第188話 パルス
監視とは、全部を見ることではない。
変化を見ることだ。
――変化に気づいた瞬間が、守りの始まりだ。
雷鳴月、末。
夜、コリンが慌てた様子で来た。
珍しいことだった。
「報告があります」
「聞かせてください」
「下水網に、新しい個体が出ました」
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下水網の管理区画に行った。
スラッジがいつも通り動いていた。
その横に、小さな半透明の塊がいた。
色は薄い黄色だった。
速く動いていた。
管理区画の中を、せわしなく移動していた。
「落ち着きがないですね」
「最初から、ずっとこうです」
コリンが続けた。
「スラッジと一緒に動いていると思ったら、別の場所に行く。また戻ってくる。管理区画全体を回っているようです」
ヒコは《可視化》を使った。
短く、絞って。
薄い黄色だった。
ただし、じっとしていなかった。
色が、あちこちに向いていた。
情報を集めている色だった。
絶えず周囲を観測している色だった。
意志があった。
ただし、グリットやヴェノムとは違う種類の意志だった。
落ち着いていない、ではなかった。
常に動いている、だった。
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塊に近づいた。
「名前をつけてもいいですか」
塊が止まった。
一瞬だけ。
次の瞬間、また動き始めた。
「パルスはどうですか」
塊が動きを変えた。
ヒコの周りを一周した。
「来た来た来た!」
聞こえた気がした。
いや、聞こえた。
確かに、聞こえた。
小さな声だった。
ただし、声だった。
コリンが固まった。
「……今、しゃべりましたか」
「しゃべりましたね」
ヒコも少し固まっていた。
パルスが動き続けていた。
管理区画を回っていた。
忙しそうだった。
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サヤに報告した。
「パルスが言葉を発しました」
サヤが少し間を置いた。
「そうですね」
「驚きませんか」
「驚いていません」
サヤが静かに言った。
「スライムたちは、この領地と一緒に育っています。領地が複雑になるにつれて、あの個体も複雑になっていきました」
「他の個体も、いずれ言葉を発しますか」
「可能性があります」
「それは良いことですか」
サヤが少し間を置いた。
「良いことです。ただし、注意が必要です」
「どういう注意ですか」
「賢くなると、自分の意志が強くなります。こちらが思っていない行動をする可能性が出てきます」
「それは、問題になりますか」
「今のところは、ありません。ただし、先のことは分かりません」
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翌日、コリンがパルスの能力を確認した。
「下水全域の異物検知ができます。外来者が意図的に何かを流した場合、即座に反応します」
「見張り塔の鐘と連動できますか」
「連動できます。パルスが異常を検知したら、コリンの結界網を通じて信号が出ます。見張り塔の担当者に伝わります」
「鐘より早く、異常を知ることができる」
「そうです」
コリンが続けた。
「見張り塔は外を見る目。パルスは内を見る目。これで両方が揃いました」
「監視網が完成しますね」
「完成します」
コリンが静かに言った。
「ただし、パルスは元気すぎて、時々誤報が来るかもしれません」
「誤報、ですか」
「好奇心が強い個体です。珍しいものがあると、異常として報告してくる可能性があります」
「……パルスと相談して、基準を決めてください」
「承知しました」
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昼、マルティナが来た。
「燻製工房の話がある」
「聞かせてください」
「生ハムとジャーキーの注文が増えている。今の設備では間に合わない」
「専用の工房が必要ですか」
「必要だ。燻製は煙が出る。他の調理と一緒にやれない。専用の場所が要る」
「どのくらいの規模ですか」
「小さくていい。燻し台が二基あれば、今の三倍の量を作れる」
「ガッツさんに相談できますか」
「もうした。場所も決まっている。あとはヒコさんの判断だけさ」
ヒコは少し笑った。
「許可します」
「ありがとう」
マルティナが短く言った。
「フォルテス領産の良質な保存食を、遠くに届ける。そういうことだよ」
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夕方、ゴルフが来た。
「雷鳴月の月間まとめです」
「聞かせてください」
ゴルフが手帳を開いた。
「外部取引収入、金貨五十七枚。ギルド収益、金貨十八枚。合計七十五枚です」
「見込み通りですね」
「見込み通りです。王都ルートの初回取引も入っています。規模は小さいですが、繋がりができました」
「来月はどうなりますか」
「王都ルートが本格的に動けば、外部収入が八十枚を超える可能性があります」
「着実ですね」
「急ぎません」
ゴルフが手帳を閉じた。
「ただし、積み上がっています」
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夜、記録をつけた。
雷鳴月末。パルス個体化(監視スライム)。「来た来た来た!」という第一声。下水全域の異物検知・コリンの結界網との連動確立。見張り塔との連動で監視網が完成。
サヤ所見:スライムたちは領地と一緒に育っている。賢くなると自分の意志が強くなる。今のところ問題なし。
燻製工房建設決定:マルティナが提案。燻し台二基・専用工房。ガッツと場所確定済み。
雷鳴月月次精算:外部取引金貨五十七枚・ギルド収益金貨十八枚・合計七十三枚。月間収支プラス七十三枚。王都ルート初回取引成立。
ペンを置いた。
パルスが話した。
「来た来た来た!」
今のところ、何が来たのかは分からなかった。
ただし、何かを見つけたのは確かだった。
それで十分だった。
監視する目が、また一つ増えた。
これで、外も内も見えるようになった。
第188話 パルス 了
【次回予告】
シグレの手がかりが、見つかった。
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【領地収支・雷鳴月末時点(確定)】
・所持金:金貨434枚(+73)
収 入:冒険者固定給 金貨 30枚
勲爵士給与 金貨 12枚
外部取引 金貨 57枚
ギルド収益 金貨 18枚
合計 約 117枚
支 出:月次固定 金貨 40枚
その他 金貨 4枚(見張り塔・医務室・保管庫完成費)
合計 約 44枚
※燻製工房は来月着工
【発展進捗・第188話時点】
・防衛:100%(パルス個体化・監視網完成・見張り塔連動)
・食料:98%(燻製工房建設決定・保存食ブランド拡大)
・水 :94%(継続)
・住居:80%(継続)
・インフラ:100%(監視網完成・ギルド収益安定)
今日の進捗:パルス個体化(第一声「来た来た来た!」)。下水監視・結界網・見張り塔との連動で監視網完成。燻製工房建設決定。雷鳴月月次精算(取引・ギルド収益合計七十五枚・プラス七十三枚・王都ルート初回取引成立)。




