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 第189話 シグレの手がかり

 答えは、探しているときではなく、別の何かを調べているときに出る。


 それが、調査というものだ。


 ――出てきたとき、受け取れる準備ができているかが大事だ。

 収穫月、初旬。


 ドガンがコリンを呼んだ。


 ヒコも同席した。


「中央商業ギルドの古い記録を持ってきた」


 ドガンが羊皮紙の束を置いた。


「フォルテス領に来る前に、整理していたものだ。念のため持ってきていた」


「何が書いてありますか」


「依頼記録だ。二十年から十年前の分。ベルン商会の前身組織が絡んだ案件が、いくつかある」


──────────────────────────────────────


 コリンが記録を見始めた。


 ルーカスも隣に座った。


 二人が順番に確認した。


 ヒコは少し離れて待った。


 しばらくして、コリンが手を止めた。


「ドガンさん」


「あったか」


「あります」


 コリンの指が、一枚の記録で止まった。


「シグレ・ハイネという名前があります」


 ドガンが確認した。


「十四年前の依頼記録だ。依頼者はベルン商会前身組織の関係者。内容は、特定の遺跡の調査」


「師匠の名前が、ここにあります」


 コリンが静かに言った。


「遺跡調査の依頼を、受けていた」


──────────────────────────────────────


 ルーカスが別の記録を見た。


「こちらにも名前があります」


「何という名前ですか」


「ヴェラ・ユンという名前です」


 コリンが息を止めた。


「リアさんの師匠ですか」


「そうです。十三年前の記録です。同じ依頼者の系列。内容も似ている。別の遺跡の調査依頼です」


 ドガンが二つの記録を並べた。


「依頼者が、同じ系列だ。時期が一年違う。調査対象は別の場所。ただし、依頼の目的が同じ可能性がある」


「何を調べさせようとしていたんですか」


「記録には書いていない。ただし、調査完了後に両名とも報酬を受け取っている。その後、連絡が途絶えている」


──────────────────────────────────────


「二人は、同じ依頼を受けていたんですか」


 コリンが聞いた。


「可能性が高い」


 ドガンが短く言った。


「別々に動かされた。両方が調査を完了した。

その後に、二人とも魔力を失っている」


「調査の内容が、死因に関係していますか」


「分からない。ただし、関係している可能性はある」


 ルーカスが続けた。


「調査した遺跡の場所が、記録に残っているかもしれません。ただし、この記録には書かれていません。別の資料が必要です」


「どこを調べれば出てきますか」


「中央の記録庫です。ただし、ここからでは直接確認できない。ランデル経由で情報を集める必要があります」


 ドガンが頷いた。


「繋ぎを作れる。時間がかかるが、調べられる」


「お願いできますか」


「する」


 ドガンが短く言った。


「ただし、これは急かすな。確実にやる」


「分かりました」


──────────────────────────────────────


 夕方、ヒコはコリンと二人で話した。


「師匠のことが、少し分かりましたね」


「はい」


 コリンが静かに言った。


「十四年前に、依頼を受けていた。そこから先は、まだ分かりません」


「辛くないですか」


「辛いです」


 コリンが続けた。


「ただし、分かってきた方が良かった。分からないままより」


「そうですね」


「師匠が何をしていたのか。なぜ、ああなったのか。それが分かれば、向き合えます」


「向き合って、どうしますか」


「清算します」


 コリンが短く言った。


「ヒコさんが言っていた言葉と、同じです。時期と方法を選んで」


「急ぎません」


「急ぎません」


 コリンが繰り返した。


「ただし、止めません」


──────────────────────────────────────


エピローグ


 コリンは夜、引き出しを開けた。


 手紙が数枚あった。


 全部、師匠シグレへの報告書だった。


 送れなかったものだった。


 広域回復補助の設置が完了したとき、書いた。


 第二段階が完成したとき、書いた。


 ヴェノムが医務室に配置されたとき、書いた。


 全部、送れなかった。


 送れる先が、ない。


 コリンは最新の手紙を取り出した。


 読み返した。


 師匠、と書いてあった。


 今日、師匠の名前が記録に出てきました、と書いてあった。


 十四年前の依頼記録でした、と書いてあった。


 まだ全部は分かりません、と書いてあった。


 ただし、調べ続けます、と書いてあった。


 必ず辿り着きます、とも書いてあった。


 コリンは手紙を折った。


 引き出しに戻した。


 いつか届ける。


 そう思い続けている。


 届ける先は、もうない。


 ただし、書き続ける。


 それが、コリンのやり方だった。



 第189話 シグレの手がかり 了

【次回予告】

 第8章、最後の一日。


──────────────────────────────────────


【領地収支・収穫月初旬時点】


・所持金:金貨434枚(変動なし)


【発展進捗・第189話時点】


・防衛:100%(継続)

・食料:98%(継続)

・水 :94%(継続)

・住居:80%(継続)

・インフラ:100%(継続)


 今日の進捗:ドガンが中央商業ギルドの古い記録を提示。シグレ・ヴェラ両師匠の名前がベルン商会前身組織の依頼記録に確認された。二人が同時期に同系列の依頼を受けていた可能性が浮上。ドガンが中央記録庫への調査繋ぎを確約。エピローグ:コリン視点(引き出しの手紙・いつか届ける)。

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