。ただし、まだ使っていません」


 コリンが続けた。


「ミルヴァさんを呼んでください。捕縛の準備があります」


──────────────────────────────────────


 外から、別の報告が来た。


 見張り塔の番が走ってきた。


「北の街道に、火が見えます。松明です。数は……二十以上はあります」


「地上部隊が来ました」


 アーヴィンが頷いた。


「七日より早かった」


「地下の動きと連動していました」


「そうだ」


 アーヴィンがカインを呼んだ。


「正門前の配置につけ。動くな。撃つな。ただし、外堀に近づいたら知らせろ」


「了解しました」


 アーヴィンがリクに伝令を送った。


「地下の封鎖を維持しろ。地上が動いても、持ち場を離れるな」


──────────────────────────────────────


 聖夜月三日、夜明け前。


 鐘が三回鳴った。


 地上敵部隊が外堀前に到達したという報告が来た直後だった。


「全員避難の合図です」


 バルドがすでに動いていた。


「皆さん、動いてください。訓練通りです」


 村人が動き出した。


 混乱はなかった。


 子どもが走った。


 老人が誰かに支えられた。


 家畜を引いた者が、指定の場所に向かった。


 ヒコは《可視化》で確認した。


 色が動いていた。


 一つの方向に、流れるように動いていた。


 全員が避難場所に入るまで、九分だった。


 バルドが戻ってきた。


「九分です」


「訓練の成果ですね」


「子どもたちが自分で動きました」


 バルドが短く言った。


「訓練の甲斐がありました」


──────────────────────────────────────


 夜明けが近かった。


 地上部隊は外堀の前で止まっていた。


 外堀を見て、止まったのだった。


 アーヴィンが石壁の上から確認した。


「迷っている」


「外堀の深さが想定より大きかったですか」


「そうだ。こちらの準備を、正確に把握していなかった」


 ヒコは《可視化》を外に向けた。


 外堀の向こうに、人の色が固まっていた。


 混乱した色だった。


 統率が取れていない。


「指揮官が、判断できていないようです」


「そうだ。訓練された傭兵じゃない。金で集めた烏合の衆だ」


 アーヴィンが続けた。


「陽が出れば、こちらの時間だ。陽が出れば、見張り塔から全部見える」


──────────────────────────────────────


 夜が、明け始めた。


 地下の侵入者は、結界の前で動きを止めていた。


 地上部隊は、外堀の前で止まっていた。


 鐘は、もう鳴っていなかった。


 静かだった。


 ただし、戦いは、すでに始まっていた。


 ヒコは施設の前に立った。


 《可視化》を短く使った。


 領地の色は、落ち着いていた。


 揺れていなかった。


 ――大丈夫だ。


 そう思った瞬間。


 地下で、三度目の結界反応が起きた。



 第200話 夜明け前 了

【次回予告】フォルテス領、最初の実戦。


──────────────────────────────────────


【領地収支・聖夜月三日時点】


・所持金:金貨672枚(変動なし)


【発展進捗・聖夜月三日時点】


・防衛:105%(地上部隊・外堀前で停止中/地下侵入者・結界前で停止中)

・食料:100%(備蓄対応継続)

・水 :95%(外堀が地上部隊の侵入を阻止)

・住居:85%(村人避難完了・九分)

・インフラ:100%(鐘システム・パルス・結界連動・正常稼働)

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