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第9章 外敵侵攻  第191話 紅葉月

 季節が変わると、敵の顔も変わる。


 静かな時期ほど、次の波は近い。


 ――来るなら、来るがいい。こちらは、待てる。

 紅葉月、一日。


 光曜星の朝、月次給与の支払い日だった。


 バルドが台帳を持ってきた。


「今月分です」


「確認します」


 ヒコが台帳を受け取った。


 月次固定収入:

 冒険者固定給 金貨三十枚

 勲爵士給与  金貨十二枚

 合計     金貨四十二枚


 外部収入(収穫月実績):

 外部取引  金貨六十一枚

 ギルド収益 金貨二十二枚

 合計    金貨八十三枚


 月次固定支出:金貨四十五枚。


 月間収支:プラス八十枚。


 所持金:金貨五百九十三枚。


 台帳に署名した。


「バルドさん、支払いをお願いします」


「承知しました」


 バルドが台帳を受け取った。


「新人二十名の分が定着しました。支払いが増えても、収入がそれ以上に増えています」


「そうですね」


「文句のない数字です」


 バルドが短く言って、出て行った。


──────────────────────────────────────


 午前、ガッツのところに行った。


 西側石壁の前に立っていた。


 最後の積み石が、ちょうど収まったところだった。


「できたか」


 ゾルドが石の表面を手で撫でた。


「割れなし。沈みなし。問題ない」


 ガッツが石壁全体を見上げた。


「三方、完全に固まった」


 短い言葉だった。


 ただし、それで足りた。


 東側。北側。西側。


 三方の石壁が、ついに繋がった。


 南側は正門で閉じる。


 これで、守りの形が完成した。


 フォルテス領は初めて、「壁に守られた領地」になった。


 ヒコは《可視化》を短く使った。


 石壁の色が、三方向から均等に広がっていた。


 隙間がなかった。


「ありがとうございます。お疲れ様でした」


「まだ外堀が残っている」


 ガッツが即座に言った。


「次を始める」


──────────────────────────────────────


 昼前、燻製工房に寄った。


 マルティナが中を確認していた。


「完成ですか」


「今日から使える」


 マルティナが工房の扉を開けた。


 燻した木の香りが出てきた。


「最初の一本は、ボアの腿だ」


「いつ頃できますか」


「七日後。早くない。ただし、急ぐものじゃない」


 マルティナが奥に入っていった。


 それで話は終わりだった。


──────────────────────────────────────


 昼、医務室に寄った。


 コリンが棚の整理をしていた。


「完成しましたね」


「はい。薬草の在庫も運び込みました」


 コリンが棚を示した。


 傷薬。解熱草。止血布。包帯。


「ヴェノムの配置はどうしますか」


「ここです」


 コリンが部屋の隅を指した。


 ヴェノムが静かにそこにいた。


 動かなかった。


 ただし、何かを感じているように見えた。


「感染症の気配があると、反応しますか」


「はい。昨日、試しました。ミルヴァさんが来ると、すぐ近くに来ます」


「ミルヴァさんだから来るんですか、それとも関係なく来るんですか」


「ミルヴァさんだから、です」


「……嫌われていますか」


「いえ」


 コリンが少し困った顔をした。


「たぶん、興味を持たれています」


──────────────────────────────────────


 午後、ゴルフが来た。


「王都ルートの初回実績を報告します」


「聞かせてください」


「収穫月の王都取引、金貨十四枚。今月分の外部収入に含まれています」


「初回にしては大きいですね」


「相手の商人が、本気で繋がりたいと判断したようです」


 ゴルフが手帳を開いた。


「来月から定期取引の契約が入ります。月に金貨二十枚前後の安定収入になります」


「輸送は大丈夫ですか」


「そこが次の課題です。商隊の護衛が必要になります。セリウスさんと話をしました。ギルドから冒険者を定期的に出してもらえます」


「連動が取れていますね」


「フォルテス領の仕組みが、外に向かって機能し始めています」


 ゴルフが手帳を閉じた。


「急ぎません。ただし、止めません」


 ヒコが言うべき言葉を、ゴルフが先に言った。


──────────────────────────────────────


 夕方、セリウスが来た。


 ゆっくりした足取りで、ヒコのところに来た。


「少し、話せますか」


「どうぞ」


「ギルドに、外来の冒険者が増えています」


「増えていますね」


「フォルテス領の評判が、外に広がっている証拠です」


 セリウスが外を見た。


「良い話です。ただし、増えれば増えるほど、秩序が必要になります」


「規則は五点、守られていますか」


「今のところ、問題ありません。ただし、人数が増えると、必ず守らない者は出ます」


「規則を守らせてださい。特例は作らないほうがいいです」


「同意します」


 セリウスが短く頷いた。


「もう一つ」


「はい」


 セリウスが少しだけ視線を逸らした。


「……私事ですが」


 珍しく言い淀んだ。


「紅葉月五日、私の誕生日らしいです」


「らしい、ですか」


「バルドさんに言われて思い出しました」


 セリウスが静かに言った。


「バルドさんが何か準備していました」


「祝い事ですか」


「たぶん」


──────────────────────────────────────


 夜、記録をつけた。


 紅葉月一日。月次給与支払い完了。所持金金貨五百九十三枚前後。


 西側石壁:完成。東側・北側・西側、三方の石壁が今日繋がった。ガッツ「三方、完全に固まった」。


 燻製工房:完成。初の燻製、七日後に完成予定。


 医務室:完成。コリンが薬草在庫を整備済み。ヴェノムを配置。


 ゴルフ:王都ルート初回実績・金貨十四枚。来月から定期取引契約入り。月二十枚前後の安定収入予定。冒険者ギルドとの輸送連携開始。


 セリウス:紅葉月五日、誕生日。


 ペンを置いた。


 三方の石壁が繋がった。


 それだけで、今日は十分だった。


 外堀はまだだ。


 外からの脅威も、まだだ。


 ただし、今日できたことは、今日できた。


 それで良い。


 問題は、明日何が来るかだ。



 第191話 紅葉月 了

【次回予告】外堀の本格着工が始まった。


──────────────────────────────────────


【領地収支・紅葉月第一光曜星時点】


・所持金:金貨593枚(+80)

 収 入:冒険者固定給 金貨 30枚

     勲爵士給与  金貨 12枚

     外部取引   金貨 61枚

     ギルド収益  金貨 22枚

     合計     約 125枚

 支 出:月次固定   金貨 40枚

     その他    金貨  5枚程度

     合計     約  45枚


【発展進捗・紅葉月初頭時点】


・防衛:100%(東・北・西三方の石壁完成・外堀は第二段階へ)

・食料:99%(燻製工房完成・畜産試験継続・果樹栽培継続)

・水 :94%(白色層安定・外堀水脈接続済み)

・住居:85%(医務室完成・宿屋稼働継続)

・インフラ:100%(両ギルド軌道・監視網完成)

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