表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
329/349

 第186話 要塞の設計

 設計は、完成形から逆算する。


 完成形が見えていれば、今何をすべきかが分かる。


 ――見えていない人間には、設計はできない。

 雷鳴月、下旬。


 朝、ヒコはガッツ・セリウス・アーヴィンを呼んだ。


 大きな羊皮紙を広げた。


 三人が見た。


 書いてあるものを、しばらく黙って見た。


「説明します」


 ヒコが口を開いた。


──────────────────────────────────────


「フォルテス領の最終防衛形態です」


「今見えている完成形になります」


 羊皮紙には、星形の図が描いてあった。


 五つの角が外側に張り出していた。


「星形防衛構造といいます。五つの稜堡を持つ形です」


「稜堡というのは」


 セリウスが聞いた。


「外側に突き出た角のことです。稜堡があると、城壁に近づいた敵を、両側から射撃できます」


 ヒコが図の上に線を引いた。


「ここに敵が来たとします。正面の壁だけでなく、両隣の稜堡からも射線が取れます。死角がありません」


「確かに」


 セリウスが図を見た。


「正面だけでなく、側面からも対応できる。挟み込みができる」


「そうです。敵が壁に近づくほど、こちらの射線が増えます。近づくのが不利になる」


 アーヴィンが黙って図を見ていた。


 ヒコが続けた。


「外堀を星形の外周に沿って作ります。幅十間、深さ五間。水を入れます」


「水堀か」


「白色層の水脈から引けます。サヤさんが確認しています。地脈熱があるので、凍氷月でも完全には凍らない」


「冬でも機能する水堀か」


 アーヴィンが短く言った。


「それは、強い」


──────────────────────────────────────


 ガッツが図をじっと見た。


 しばらく、黙っていた。


「……全部、見えてんのか」


「見えています」


「東側・北側・西側・外堀・稜堡・射線・排水経路」


「全部、繋がっています」


 ガッツが腕を組んだ。


「できる」


 短く言った。


「段階に分ければ、できる。一度に全部は無理だ。ただし、順番に積み上げれば、この形になる」


「今の状態は、どの段階ですか」


「第一段階が完了した。東・北・西の石壁と排水堀。第二段階は外周の接続。第三段階が完全な星形と外堀」


「第二段階に入れますか」


「西側石壁が完成したら、入れる」


「お願いします」


──────────────────────────────────────


 セリウスが図を見た。


「冒険者ギルドの視点で言うと」


 セリウスが続けた。


「この形は、外から攻めにくい。ただし、内側から守りやすい。守る人間の数が少なくても、機能します」


「そうです。多くの兵力がなくても、この設計で対応できます」


「理にかなっている」


 セリウスが静かに言った。


「こういう設計を最初から描ける人間は、中央でも多くない」


「現場で考えると、自然にこうなります」


「現場で、ですか」


「建設現場で、どこに何を置けば一番効率が良いかを考えてきました。防衛の設計も、同じ考え方です」


 セリウスが少し間を置いた。


「なるほど」


──────────────────────────────────────


 アーヴィンが図から目を離した。


「これが答えだ」


 アーヴィンは図を見たまま言った。


「騎士団の配置を変える。五個分隊を稜堡に対応させる。各分隊が一つの角を守る。それで全体が機能する」


「分隊の配置を決めてもらえますか」


「決める。ただし、外堀が完成してからが本番だ。それまでは仮配置で動く」


「了解です」


 ヒコが三人を見た。


「段階的に進めます。急ぎません。ただし、方向は決まりました」


 ガッツが頷いた。


 セリウスが頷いた。


 アーヴィンが頷いた。


──────────────────────────────────────


 午後、マユミが来た。


「近衛の件、決めたい」


「聞かせてください」


「人選が終わった。三名を選んだ」


 マユミが三名の名前を告げた。


 新人の中から選んだ者が二名。


 外部から来た冒険者が一名。


「基準は何ですか」


「私が信用できると判断した人間だ。説明は省く」


「分かりました」


「今日、正式に発足させる」


 夕方、近衛の三名が集まった。


 マユミが前に立った。


「今日から、フォルテス領主の近衛として動く。やることは一つだ」


 三名が黙って聞いた。


「ここを守れ」


 それ以上の説明はなかった。


 三名が頷いた。


 近衛専用の装備が支給された。


 軽量型鎧。ガデルが用意していた。


 そして近衛を示すマントが支給された。


 マユミが一人ずつ確認した。


「動けるか」


「はい」


「問題ない」


「いつでも」


「良い」


 マユミが短く言った。


──────────────────────────────────────


エピローグ


 アーヴィンは夜、訓練場の端に立っていた。


 星が出ていた。


 羊皮紙に描かれた形を思い出した。


 星形。


 五つの角。


 ヒコが「全部、繋がっています」と言った。


 その言葉を、アーヴィンは正確だと思った。


 繋がっている。


 石壁が、堀が、稜堡が、射線が。


 全部が一つの守りになっている。


 アーヴィンは外套の内側を触れた。


 青白い石があった。


 レインの遺留品だった。


 レインは前に出る人間だった。


 アーヴィンは後ろを守る人間だった。


 それがずっと、二人の役割だった。


 今は、ヒコが前に出る。


 アーヴィンが後ろを守る。


 マユミが隣を守る。


 形が変わっても、やることは変わらなかった。


 アーヴィンは空を見た。


 これで守れる。


 そう思った。


 レインに言えるかどうかは、まだ分からなかった。


 ただし、今夜は、そう思えた。


 それだけで十分だった。



 第186話 要塞の設計 了

【次回予告】

 ヴェノムが個体化した。


──────────────────────────────────────


【領地収支・雷鳴月下旬時点】


・所持金:金貨361枚(-5)

 支出:蒼鋼専用保管庫建設 金貨5枚


 収入見込み:雷鳴月外部取引精算(月末)

 支出見込み:西側石壁継続

       近衛装備支給 銀貨数枚(今回)

       見張り塔   金貨3枚(来月末)


【発展進捗・第186話時点】


・防衛:100%(要塞全体設計確定・近衛正式発足)

・食料:98%(継続)

・水 :94%(継続)

・住居:80%(継続)

・インフラ:100%(継続)


 今日の進捗:ヒコが五稜郭型要塞の全体設計をガッツ・セリウス・アーヴィンに説明。ガッツ「できる」・セリウス「理にかなっている」・アーヴィン「これが答えだ」。建設フェーズ第一段階完了・第二段階(外周接続)へ移行確認。マユミが近衛三名を正式発足(「ここを守れ」)。エピローグ:アーヴィン視点(レインへの思い・「これで守れる」)。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ