第186話 要塞の設計
設計は、完成形から逆算する。
完成形が見えていれば、今何をすべきかが分かる。
――見えていない人間には、設計はできない。
雷鳴月、下旬。
朝、ヒコはガッツ・セリウス・アーヴィンを呼んだ。
大きな羊皮紙を広げた。
三人が見た。
書いてあるものを、しばらく黙って見た。
「説明します」
ヒコが口を開いた。
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「フォルテス領の最終防衛形態です」
「今見えている完成形になります」
羊皮紙には、星形の図が描いてあった。
五つの角が外側に張り出していた。
「星形防衛構造といいます。五つの稜堡を持つ形です」
「稜堡というのは」
セリウスが聞いた。
「外側に突き出た角のことです。稜堡があると、城壁に近づいた敵を、両側から射撃できます」
ヒコが図の上に線を引いた。
「ここに敵が来たとします。正面の壁だけでなく、両隣の稜堡からも射線が取れます。死角がありません」
「確かに」
セリウスが図を見た。
「正面だけでなく、側面からも対応できる。挟み込みができる」
「そうです。敵が壁に近づくほど、こちらの射線が増えます。近づくのが不利になる」
アーヴィンが黙って図を見ていた。
ヒコが続けた。
「外堀を星形の外周に沿って作ります。幅十間、深さ五間。水を入れます」
「水堀か」
「白色層の水脈から引けます。サヤさんが確認しています。地脈熱があるので、凍氷月でも完全には凍らない」
「冬でも機能する水堀か」
アーヴィンが短く言った。
「それは、強い」
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ガッツが図をじっと見た。
しばらく、黙っていた。
「……全部、見えてんのか」
「見えています」
「東側・北側・西側・外堀・稜堡・射線・排水経路」
「全部、繋がっています」
ガッツが腕を組んだ。
「できる」
短く言った。
「段階に分ければ、できる。一度に全部は無理だ。ただし、順番に積み上げれば、この形になる」
「今の状態は、どの段階ですか」
「第一段階が完了した。東・北・西の石壁と排水堀。第二段階は外周の接続。第三段階が完全な星形と外堀」
「第二段階に入れますか」
「西側石壁が完成したら、入れる」
「お願いします」
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セリウスが図を見た。
「冒険者ギルドの視点で言うと」
セリウスが続けた。
「この形は、外から攻めにくい。ただし、内側から守りやすい。守る人間の数が少なくても、機能します」
「そうです。多くの兵力がなくても、この設計で対応できます」
「理にかなっている」
セリウスが静かに言った。
「こういう設計を最初から描ける人間は、中央でも多くない」
「現場で考えると、自然にこうなります」
「現場で、ですか」
「建設現場で、どこに何を置けば一番効率が良いかを考えてきました。防衛の設計も、同じ考え方です」
セリウスが少し間を置いた。
「なるほど」
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アーヴィンが図から目を離した。
「これが答えだ」
アーヴィンは図を見たまま言った。
「騎士団の配置を変える。五個分隊を稜堡に対応させる。各分隊が一つの角を守る。それで全体が機能する」
「分隊の配置を決めてもらえますか」
「決める。ただし、外堀が完成してからが本番だ。それまでは仮配置で動く」
「了解です」
ヒコが三人を見た。
「段階的に進めます。急ぎません。ただし、方向は決まりました」
ガッツが頷いた。
セリウスが頷いた。
アーヴィンが頷いた。
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午後、マユミが来た。
「近衛の件、決めたい」
「聞かせてください」
「人選が終わった。三名を選んだ」
マユミが三名の名前を告げた。
新人の中から選んだ者が二名。
外部から来た冒険者が一名。
「基準は何ですか」
「私が信用できると判断した人間だ。説明は省く」
「分かりました」
「今日、正式に発足させる」
夕方、近衛の三名が集まった。
マユミが前に立った。
「今日から、フォルテス領主の近衛として動く。やることは一つだ」
三名が黙って聞いた。
「ここを守れ」
それ以上の説明はなかった。
三名が頷いた。
近衛専用の装備が支給された。
軽量型鎧。ガデルが用意していた。
そして近衛を示すマントが支給された。
マユミが一人ずつ確認した。
「動けるか」
「はい」
「問題ない」
「いつでも」
「良い」
マユミが短く言った。
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エピローグ
アーヴィンは夜、訓練場の端に立っていた。
星が出ていた。
羊皮紙に描かれた形を思い出した。
星形。
五つの角。
ヒコが「全部、繋がっています」と言った。
その言葉を、アーヴィンは正確だと思った。
繋がっている。
石壁が、堀が、稜堡が、射線が。
全部が一つの守りになっている。
アーヴィンは外套の内側を触れた。
青白い石があった。
レインの遺留品だった。
レインは前に出る人間だった。
アーヴィンは後ろを守る人間だった。
それがずっと、二人の役割だった。
今は、ヒコが前に出る。
アーヴィンが後ろを守る。
マユミが隣を守る。
形が変わっても、やることは変わらなかった。
アーヴィンは空を見た。
これで守れる。
そう思った。
レインに言えるかどうかは、まだ分からなかった。
ただし、今夜は、そう思えた。
それだけで十分だった。
第186話 要塞の設計 了
【次回予告】
ヴェノムが個体化した。
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【領地収支・雷鳴月下旬時点】
・所持金:金貨361枚(-5)
支出:蒼鋼専用保管庫建設 金貨5枚
収入見込み:雷鳴月外部取引精算(月末)
支出見込み:西側石壁継続
近衛装備支給 銀貨数枚(今回)
見張り塔 金貨3枚(来月末)
【発展進捗・第186話時点】
・防衛:100%(要塞全体設計確定・近衛正式発足)
・食料:98%(継続)
・水 :94%(継続)
・住居:80%(継続)
・インフラ:100%(継続)
今日の進捗:ヒコが五稜郭型要塞の全体設計をガッツ・セリウス・アーヴィンに説明。ガッツ「できる」・セリウス「理にかなっている」・アーヴィン「これが答えだ」。建設フェーズ第一段階完了・第二段階(外周接続)へ移行確認。マユミが近衛三名を正式発足(「ここを守れ」)。エピローグ:アーヴィン視点(レインへの思い・「これで守れる」)。




