表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
337/347

 第194話 紅葉月の夜

 祝いの席は、静かな者ほど、よく見えている。


 見ている者が、守っている者だ。


 ――それが分かる夜は、悪くない。

 紅葉月、二十三日。


 アーヴィンの誕生日だった。


 バルドが朝のうちに全員に声をかけていた。


 夕方、マルティナが食事の準備を始めた。


 香草焼きの肉。濃いスープ。白パン。焼いた根菜に蜂蜜がけ。


 焼き根菜の蜂蜜がけだけは、アーヴィンのために甘くしてあった。


 アーヴィンは夕方まで訓練場にいた。


 バルドに声をかけられたとき、少し表情が変わった。


「……今日か」


「そうです」


 バルドが短く言った。


「忘れていたなら、それでも来てください」


──────────────────────────────────────


 食事の席に、全員が揃った。


 アーヴィンが来たとき、ルナが花冠を差し出した。


「はい」


 アーヴィンが受け取った。


 しばらく見た。


 頭に乗せなかった。


 手に持ったまま、席に着いた。


 ルナが少し不満そうな顔をした。


「乗せないんですか」


「……考えている」


「何を考えているんですか」


「似合うかどうかだ」


 ルナが即答した。


「似合います」


 アーヴィンが少し間を置いた。


 花冠を頭に乗せた。


 似合っていなかった。


 誰も何も言わなかった。


 ミルヴァだけが、わずかに目を細めた。


 笑ったのか、懐かしんだのかは分からなかった。


──────────────────────────────────────


 食事の間、アーヴィンはあまり話さなかった。


 ただし、いつもより少し、箸の進みが早かった。


 マルティナが気づいていた。


 何も言わなかった。


 焼き根菜の蜂蜜がけだけが、いつより少し多く盛られていた。


 アーヴィンは何も言わなかった。


 そして、皿を空にした。


──────────────────────────────────────


 食事が終わった後、騎士団の定期討伐は免除だった。


 久しぶりに、何もしない夜だった。


 ヒコはアーヴィンと石壁の近くに出た。


 特に話す用事があったわけではなかった。


 ただ、少しだけ外の空気を吸いたかった。


 二人で、しばらく黙っていた。


「守れているか」


 アーヴィンが言った。


「今のところは」


「今のところは、か」


「不穏な動きが、近づいています」


「知っている」


 アーヴィンが空を見た。


「来るなら、早く来てほしいくらいだ」


「そうですか」


 アーヴィンが少し黙った。


「待っている間が、一番消耗する」


 ヒコは少し考えた。


「待っている間に、準備ができます」


「俺は逆だ」


 アーヴィンが短く言った。


「備えながら待つのが、苦手だ」


「剣士らしいですね」


「そうかもしれない」


 少し間があった。


「まだ本番ではない」


 アーヴィンが言った。


「本番が来たとき、今夜のことは関係なくなる」


「それでいいですか」


「それでいい」


 アーヴィンが花冠を外して、手に持った。


 少し見た。


「ルナが選んだのか」


「そうだと思います」


「……手間をかけさせた」


 それだけだった。


──────────────────────────────────────


【エピローグ】


 石壁から戻った後、アーヴィンは自分の部屋で外套を脱いだ。


 内側に、青白い石があった。


 レインの遺留品だった。


 手に取った。


 冷たかった。


 いつも冷たい。


 誕生日だから、何かが変わるわけではなかった。


 変わらないものがあるから、持ち続けている。


 レインが死んだのは、紅葉月ではなかった。


 だから今日は、関係ない日のはずだった。


 それでも、毎年この日になると、思い出す。


 なぜかは分からなかった。


 たぶん、誕生日というものが、そういうものなのだと思う。


 石をしまった。


 外套を畳んだ。


 花冠が机の上にあった。


 捨てなかった。


 明日、ルナに返すかどうかは、まだ決めていなかった。


 静かな夜だった。


 だからこそ、近づく足音は、まだ誰にも聞こえていなかった。



 第194話 紅葉月の夜 了

【次回予告】王都から、使者が来た。


──────────────────────────────────────


【領地収支・紅葉月下旬時点】


・所持金:金貨593枚(変動なし)


【発展進捗・紅葉月下旬時点】


・防衛:102%(変動なし・騎士団訓練継続)

・食料:99%(燻製初回完成・流通試験中)

・水 :95%(外堀掘削継続)

・住居:85%(変動なし)

・インフラ:100%(変動なし)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ