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 第197話 地下の声

 地下は、地上より正直だ。嘘をつかない。


 音が変われば、何かが変わっている。


 ――変化に気づける者が、最初に動ける。

 長影月、二十二日。


 夜明け前、パルスが動いた。


 下水網の管理区画で、いつもと違う動きをしていた。


 じっとしていない。

 

 同じ場所を何度も往復していた。


 まるで、何かを警戒して落ち着かないようだった。


 ルナが気づいた。


「パルスが変」


 ヒコが呼ばれたのは、夜が明けてすぐだった。


──────────────────────────────────────


 パルスのいる管理区画に行った。


 パルスは下水網の深部方向を向いていた。


 動かなかった。


 ただし、表面が細かく震えていた。


「パルス」


 パルスが振り返った。


「変な音がする」


「どこから」


「下。もっと下」


 パルスが床を示した。


「ずっと前からあった音と、違う」


──────────────────────────────────────


 ヒコは《可視化》を使った。


 下水網の色は、いつも通りだった。


 ただし、その下。


 地下遺構の方向から、薄い色が滲んでいた。


 赤ではなかった。


 灰色に近い、重い色だった。


 見ているだけで、胸の奥がわずかに重くなる色だった。


 動いていた。


 一定の方向に、ゆっくり動いていた。


 フォルテス領の中心に向かっていた。


 閉じた。


「サヤさんを呼んでください」


──────────────────────────────────────


 サヤが来た。


 ヒコが状況を説明した。


 サヤはしばらく黙っていた。


 目を閉じた。


 何かを感じているような間があった。


「誰かが、下から来ようとしています」


「地下遺構を通じてですか」


「そうです」


 サヤが目を開いた。


「まだ距離があります。ただし、方向は確かです」


「いつ頃ですか」


「分かりません。ただし、急いでいる様子はありません」


 サヤが続けた。


「慣れている人間です。地下の動き方を知っている」


──────────────────────────────────────


 午前、ゾルドを呼んだ。


「最近、掘削中に気になることはありましたか」


 ゾルドが少し考えた。


「石の声が変わった」


「いつからですか」


「三日前くらいからだ」


 ゾルドが地面を踏んだ。


「前と違う揺れがある。小さい。ただし、確かにある」


「外から来る揺れですか」


「違う。中から来る揺れだ」


 ゾルドが短く断言した。


「誰かが動いている揺れだ」


──────────────────────────────────────


 昼、アーヴィンに報告した。


「地下遺構の方向から、何かが近づいている可能性があります。パルスが異常を検知しました。ゾルドが石の揺れを確認しています。サヤさんは『慣れている人間』と言っています」


 アーヴィンが短く聞いた。


「いつ来る」


「分かりません」


「規模は」


「不明です。ただし、急いでいない。様子を見ながら来ています」


 アーヴィンが少し間を置いた。


「地下への警戒段階を上げる」


「お願いします」


「コリンに結界を一枚追加させる。地下遺構の入口付近に張る」


「パルスに連動してもらえますか」


「させる」


 アーヴィンが立ち上がった。


「地上の配置は変えない。ただし、地下に人員を一組回す。リク分隊から二名」


「リクさんに伝えますか」


「俺が伝える」


──────────────────────────────────────


 午後、コリンのところに行った。


「地下遺構の入口付近に結界を張ってもらえますか。アーヴィンさんの指示です」


「承知しました。どの程度の強度にしますか」


「通過を止める必要はありません。通過した瞬間に分かる程度で」


「感知型にします」


 コリンが少し考えた。


「パルスに連動させます。パルスが先に反応して、結界が確認する形にします」


「二段構えですね」


「一段より、確実です」


 コリンが続けた。


「ヴェノムも近くに置きます。地下から何か持ち込まれた場合に備えます」


「毒ですか」


「可能性はあります。地下を使う人間が持ち込むものは、大抵そういうものです」


──────────────────────────────────────


 夕方、ミルヴァを呼んだ。


「地下から何かが近づいています。情報がありますか」


 ミルヴァが少し考えた。


「ランデルで動いていた人間が、消えた」


「いつですか」


「四日前だ。タウルスが確認した」


「フォルテス領に向かいましたか」


「向かったとは断定できない。ただし、方向がそちらだった」


 ミルヴァが続けた。


「地下ルートを知っている人間なら、ランデルから四日でここに来られる」


「タイミングが一致しますね」


「一致する」


 ミルヴァが短く言った。


「セルヴァンの代理だと思う。情報収集が目的なら、殺しには来ない」


「では、何のために」


「見に来る。確認しに来る」


 ミルヴァが続けた。


「あの領地は何かを隠している。という言葉がランデルで出ていた可能性がある」


 ヒコは少し考えた。


「深層のことを、外が知っているかもしれない」


「その可能性がある」


──────────────────────────────────────


 夜、記録をつけた。


 長影月二十二日。パルスが地下深部から異常な振動を検知。《可視化》で地下遺構方向から灰色の色が領地中心方向に移動しているのを確認。サヤ「誰かが下から来ようとしています。慣れている人間」。ゾルド「三日前から石の声が変わった。中から来る揺れ」。アーヴィン:地下警戒態勢段階アップ・リク分隊から二名配置・地下遺構入口に結界追加。コリン:感知型結界を設置・パルスと連動・ヴェノムを近くに配置。ミルヴァ:ランデルで動いていた人間が四日前に消えた・方向がフォルテス領・タイミングが一致。


 ペンを置いた。


 地上からだけ来るとは、思っていなかった。


 ただし、地下から来ることは、掘削で地下遺構に触れたときから、頭にあった。


 備えていた。


 ならば、備えた通りに動けばいい。


 問題は、相手が何を探しているかだ。


 もし、それが領地の中にあるなら――もう遅いかもしれない。



 第197話 地下の声 了

【次回予告】外からも、動きが近づいていた。


──────────────────────────────────────


【領地収支・長影月下旬時点】


・所持金:金貨672枚(変動なし)


【発展進捗・長影月下旬時点】


・防衛:103%(地下警戒体制新設・感知型結界追加・リク分隊から二名地下配置)

・食料:99%(変動なし)

・水 :95%(外堀掘削継続)

・住居:85%(変動なし)

・インフラ:100%(変動なし)

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